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月の夜に  作者: カノン
33/42

別の扉(4)

 ジュエルは段々とこの現実に目を向け始めた。



 愛しい人を、自分の何もかもを、大事な弟が殺そうとしている。

 弟の姿形まで変わって。



 自分はこの国を、民を守らなければいけない。

 フィーリアとその子も




 ジュエルは腰につけていた刀を掴み、カイルに振り下ろした。



 カイルは一瞬驚いたような顔をしたようだったが、直ぐにあの恐ろしい形相に戻り、ジュエルの刀をうまく避ける。


 ”我が兄ジュエル。この時が来た。

 俺はお前の大事な物を一緒に守っていくつもりだった。

 だかお前は、俺のことなど忘れて行った。


 お前にとっての大事なもの、フィーリアも、子供も、俺が奪ってやった。

 これからはこの国も、民も全て俺が奪ってやる”




 ジュエルがカイルの元を訪れなかったのは、カイルに何が起こったのか、あの薬のことを調べていたからだった。

 決して、カイルのことを忘れたりしたせいでは無かった。



 時はもう遅い・・・

 2人は戦った。

 周りに居る者が入る隙間もないぐらい。

 真っ黒な空に、雷が響き渡る。


 力は互角。

 戦いは続き、終わりがないかのように感じられた。

 



 疲れ果て、

 最後の力を振り絞り、

 ジュエルはカイルの胸に、

 とうとう剣を突き立てた。



 ”何故こんなことに・・・!”



 色々なことが頭の中によぎった。

 幼い頃の事、一緒に過ごした時間。

 誰よりも側にいた。

 ずっと一緒だった。

 長い時間一緒にいた。



 その弟に、剣を突き立てる



 カイルは苦しみながら消えていく。彼の体が透明になり、砂となっていく。




 ”呪ってやる、永遠に。

 どれだけの時が過ぎて行こうが、この憎しみは消えはしない。

 この肉体は失くなろうとも、我が魂は消えない。

 すぐに新しい肉体に宿り、呪いをかけ続けよう。

 永遠に続くこの呪いを、ジュエルに!”



 それがカイルの最後の言葉だった。



 倒れたフィーリアを急いで抱き抱えるジュエル。

 彼女は既にこと切そうだ。



 ”ジュエル、私を誓いの丘に連れて行って”



 やっとのことで、フィーリアが話した言葉



 ”ダメだ、助けを!直ぐに医者を!フィーリア、愛しいフィーリア、君まで行かないで!”


 

 苦しみながら微笑むフィーリアが、再度呟く、


 ”誓いの丘に連れて行ってジュエル。

 最後のお願い”



 

 ジュエルはフィーリアを抱き抱え、彼女の望みを叶えるため、丘へ向かった。




 以前は何もない丘に、樹が1本生えているだけだったが、

 ジュエルが王になると決まった頃から、カイルと民がジュエルの為に城を作ってくれた。

 今では誓いの丘は、ジュエルの城内にある。



 ジュエルが王になり、

 海の王国の属国となることを希望した世界の王達が、

 この樹の元で忠誠を誓った。


 樹のそばに己の剣を翳し、忠誠を誓う。

 その後、その剣を樹の根本に突き刺すと、剣が飲み込まれたかのように消えるのだ。

 これが忠誠の証となる。


 それで誓いの丘と呼ばれるようになった。


 小さかった樹は、徐々に大きくなり始めたいた。

 フィーリアは、樹のそばに下ろして欲しいと言う。


 彼女の望みどおり、樹の根元に下ろした。


 青ざめ、息絶え絶えのフィーリアがやっと落ち着いたかのような表情を浮かべた。



 ”ジュエル、私のジュエル。

 後のことをお願いね。

 私はこの子と貴方を見守りましょう。


 悲しまないで、私はここにいます。

 あなたの側に。

 この子も”


 そう言い残し、フィーリアは息絶えた。



 

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