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流転1

 私は子どもの頃から勘が良いところがあった。


 この後に起こる危険を察することができた。予知能力のように。


 人の感情を色で感じることができた。読心術のように。


 それは災害が起こる前に察知するネズミのような、飼い主の感情を読み取れる犬のような、動物が備えている第六感だったのかもしれない。

 けれど私は、幼心にそれを超能力や霊能力のような特別なものと捉え、肥大化させていった。


 それは大々的に自慢するようなものではない。特別な存在は目立てば無能力者から迫害されたり国家権力に利用されたり、悪い組織から狙われたりするものだ。

 神秘は密やかでなくてはならない。

 だから占いという体裁で、友達にちょっとしたアドバイスをするといった使い方をしていた。


 それでも小学生の頃は他のクラスや学年の子が占ってほしいと言ってくるなど、少し有名になりかかった。

 有頂天になる気持ちもあったが、それ以上にあまり目立ってはいけないとの思いがあり、なるべく具体的なことは言わないようにしていた。視る機会が増えたからか、精度は少しずつ上がっているような気がした。


 ただの勘の良さだったものが、脳裏に断片的なビジョンを描くようになっていたのは、己が特別なものであるとの思い込みの力によるものだろうか。


 誰とも共有できない感覚について、私は何人もの相手を視て分析と仮説を立てた。

 おそらく視る相手の人生が十数秒の間にパラパラ漫画を高速にしたように流れている。

 期間は現在から一年後くらいだろうか。当然、十数秒の間に一年を早送りで観せられても、何一つ把握なんてできはしない。

 しかしビジョンは、一年間の中で象徴的な、たとえばその相手の人生に影響を与えるような出来事は強調されて映され、認識することができた。


 あともう一つ。


 一年以上先の未来がない場合は、その人の最期のシーンでビジョンが終わるため認識できた。


 自分ができることを理解するために、利益は求めず、できるだけ最低限の経費で多くのサンプルを得ようとたどり着いたのが現在の業態だ。


 親族が経営している駐車場の一角にある管理室を間借りし、特別な装飾などはせず、空いている時間のみの不定期営業で一回十五分から三十分程度で五百円。

 一年の間にピンポイントで人生に影響を与えるような出来事が待ち受けている人などそれほど多くはないが、なんらかのビジョンを認識できた場合の的中率は高かった。

 ビジョンが見えない多数のケースについては、視えた色に基づいた性格診断のような話でお茶を濁していたが、それはそれで動物占いのように喜んでくれる人が多く、永年の積み重ねで知る人ぞ知る程度の評判を得るに至った。


 数多のサンプルを通して理解できたのは、能力の特性と、限界だった。

 限定された条件下で、その瞬間の場面がわかったとて、それが何になるのだろうか。


 当てることはできても、それだけだ。

 変えることはできない。



 例えば先ほど視た男性。

 私と同年代のように思えた。

 まだ若いと言って差し支えのない男性の、最期のシーンが視えた。

 一年以内に亡くなるのだろう。たまたまこの付近だったため、場所も何となくわかる。おそらく河川敷の近くだ。白く見えたものは雪だと思う。時期は冬なのだろう。


 でもそれだけ。

 何月何日何時なのか明確にわかればともかく、何となく雪が降る時期の明け方か夜の手前ごろ、亡くなるかもしれないから気をつけろと言われても、何をどう気をつければ良いのだろうか。


 その男性の場合、珍しいことに人生を変えるような場面のビジョンが冒頭に現れた。

 今日このあとなのかもしれない。視えた感情の色は怒り。何に対してかはわからない。ただ、その感情に身を委ねるのは良くない気がした。


 ビジョンの中の彼は、その人生の中で同じように私の元を訪れたのだろうか。

 訪れていたとしたら、私は何と言ったのだろうか。


 心のまま、自分に嘘をつかないように伝えようと思った。


 でも、冷静でない時に心のまま在ろうとすれば、表面的な怒りの感情こそ従うべき心だと思われてしまうかもしれない。

 心の奥底の本当の気持ちには気づかずに。

 そもそも思い出してももらえないかもしれない。もっと確実で的を絞る必要があると思った。

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