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太陽と星のバンデイラ  作者: さくらのはなびら
日が落ち星が隠れたとしても
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焼け跡1

 告別式はよく晴れた日だった。


 暁は白いアコードの助手席に乗り込み、喪服のネクタイを緩める。


「なにかわかったか?」


「逃げていた奴らも全員捕まったよ」尋ねた暁に運転席の羽龍は抑揚のない声で答えた。


「全員未成年だ。罪状も喧嘩の結果による過失致死になるだろう。

刃物はもちろん武器などの使用もなく、暴行も三人掛かりで一方的だった点は悪質だが、時間的には数分程度。致命傷も直接そいつらからもたらされたものではないこともあって、定型文のような『殺すつもりはなかった』も、実際にその通りなんだろうと思う」


「所属は?」淡々と問いを重ねる暁からは感情の揺らぎは感じさせなかった。


「結論から言うと、馬門会の手の者ではなかった。俺たちの計画とは別の、たまたまそこにいた単なる不良だ。だから、」


「だから、俺に責任はない、か?」

 暁の声のトーンが少し下がった。


「そうだよ! むしろ責任があるなんて思う方が烏滸がましくないか?」

 羽龍は珍しく感情を顕にした。


「悲しくて残念で不幸な出来事だよ!

誰にでも当たり前に起こりうる、ありふれた不幸だ!

確かに俺たちの計画の一端には、地価を下げる手段に街の衰退があり、その手法の一つに治安の悪化もあったかもしれない」

 暁は黙っている。


「商店街や近隣住人に、永きにわたってほんの少しのストレスをかけ続ける嫌がらせ程度だ」



 暁が烏我に依頼した内容は、掻い摘んで言えば羽龍の言った通りだった。

 具体的な行動についての発注はおこなっていない。求めたのは成果で、成果の内訳は商店街全体の売上の目減りと、その影響で体力の尽きた店舗の撤退だった。

 元々の斜陽化に加え新駅エリアの開発という向かい風の只中にある商店街だ。無理を通す必要のある案件ではない。そっとひと匙、薄い毒を垂らす程度で良いのだ。


 実際に馬門は直接動いてはいなかった。

 街の不良達を使ってはいただろうが、その者たちの動きとして確認できているのは騒ぐ、ゴミを散らかす、通行人に絡む、最も悪くてシャッターなどへの落書きくらいの軽犯罪がほとんどだった。

 絡んだ通行人が荒っぽければ喧嘩になりかけたことくらいはあるかもしれないが、警察沙汰にだけはならないように徹底した達しが出ている。

 使った者たちの身元も確認できている。

 手懐けている不良が仲間を呼ぶこともあるだろう。そうなれば把握できていない出来事も起こり得るが、バーの飲み食いの他には小遣い程度しか渡していないようだからそれほど人数を増やせるとも思えない。


「この街はそんなに潔癖じゃないよ。

馬門が使っている不良連中以外にも、今時珍しくはあっても暴走族の真似事をしている奴らや粋がっている連中だって居なくはなかった」


「なんの影響もなかったと言えるのか?」


 暁には羽龍の言いたいことはよく理解できた。

 美嘉の死に、直接の因果関係はないのだろう。暁の計画がなかったとしても、起こってしまったかもしれない。だが、影響がなかったと証明できるわけでもない。


「わからないよ。

割れ窓理論ってあるでしょ。俺たちの計画も、ああいう輩を増やす一助になったかもしれない。でも、割れ窓理論には根拠無いって説もある。結局何がどう影響しているかなんてわからない」


 羽龍は暁の考えを先回りした。

「良いことをしたから良いことが起こるわけじゃないし、逆だってそうだ。運命なんて都合の良い後付けの言葉だ。仮にそんなものがあったとしても、人の身でそれをコントロールなんてできるものじゃない」


 羽龍は言う。

 不慮の、不幸な出来事で、例えば幼い子供を亡くした親が、なんでうちの子がとか、うちの子じゃないとならなかった理由を教えてくれとか、加害者や事故の原因に言っていたりするインタビューなどを見かけることがあるが、理由なんてあるわけがない。


「死ぬことに理由がないとならないなら、亡くなった人は亡くなる理由があるとでもいうのか?

例えば生まれてすぐに亡くなった無垢な赤ちゃんに、死ななきゃならない理由なんてあるものか!」


 羽龍は、これが自分への責任を問う問答だったならば、ここまで感情的にはならなかった。

 暁が自らを追い詰めようとしていることが手に取るようにわかり、それだけは何としてでも阻止したいと考えていた。例え自分達の仕業についての責任を転嫁するような論を打つことになろうとも。


「不慮の事故の被害者と、一緒にできると思うのか⁉︎」


 意図を持って起こそうとした、起こり得ることがわかっていた、予想ができた、そんな結果が実際に起こった時、因果関係を証明できなかったとして、それを意図した者、予想できていた者の責任は、一切ないと言えるのだろうか。

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