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太陽と星のバンデイラ  作者: さくらのはなびら
日が落ち星が隠れたとしても
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決意と意志3

 羽龍は集まった情報を整理しつつ、最善手を探す。

 脅しならば、要求があるはずだ。これだけ合理的な考え方で動いている連中だ。まさか暁に害を為しけじめをなどとは言い出すまい。

 取引相手ではあれど民間人に施行する報復としては度が過ぎていて、本気か材料として使っているだけなのかはわからないが、面子云々にも矛盾する。そもそも旨味がない。

 シンプルな脅しにはシンプルな要求が妥当に思えた。金銭で方がつくならそれで良い。願わくばスポット的な支払いで済ませられれば良いが、それほど甘くはないだろうなと羽龍は覚悟を決めながら、どの程度なら支払いに耐えられるか、定期的な支払いを捻出できるようなプランが組めるかなどを同時に検討していた。


「何を望んでいますか? 今後の仕事とおっしゃいましたね。佐田や市政と繋がって息の長い展開を想定していましたか?

そんな思惑は端から契約にはないことだ。狙いが外れたとしても追加で払う義理はない。というより、脅されてもごねられても、望みに相当するような金額などとても……無いものは交渉のテーブルに乗せられない」


「わかっています。そんな無駄なことに時間を使うつもりはありませんよ」


 やはり合理的だ。脅しを常道とするような連中ではあるが、メンツにこだわるだけのことはあり、無理な筋を通そうとはしない。これも今の社会でこの手の者が生き抜いていくための術なのか知恵なのか。

 それならば、明確な、且つ筋道の通った着地があるはずだ。感情論による強引な要求でなければやりようはあるはず。

 羽龍はまず、相手の意図を明らかにしようと考えた。


「なら」


 羽龍の言葉に被せるように烏我は話を続ける。

 烏我自身、無駄な時間を使わないと言っていた通り、のらりくらりとやり取りを続けるつもりはなさそうだった。羽龍を言葉でいたぶることが目的ではないのだ。


「先ほども言いましたがうちは弱小でね。あたしみたいな学のない者まで経済系の真似事させられているんですわ。

そうですな、例えばあんたと高天くんには、民間側のうちの窓口になってもらうってのはどうです? それこそ、末永くお付き合いできればとね」


 羽龍の想定を超えた要求だった。


「まあお気づきかもしれませんが、あんたらと取引するにあたって、失礼ながらおふたりのことは調べさせてもらっていまして。

弱小組織の調査能力などたかが知れていますが、おふたりの地元は近隣ということもあってそれなりに価値のある情報は得られたと自負しているんですがね、おふたりの目的に対しての計画性は素晴らしい。それ以上に目を見張るのは執着! これは実にうちらの業界向きです。若い連中にも見習わせたい。講師などもお願いしたいくらいだ」


 まあ、講師などというのは冗談だとしても、と可笑しそうに言う烏我。


 冗談じゃないと羽龍は思った。

 それは二度と引き返せない道だ。

 目的は失った。

 然程執着するに値するものはもう無い。

 そんな羽龍が唯一護るべきものは、まさに今、拘泥していた執着から強い意志で抜け出ようとしている暁だ。

 その暁に再び、更に昏い道を往かせる選択肢などない。


 では、どうする?

 羽龍は自らが切っても良い強力なカードに何があるのかを考えた。


「そういう意味でも協力関係を結びたいんですよ。そうすれば単発の依頼人じゃない、末永いパートナーだ。お考えも尊重されますし、会にとっての重要人物やその属するコミュニティを、間違っても害為す真似はさせられませんな」


「それは……私だけお世話になると言うわけにはいかないでしょうか?」


 羽龍の提案は単に要求の減額だ。

 そのまま通るとは考えていない。羽龍は妥協点を探せないかを見極めたかった。


「んー、何を望むかと問われましたな。ご想像の通りですよ。その望みの等価を、現金で用意するのは非現実的でしょうな。

あんたは優秀そうだ。高天くんも。彼のことは会長も気に入っていてね。

そのふたりが今のバックボーンを活かして将来に亘って貢献してくれることで、ようやく釣り合うって計算なんですわ。妥当だと思っていますが。計算根拠が必要ですか?」


「いや……それでは提案させてください。

私の経営している会社はそれなりに資産価値があります。興味を持ってくれている企業に心当たりもある。この売却益と私なら見合いませんか?」


「随分と献身的ですね。犠牲的とも言える。そんなに身を削ってもよろしいので?

それにバックボーン込みでの概算だ。会社を失われてしまうのはね……会社ごとうちの傘下に入られるっていうのは如何です?」


 簡単にはいかない。いかないが、提案に対して零でも百でもない、提案が返された。それは交渉の余地があることを意味していた。

 羽龍はここを正念場と決めた。

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