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太陽と星のバンデイラ  作者: さくらのはなびら
日が落ち星が隠れたとしても
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再起

 美嘉を喪い、その目的は手放した暁。

 選んだ道に対する後悔と、継続する気力と意味を失ったが故のこと。

 決して暁が持った街に対するわだかまりがなくなったわけではなかった。

 しかし、新たな情報は、暁の中に残っていたそれを消した。

 解決による解消ではなく、呆れと諦めによる開き直りに近いものだったが。


「会社を利用するつもりだった俺は、実際は会社の単なる尖兵に過ぎなかったのだな」

 本当に、俺は何をやっていたのか。暁は乾いた笑い声とともに吐き捨てるように言った。


「おにいさん。ミカに託された言葉、わたしは果たしましたよ。おにいさんはどうなさいますか?」


 慈杏は真摯な表情だった。

 遠くの空はいつの間にか藍で染め上げられていた。まだ明るさの残る空も、すぐに一色に染め上げられてしまうだろう。


「ミカは最期、おにいさんにわたしを頼むと言っていました。自分の代わりにメストリをやって欲しいと願っていました」


 強い眼差しだった。

 原動力足る情動を失い、激しい後悔を得て、己の無知さを知らされ、愚かさを自らに突きつけざるを得ない状態にある今の暁にとって、正視に耐えない、意志の輝きを放った眼差しだった。


「いつまでも加害者ぶって罰せられるのを待っていたいのでしたら、わたしから言えることはもうありません」


 しかし。


「先ほども言いましたが責めも許しもしないです。わたしはおにいさんの期待には応えられません。病院で、葬儀場で、ご両親はわたしを家族として扱ってくれました。なので厚かましいことを言います」


 暁は心を奮い立たせた。

ここだ。ここで立たなくては。


「ミカから遺志を託されたミカの家族同士、同じ道を往くご意志があるのでしたら、わたしはおにいさんとご一緒したいと思っています」



 ――ここで立ち上がらなくては。

 今美嘉に顔向けできないのは理解している。

 その後悔を、恥を、抱えて生きていくのだ。

 だが。



「ミカは、本当は自分で為したかったはずです。でもそれが叶わなくなった今は、おにいさんとわたし、ご両親、チームの仲間やウリちゃん、商店街や地元の人たちが、ひとつになった姿を、みんながいがみ合わず、笑っている姿を見たいんだと思います」



 ――背中を丸め、逃げるように、隠れるように、罪を抱えて生きおおせたとして、それがなんの償いになる?


 ――最愛の者を失って尚、輝く意志を放ち、真っ直ぐ前を向いて進もうとする彼女の言う通り、罰せられることで許されようとしているだけの矮小な負け犬の逃げでしかない。



「みんなで集まって飲んだあの日、結果おにいさんたちとは決裂してしまいましたが、集まれるのを最も楽しみにしていたのも、その場での交流に最も喜びを見出していたのも、ミカだったんですから」



 ――後悔も恥も怒りも悲しみも抱えたまま、それでも立ち上がって前に進み続ける。

 そうやって生き抜いて、生き尽くした時、ようやく美嘉に顔向けできるようになるのではないか。



「商店街の祭りで披露するんだったな。もう三ヶ月もないが、間に合うものなのか?」


「間に合わせるんですよ! おにいさん!」

 慈杏は、今日初めて暁とちゃんと目が合ったように感じた。

 その目には、かつて宿していた昏い炎とも違う、未来へと進むために必要な明かりが灯っているように思えた。




 親族のみの初七日への参加は遠慮していた羽龍は、暁のことが気がかりだった。


 暁の感情は、抑えているのではなく、麻痺しているように薄れていったていると思えた羽龍は、一言二言でも良いから、とにかく毎日会話をしようと、電話をすることにしていた。

 暁は出ない日もあったが、必ずどこかには繋がっていることを示すように数回は着信を残すと決めていた。


 その日は、羽龍の予想に反し、暁はすぐに電話に出た。

 声に張りを感じたのは、いよいよ願望に五感が引っ張られ始めてしまったのかと羽龍ら自らを疑ったほどだ。


 会話もカバーガラスを扱うように繊細に進めようとしていた。なのに暁から聴かされた報告と言ったら!

「その展開は予想してなかったよ。けど、ミカの言葉があったならむしろ自然なのか。うん、良いと思う! もちろん俺も手伝わせてもらうからな」


 羽龍は思わず笑ってしまい、笑えば笑うほど心が軽くなったように感じていた。笑い過ぎて涙が出ていた。


「でも、ダンスなんてやったことないだろ? 仕事の方はもう後は流れでいけるだろうから、佐田としては発注や支払いなどの事務作業くらいでしょ? 事務の八木さんとうちで連携して処理は進めるよ」


 羽龍は暁以上に興奮してしまっていることを実感していたが、構うものかと少し上がったままのテンションで現実的な話を進めた。

 そう、この話は現実にしなくてはならないと、羽龍は使命感にも似た思いを持ったのだった。


「そのほかの細かいところは俺の方でやっとくから。

うちはほぼ何でも屋だし? なんとかなるよ! 本番は俺も観に行くから、ビシッと決めてよね!」

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