手紙
前略 突然の手紙、驚いていると思う。連絡がこんな形になってしまって申し訳ない。
手紙がつくタイミングは悩んだんだ。
イベント前だと動揺を与えてしまうかな? だけど消息不明みたいな状態のままだと、探したりされてイベント当日に影響与えるかも……とかね。
堂々巡りだったけど、どちらにしてもショックを与えるのなら、事前に事実を知っておいた方がいいだろうと思って、イベントの前に届くように手配させてもらった。
アキなら事実を情報として捉え、それを基に自分をコントロールできると思うから。と言いつつ、アキは意外と勘が鋭いから、しばらく連絡取れないって伝えた時点で薄々勘づいていたかもしれないね。そうだとしたら追求しないでいてくれてありがとう。
なにがどうなっているのか、簡単に言えば、馬門との協業解消に関する残務処理ってとこかな。
俺たちはあの業界の連中を甘く見ていたのかもしれない。縁を結ぶのは簡単でも、切るのは容易じゃないなんて、むしろフィクションなんかで散々描かれているのに、それでも手玉に取れると、妙な自信があったからなぁ。
実際、俺たちが組めばどんな仕事だって上手くいったし、就職も転職も起業も、予定通りで思い通り。万能感に浸っていたよね。そのツケとしては、アキは重すぎるものを払った。だから残りは俺に払わせてほしい。
と言ってもそんなに大した話じゃないんだ。
アキは鋭いし、誤魔化されるのは嫌だろうし、俺も誤魔化したくないから本当のことを書くよ。
要は外国で馬門の仕事を手伝うってだけ。合法とまでは言えないけど現実は見逃されている程度の範疇の仕事で、切った張ったの世界で鎬を削るなんてことはないから安心してほしい。
治安も日本に比べれば良くはないけど、日本の観光客も多い国だよ。だけど連絡はできなくて、この手紙も馬門の検閲が入っている。具体的な居場所や連絡先も伝えられない。
裏を返せば、ここに書かれている内容は全て伝えても差し支えないってこと。
烏我さんに確認した上で書いているから、消されている箇所も無いと思う。期間は正直見えてないけど、五年から十年くらいかなって思っている。
思えば、二十年一緒に走ってきたね。
人生の三分の二以上だ。アキがいたから、ここまで来られた。本当に感謝している。
次の十年は、それぞれ別の道で己を磨くってのも悪く無いかもと思い始めているよ。
次に会った時に、お互いが身につけたもの、得たものを合わせてさ、今度は本当にやりたいことを大きな力を以てやれたら爽快だろうななんて思ったり。
十年後でもまだ四十代だ、楽しみでしかないよ。
しつこいかもしれないし、わかってくれていると思うけど、全部本音だから。
俺が気に病んでも後悔してもいないことで、アキが悩んだり自分を責めたりするのだけはやめてほしい。
今心残りがあるとしたらひとつだけ。
アキたちのサンバが観られないことかな。
多分その頃、俺は既に異国の地にいるはずだ。遠いけど、同じ空の下で、イベントの成功を祈っているよ。
それじゃ、またね。 草々