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太陽と星のバンデイラ  作者: さくらのはなびら
日が落ち星が隠れたとしても
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少年と親友

 帰り道、工場正面の道路からなら自宅までは思ったほどは遠くなさそうだった。

 あたりはすっかり暗くなっていたが、足取りは軽かった。これから始まる日々への期待に高揚しているのを自覚していた。

 サッカー少年が偶然本場の外国人と出会い、師事を受けるようになるなんて、まるで物語の主人公のようじゃないか。


「ガビのテク、すごかったね!」

 羽龍も興奮を隠せないようだ。


「まあ、試合じゃ使えないけどな」


 高揚している自分が恥ずかしくて、興奮している羽龍に冷静な自分を見せたくて、わざと冷めたようなことを言った。

 所詮パフォーマンスだとか、うちはショートパスでつなぐサッカーだからなどと言う俺に、でもさ、と、パスワークだって足元の技術や個人技は必要だと羽龍は肯定的な意見を述べた。

 俺もそう思う。

 ガビの技術はボールが足についているどころか、身体全体がボールに馴染んでいることを示しており、「試合で使える」基礎的な技術や実践的な技術を高い水準で身に着けている証左と言えた。


「まさに、ボールはトモダチって感じだったよな」


 変に冷静ぶって逆張りのようなことを言ってしまったため、羽龍の論にすんなりと乗っかるのも気恥ずかしく、少し話をずらしてガビを認めていることを現した。


「あ、俺も思った!」


「でもあれって、ボールはトモダチだけど、仲間はトモダチって思ってないよな。だって周りは翼くんって呼んでくれているのに、あいつからは全員苗字呼びだぜ?」


「あ、確かに! コンビ相手すら岬くんだ!」羽龍はけらけらと笑っていた。


「な、最初はそれが名前かと思ったよな。でも名前は太郎なんだぜ」


 笑い合いながらの帰路は今日の興奮を程よく心に馴染ませてくれて、練習の疲労感は充実感に置き換えられ、心地良く身体を巡っていた。


 羽龍のことを考える。

 俺が否定的な言い方をしても嫌な顔をせず、反論のような論調ではなく感動の感情のまま自分の考えを言い、俺の言う言葉にも素直に乗っかってくれる羽龍。


 思えば、いつだってそうだった。

 羽龍はいつだって笑顔で、口調は明るいがどちらかと言えばおとなしいタイプだ。

 どこかへ遊びに行くのも俺の発案が多い。サッカークラブに誘ったのも俺からだ。

 意思が無いとか、優柔不断とか、断れないというわけでは無い。もちろんケンカをしたことだってある。言うべき時ははっきりと自分の意見を言える男でもあるのだ。


 羽龍は、俺との行動も、会話も、心の底から楽しんでくれているように見えた。

 俺は多分、気付かないうちにそんな羽龍に何度も救けられていたはずだ。

 俺から羽龍へは何か返せているのだろうか?


 ガビの技術を見て、すごいと思ったことを素直に言えなかった自らの子どもっぽさへの恥ずかしさや、俺を慕ってくれることへの感謝の気持ちがないまぜになり、前を向いたまま話題を変えた。


「ガビって南米のひとっぽいよな。個人技サッカーの技術たくさん教えてもらえたら良いな。俺たちは個人技もすごいコンビプレーで点獲ってこうぜ」


 とにかく、これからが楽しみでならなかった。

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