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太陽と星のバンデイラ  作者: さくらのはなびら
日が落ち星が隠れたとしても
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残ったもの1

「……このことはご両親には?」喪服姿の慈杏は静かに暁に尋ねた。



 美嘉の初七日は繰り上げ法要ではなく、葬儀後の死後七日目に執り行わられた。

 全ての儀式を終え、紀利に車で駅まで送られた暁と慈杏は駅のホームのベンチに座っていた。


 少し話したいと言う暁の申し出を慈杏は受け入れ、その告白のような話を聞いたのだった。



「話したよ。父は複雑そうな顔をしていたが、そうかと言っただけだったな。母は謝っていたよ。そんな風に思わせてしまったのは自分たちのせいなのかと」


 そうですか、と慈杏は高架駅のホームから見える空を眺めながら呟いた。

 ホームには電車がドアを開け乗客の乗降を待っていた。そろそろ扉が閉まることを示す音楽が鳴っている。


「わたしからは、許すことも責めることもできません。そういうことでもないと思う。

すごく正直に言えばそんなこと言われてもって感じです。何かを期待されてのことでしたら応えられずすみません」


 ふたりの目の前を電車は走り過ぎていった。

 夕刻よりは若干早いこの時間の電車は少ない。電車のいないホームには閑散とした時間が流れていた。


「……誰かに何か言ってもらわないと整理がつかない気持ちはわかります。

わたしもあの時、あいつらを見なければって、ふとした時にすぐそう思ってしまって、一歩も先に進めない……ミカのご両親に責められたら、謝って、許してもらえるまで謝って、そうして少しずつ違う意識になっていったのかもしれないけど、責めてもくれなくて」


 言葉を詰まらせる慈杏の、次の言葉を暁は待った。


「多分、お父さんもお母さんも、きっとそれぞれ、自分を責めているのかもしれない。

誰も、みんな、なんの準備もないまま訪れた理不尽に、思考が追いつかず立ち尽くしているだけになってしまっているのだと思う」


 そうだなと暁は思った。

 現象そのものを理解はできる。

 心情では理解はできないししたくない。でも現実は容赦なく流れてゆく。

 心は立ち止まっているのに身体は先へと進むのだから、その乖離が増せば増すほど、立ち尽くしたままの心はより放って置かれてしまうのだ。

 みんながそうであるのに、自分だけが責められ、償いをした気になり、先へ行こうとしていたのだと思え、暁は改めて目の前の気丈な弟の恋人と、かつて軽い失望程度で見限ったつもりになっていた両親に、素直に申し訳ない気持ちを抱いた。


「どうせ話すなら、おにいさん」

 慈杏が微笑んで暁に向き合った。


「ミカのことを話しませんか?

わたしが知っている大人になってからのミカ。おにいさんが知っている子どもの頃のミカ」


 それも良い供養だな、などと思うのは生きている者のエゴだろうか。

 いや、エゴで良いではないか。それで生きている者の心が救われるのならば。

 生きている者は生きている限り、生きていかなくてはならないのだから。

 暁は頷いた。

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