別の扉(3)
また時が過ぎ、フィーリアが懐妊したと耳に入って来た。
嬉しいと思ったが、次に考えたのは、
(もし自分がフィーリアの夫だったら?
王だったら?)
カイルは変わり始めていた。
(自分はずっとこの病室で、何も自由にできない。
マーキラは献身的に世話をしてくれるが、彼女に愛情は無い。
自分が幼い頃から好きだったのはフィーリアだ。
だがフィーリアより大事なのは、兄のジュエル。
彼の為に、彼の国の為に、一生懸命尽くすつもりだった。
それが今では、体も動かず、だたの錘だ。
これでは何の役にも立たない。
いっそ自分など消えてなくなってしまえば良いのでは?)
こんなことを考え始めていた。
小さなお姫様が、今日もお見舞いに来てくれた。
”エレン”
誰とも会いたくは無かった。
でもエレンだけは別。
何故かこの小さな女の子はだけは安らぎを与えてくれた。
子供だからなのか?
迎えにくるはずの父親は来ず、結局ジュエルたちと暮らしている。
彼女にだけには、毎日でも会いたかった。
”今日も来てくれたのかい?僕の小さなお姫様?
一体今度は、どんな悪戯をやらかしたのかい?”
カイラはいつも通り優しかった。
エレンは日々の出来事を、カイラに話に来るのが日課になっていた。
そして、カイルが日に日に弱っていくのを感じていた。
”カイル?今日はご機嫌いかが?何だか食欲がないみたいだけど・・・?”
大人のような口ぶりで、エレンが尋ねるが、
カイルは決まって、
”大丈夫さ、お姫様。
いつものように、君の楽しい出来事を話してくれないかい?”
こう答える。
だがカイルの衰弱ぶりは、更に酷くなった。
エレンは以前カイルが飲んでいたと言う薬が気になっていた。
実はカイルが事故にあってから、薬が消えたのだ。
誰かが盗み、処分したとしか考えられない。
でも誰が?
エレンは、こっそりとその薬の1部を取っておいた。
それをジュエルに渡し、成分を調べてもらっていた。
時が過ぎた。
”僕らの小さなお姫様エレン、君は僕に不思議はお薬をくれたよね?
あれはどこから見つけて来たんだい?”
ジュエルがエレンに尋ねてきた。
”カイルのお薬よ。カイル頭が痛くなるとあのお薬を飲んでいたの。でもね、あれを飲むと、その後カイルなんだか変だったの。元気がなくなって。
だから捨ててしまおうと思って、あのお薬を取って置いたの。”
合点が言った!
と言う顔をするジュエル。
このところ、ジュエルは忙しく、カイルの元へ行く回数が減っていた。
実は、このエレンから受け取った薬のことを調べていたからだった。
この薬は、この国には無い成分で作られていて、人魚が飲むと死んでしまうような毒だった。
少量だからだが、これをカイルが飲んでいたと言う。
しかも医者から処方されて。
ジュエルはカイルに起きていた、異変に気づいていなかった自分を責めた。
そして、万が一を考えて、フィーリアを誰もしらない場所へ隔離させていた。
彼女は今妊娠している。
なんだか不安が過った。
ジュエルは兵を伴って、カイルのいる病院へ向かった。
病室には誰も居なかった。
カイルが居ない。
”あんな不自由な体で、一体どこに!カイル、無事でいてくれ。”
”カイルを探すんだ!一刻も早く!
更に胸騒ぎがする。
直ぐにフィーリアの元へ向かった。
側近の者でも知らない場所に、フィーリアは居るが、カイルに毒を盛っていた者がこの国にいる。
彼女にも何が起こるか分からない。
まるで風のように、急いでフィーリアのところへ泳いでいくジュエル。
城に着き、誰も知らない秘密の海道を通り、フィーリアのいる場所へ向かった。
信じられない光景が目の前に起こっていた。
フィーリアの首元を、何者かが噛みついている。
血を流しながら、崩れるような格好のフィーリア。
ジュエルに気付き、そちらを見たその化け物の姿は、誰かに似ていた。
黒い髪、真っ赤な血のような瞳。長い牙。
大きな黒い羽を持っているが、それは
カイルだった・・・・・
今までの金色に美しい青い瞳の面影を残してはいるが、容貌はすっかり変化し、
生まれた時から一緒にいる弟カイルとは、すぐには分からなかった。
”フィーリア”
ジュエルがフィーリアの名を呼ぶと、真っ青な顔のフィーリアが、こちらを向きながら倒れた。
”感じる。力がみなぎってくるのを。
フィーリアと、その子供の力。
つまりジュエルの力と同じだよ。ジュエルの子供だからね。
あーあ、やっと力が湧いてくる様だ!”
フィーリアの首から離したカイルの牙には、血が滴っていた。
カイルが、フィーリアが
考えたことのない現実に、ジュエルは膝をつき、己を失ったかのように放心していた。
”カイルーーーーー!”
地鳴りのような低い声で、思わずカイルを呼ぶジュエル王
その声が聞こえたのか、衛兵達が走ってくる。




