表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/122

流転2

 考えた挙句伝えた言葉は、

「目の前の女の子が泣いているような状況は、決して正しくはありません。感情に流されず、冷静に心に問うて最適解を考えてください」

 という、占いっぽさのない具体的な、だけど何を言っているのかよくわからない内容になってしまった。


 でも、それだけ印象には残せたはず。

 まさにこの場面という状況になれば否が応でも思い出すのではないか。ましてその出来事は早ければ今日、遅くても近日中に訪れるはずなのだから。

 もしビジョンの中の私も同じことを言い、その結末を迎えたのだとしたらどうしようもないが、変えたいものを変えられないまま、視え続ける人生を、それこそ変えたいと思っていた私のためにも、その男性がより良い道を往けるよう心から祈った。



 その祈りが届いたのか。

 今目の前にいる女性客から視えた冒頭のビジョンは、数日前に視た男性のシーンと非常に似通っていた。

 視えたものが同じだとするなら、彼の行末の良し悪しは、彼女にとっても影響を与えるものということになる。

 彼が生きながらえることが、彼女にとって幸福なのか不幸なのかはわからない。例えば彼が彼女を殺害するという未来があったとしたら、彼が亡くなればその未来は消えることになる。


 今まで変えられないものと思っていたからさほど意識はしていなく、目の前の人が救われたら良い程度にしか思っていなかったが、その結果による因果が誰にとっても良いものであるとは限らないことに、今更ながら少し恐怖を覚えた。

 しかし、そもそも変えられるなんてのも傲慢な思い過ごしかもしれないし、視えた死と良し悪しどっちに転ぶかわからない結末を天秤にかけて、人の死を見過ごす選択肢を選ぶという気にはなれなかった。

 なにより、彼女のビジョンから読み取れた感情の色はおそらく彼への深い悲しみと憐れみと慈しみだ。

 彼を救うことが彼女の人生への影響がマイナスに働くとは思えなかった。



 決めるのは彼だ。

 その彼に決めさせるためのなにかを、彼女が担っているのだ。


 彼女になんて言えば、彼女に何を言わせれば、先日彼に伝えた言葉を、より強いものにできる?


「近いうち、早ければ今日飲み会などのご予定はありますか?」


「え!? すごい! さすが『隠れ名占い師百選』に載ってる占い師さん! 何でわかるんですか? 今日あるんです! 楽しみー」


 表情がころころと変わる女性客で好感が持てる。

 それにしても、私はいつの間にか変な雑誌に載っていたのね。でも当たりだ。ついでに信頼感も得られたっぽい。


 彼女からはこの後会うであろう人々、またはその場に対する掛け値のない喜びと期待の色が視えた。

 そんな感情を向けられる対象を救うのに躊躇いはいらないだろう。


「よく聴いてください」

 厳かな声を出す。普段はあまりやらない占い師っぽい演出を心がけた。


「貴女は今日、人生を左右する会話をすることになるかもしれません」

 彼女は真剣そのものの表情で聴いてくれている。


「場合によっては相手と喧嘩のようになってしまい、とても悲しい思いをするでしょう。その時は、いい? 思いっきり泣いて、悲しい気持ち、辛い気持ちをストレートに相手に伝えて。自分が何でそんなに悲しいのか、相手をどう思っているのか、何もかも包み隠さず全部話すのです」

 いつの間にか厳かな雰囲気を忘れ、語りかけるようになってしまった。

 ついつい力が入った言い方になってしまったが引いてないだろうか。


「それだけ?」

 肩透かしを食らったような顔だ。少なくとも引いてはいないようだが、果たして信じてくれているだろうか?


「それだけです。ですが大事なことです」


「大丈夫! わたしはいつだって全力投球です!」

 信じてくれてはいそうだ。でも、いつも通りじゃダメかもしれない。


「いつも以上に、できますか?」


「わたしのエモーショナルをアンリミテッドにブレイクスルーさせたら良いですか?」


 何を言っているのだろう?

 ただ、私の言葉を真剣に捉えようとしてくれているのはわかった。

 それも嬉しくて、なんとかこの目の前のふわふわした髪をした可愛らしい女性に不似合いな不幸は遠ざけてあげたいと思ってしまっていた。


「よくわかりませんが、限界を超えてください!」


「良いですね! 限界は越えるためにありますもんね! よしゃ、やってみましょう‼︎」


 やる気になってくれたようだ。

 何のやる気なのかは私も彼女もよくわかってないが、そんなことは関係ない。その時が来たら、これがそうかとわかれば良いのだから。



 彼女は満足そうに帰っていった。

 外で待っていたのは友達だろうか。記憶にある女性だった。近隣の住人か、商店街の人だったかもしれない。商店街には恩もある。その関係者が不幸に見舞われないよう、あとは祈るだけだ。



 人生なんて脆いものだ。言い方を変えれば、不安定だ。

 逆に言えば、人生は変えられる。変える余地なんていくらでもあるはずなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ