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月の夜に  作者: カノン
32/42

別の扉(3)

 また時が過ぎ、フィーリアが懐妊したと耳に入って来た。


 嬉しいと思ったが、次に考えたのは、

 (もし自分がフィーリアの夫だったら?

 王だったら?)



 カイルは変わり始めていた。





(自分はずっとこの病室で、何も自由にできない。

 マーキラは献身的に世話をしてくれるが、彼女に愛情は無い。


 自分が幼い頃から好きだったのはフィーリアだ。


 だがフィーリアより大事なのは、兄のジュエル。

 彼の為に、彼の国の為に、一生懸命尽くすつもりだった。


 それが今では、体も動かず、だたの錘だ。


 これでは何の役にも立たない。


 いっそ自分など消えてなくなってしまえば良いのでは?)


 こんなことを考え始めていた。





 小さなお姫様が、今日もお見舞いに来てくれた。


 ”エレン”


 誰とも会いたくは無かった。

 でもエレンだけは別。

 何故かこの小さな女の子はだけは安らぎを与えてくれた。

 子供だからなのか?



 迎えにくるはずの父親は来ず、結局ジュエルたちと暮らしている。



 彼女にだけには、毎日でも会いたかった。



 ”今日も来てくれたのかい?僕の小さなお姫様?

 一体今度は、どんな悪戯をやらかしたのかい?”


 カイラはいつも通り優しかった。



 エレンは日々の出来事を、カイラに話に来るのが日課になっていた。

 そして、カイルが日に日に弱っていくのを感じていた。



 ”カイル?今日はご機嫌いかが?何だか食欲がないみたいだけど・・・?”


 大人のような口ぶりで、エレンが尋ねるが、

 カイルは決まって、


 ”大丈夫さ、お姫様。

 いつものように、君の楽しい出来事を話してくれないかい?”


 こう答える。



 だがカイルの衰弱ぶりは、更に酷くなった。




 エレンは以前カイルが飲んでいたと言う薬が気になっていた。

 実はカイルが事故にあってから、薬が消えたのだ。

 誰かが盗み、処分したとしか考えられない。

 でも誰が?




 エレンは、こっそりとその薬の1部を取っておいた。

 それをジュエルに渡し、成分を調べてもらっていた。





 時が過ぎた。



 ”僕らの小さなお姫様エレン、君は僕に不思議はお薬をくれたよね?

 あれはどこから見つけて来たんだい?”


 ジュエルがエレンに尋ねてきた。



 ”カイルのお薬よ。カイル頭が痛くなるとあのお薬を飲んでいたの。でもね、あれを飲むと、その後カイルなんだか変だったの。元気がなくなって。

 だから捨ててしまおうと思って、あのお薬を取って置いたの。”




 合点が言った!

 と言う顔をするジュエル。




 このところ、ジュエルは忙しく、カイルの元へ行く回数が減っていた。



 実は、このエレンから受け取った薬のことを調べていたからだった。



 この薬は、この国には無い成分で作られていて、人魚が飲むと死んでしまうような毒だった。


 少量だからだが、これをカイルが飲んでいたと言う。

 しかも医者から処方されて。


 ジュエルはカイルに起きていた、異変に気づいていなかった自分を責めた。



 そして、万が一を考えて、フィーリアを誰もしらない場所へ隔離させていた。

 彼女は今妊娠している。



 なんだか不安が過った。


 ジュエルは兵を伴って、カイルのいる病院へ向かった。


 病室には誰も居なかった。



 カイルが居ない。


 ”あんな不自由な体で、一体どこに!カイル、無事でいてくれ。”

 ”カイルを探すんだ!一刻も早く!


 更に胸騒ぎがする。





 直ぐにフィーリアの元へ向かった。



 側近の者でも知らない場所に、フィーリアは居るが、カイルに毒を盛っていた者がこの国にいる。

 彼女にも何が起こるか分からない。



 まるで風のように、急いでフィーリアのところへ泳いでいくジュエル。




 城に着き、誰も知らない秘密の海道を通り、フィーリアのいる場所へ向かった。




 




 信じられない光景が目の前に起こっていた。



 フィーリアの首元を、何者かが噛みついている。

 血を流しながら、崩れるような格好のフィーリア。



 ジュエルに気付き、そちらを見たその化け物の姿は、誰かに似ていた。


 黒い髪、真っ赤な血のような瞳。長い牙。

 大きな黒い羽を持っているが、それは



 カイルだった・・・・・



 今までの金色に美しい青い瞳の面影を残してはいるが、容貌はすっかり変化し、

 生まれた時から一緒にいる弟カイルとは、すぐには分からなかった。



 ”フィーリア”



 ジュエルがフィーリアの名を呼ぶと、真っ青な顔のフィーリアが、こちらを向きながら倒れた。




 ”感じる。力がみなぎってくるのを。

 フィーリアと、その子供の力。

 つまりジュエルの力と同じだよ。ジュエルの子供だからね。

 あーあ、やっと力が湧いてくる様だ!”



 フィーリアの首から離したカイルの牙には、血が滴っていた。



 カイルが、フィーリアが



 考えたことのない現実に、ジュエルは膝をつき、己を失ったかのように放心していた。



 ”カイルーーーーー!”


 地鳴りのような低い声で、思わずカイルを呼ぶジュエル王

 その声が聞こえたのか、衛兵達が走ってくる。



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