紫の風(3)
ユニコーンが消えると、そこは侯爵家の庭だった。あのガーデンパーティーの行われた場所。
今も、卑劣な笑いを浮かべた者達がそこに集まっていた。
カリエンヌの手に現れた太陽の紋様が、さらに濃くなり赤くなった。
エラゴラが文様の上に止まった。
すると、彼女の羽の文様の金の部分から光が差し、ユニコーンの角が現れ、その場にいた者達の目や口に光が当たり、焼き尽くし始めた。
苦しむ参加者を見ながら、エラゴラは、
”貴方達が私たちから奪ったものを返してもらいます。
私はこの国の女王、ライリー。
貴方達を許しません”
皆が焼き尽くされていく。
侯爵も苦しみ悶えながら、あの君の悪い目も、口元も焼かれていく。
そして残ったのは、真っ白な布のような塊。
表情も、体型も服も無い。
ライリーは彼らを羽で吹き飛ばした。
白い布達はヒラヒラとどこかへ飛んでいってしまった。
”エラゴラ?ライリー?貴方は一体?女王なの?”
カリエンヌはライリーに尋ねる。
”びっくりした?カリエンヌ。
私の本当の名前はライリー。この国の女王なの、女王と言っても大した力はないのだけど。
皆んなが楽しく幸せに過ごせるように、と願うだけしかできないような女王よ。
あなたと出会った時は、羽の色を変えていたの。
私の羽、自由に色が変わるのよ。
女王の時は赤と金色。普通の時はピンク色。起こった時はオレンジ色とかね。
今まで黙っていてごめんなさい。
でも貴方も私に本当のこと言ってないでしょう?
貴方は地上と海の世界を納める、べレノア国の王女でしょう?
初めて見た時すぐ分かったわ。
でも何も言わないから、事情があると思って、私も聞かなかったの。
素性も隠していたし。
それでも、貴方と一緒にいて、普通の女の子ではないオーラを感じたわ。
案の定、侯爵も紫ドラゴンも倒してくれた。
ありがとう。皆のことも助けてくれて。
あの白い物体は、遠い国にいる、同じような種族なのだけど、彼らは真っ白なの。
何も望まず。何もせず。ただ揺らぐ一族。
その彼らが、なぜあんなことをしたのか。”
カリエンヌには、なんとなく思い当たることがあった。
でもそれは黙っていた。
”カリエンヌ姫、知っている?貴方のお母様、王妃様は私達の国から出た妖精なのよ”
(は?)
私の母は人魚だ。見事な鱗をもち、美しい。
でも、声が出ない。
カリエンヌは母の声を1度も聞いたことがない。もう亡くなっているからなのだが・・・
(母が妖精?羽もないのに?)
”遊学していた王様と出会って恋に落ち、結婚が決まったの。
でも妖精でしょう。羽があるから、海中での生活は難しい。
別居結婚も考えたお二人らしいのだけど、やはり一緒にいたいのは当たり前。
王妃様は妖精の中でも一番声が美しい方だった。彼女は、ご自分の声と引き換えに人魚となったの。進化するには、時間がかかるから。だから、声が出ないのよ。
でも貴方の歌声は、女王様そっくり。
ご自分の声が出なくても、貴方に受け継がれたのなら、きっとお幸せでしょうね!”
母が亡くなている事を知らないライリー。
兄達が言うには、
母はいつも優しく微笑む人だった。
声が出ないので、怒ったり、怒鳴ったりすることは見たことがない。
いつも子供達を優しく見つめてくれる人だったと。
あの母が、妖精だったとは。
肖像画で見た母は、可憐で、どこかキュートな美しさは、妖精と言われると納得する。
だが、私にその要素は一切受け継がれなかったようだ。
心の中で、思っていたことを、なぜかレイリーは読み取ったらしい。
”貴方も十分美しくなるわよ!”
(なるわよ?)
今はそうではないと肯定された気がした。
(まあいいか)
”今更だけれど、カリエンヌ姫。なぜ貴方がここにいるの?その上、素性を隠して1人で突然現れるって。何があったの?”
ライリーに改めて聞かれると、カリエンヌは何から話したら良いのか、困惑の表情で話し始めた。
キヌリアと過ごした時間。
父である王から伝えられた、王家の継承。
空の国で見た吸血事件。
そして3つの試練
これが1つ目の試練なのだと。
ライリーは体こそ小さな妖精だが、実はいくつもの時を過ごしてきている。
本当はoooo歳。秘密
だからなのか、お姉さんというよりも、先に生きる者的な貫禄で、こう言った。
カリエンヌの手の平に止まり、エラゴラはこう言った。
”カリエンヌ姫、どれだけの歳月が過ぎようが、この先いく難あろうとも、私たちは貴方に忠誠を誓います。
貴方は私達の国を取りまとめる女王。
どんな苦難も共に乗り越えましょう。
我が国は、貴方と共に。
私は貴方の一部となりましょう。
だから、心配しないで。貴方が私達の国を救ってくれたように、全ての民、国が幸せに暮らせる時が来るはず。
我が女王に、皆の忠誠を!”
そう言って、皆カリエンヌに頭を下げた。
この先を進む勇気をもらった気がする。
一方、カリエンヌはなぜこの国にこんな出来事があったのか、その理由も知っていた。
”ライリー、私貴方に話していない事があるの。
なぜ貴方の国に、こんな事件が起こったのか。
それは、私のせいだと思う。”
ライリーは何もかも承知した顔でこう言った。
”皆幸せです。
こうやってまた前のように過ごせます。
それで十分。貴方が何かを詫びる必要はありません。
カリエンヌ姫、次の世界へ進んでください。
ここでは貴方の使命は果たせなかったようだから。
きっと叶う。貴方の望みは。
必要な時は私を呼んで。
どこにいても、貴方の元へ駆けつけます。”
気づくと、カリエンヌの右手、太陽のシンボルの下に、白い剣と赤い蝶の印が浮かび上がった。
ユニコーンの剣と、ライリーの羽。
”さあカリエンヌ姫、私達が貴方を送りましょう。”
そう言って、妖精は歌い、皆が揺らぎ、そして花が舞う。
芳しい匂いの漂う中、カリエンヌは風に揺られ、だんだんと眠りについていった。”
そんな2人を遠くから見つめるものがいたとも知らずに。




