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太陽と星のバンデイラ  作者: さくらのはなびら
日が落ち星が隠れたとしても
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種火1

「こんなまだるっこしいやり方で良いのかい? もっと手付けを貰えりゃより効果的なやり方を使えるが?」

 にやついた顔が暁の気持ちを軽くて逆撫でする。

 これもこの男のやり口のひとつなのだろうと、暁はペースを掴まれないよう意識した。

 言い終わるや、男はコーヒーのお代わりを給仕のアルバイトスタッフに頼んでいる。


 あまり客の来ない昔ながらの喫茶店の窓際の奥の席で、暁は男と会っていた。


 ベージュのハンチングを目深に被った男の目は細く、口元にはいつも薄い笑みを貼り付けていた。

 真意を読みにくい男だったが、時折見せる鋭い目つきは、小者ぶった口調とは裏腹に、やはりこの男も本来関わるべき世界ではない業界の住人なのだと、油断してはならないと暁の中で警鐘が鳴るのだった。


 その喫茶店は男の所属する組織の拠点に近く、心情的にあまり足を踏み入れたいエリアではなかったが、自らの活動エリアでこの類の人物との繋がりを見られるべきではないと暁は考えていた。


 スタッフがお代わりのコーヒーを男に提供し、テーブルから離れたのを見計らって、暁は口を開いた。

「申し訳ないがそちらの会長とは話がついている。我々としてはあの一帯を五年でも十年でも掛けて、最終的には七割程度抑えられれば良い。しかし正直なところそのスパンで延々とあなた方に払い続ける資金はない」


 男は静かに聴いている。暁は続けた。


「会長もやがて終わってしまう目先の貰いになど興味は無いようですよ。

さすがに棟まるごととはいかなかったが、事務所系と店舗系のテナントに加え、いくつかのマンションの住戸は、末永い活動の安定に寄与するはずです。早速商店街のバーはうまく使われているようですね。会長は同額を現金で受け取るよりも喜ばれていましたよ」


 新法以降、収入源や拠点の確保に苦慮されているあなた方には望外の条件を提示したつもりだと、暁は提供した対価は必要充分であると主張した。

 実際にバーは暁たちの計画の為にも使われていたが、裏では特殊な取引や資金洗浄の機能を持つダミー店舗としても使われていた。

 暁の提供した物件は他にもフロント企業や事務所として使われることが決まっていた。


 ふん、と鼻を鳴らし男はアイスコーヒーを少し音を立てて啜った。

「それがどう言うことかわかってるんで?」

 男は相変わらず口を歪めるように笑みの形をさせていたが、射すくめる目つきが鋭さを増す。


「情けない話だがお前さんの言う通り、うちらの業界は規模の小さいところはどこもいつ飛んでもおかしくない有様さ。だが、資源さえあればいくらでも息を吹き返すぞ」

 すっと細めた目が刃物を思わせた。男はすぐに表情を戻し話し続けた。


「都市開発の連中が自ら手掛ける開発地の付加価値を下げるなんて話聞いたことがありまけんな。

それに、誤魔化しようはいくらでもあるとはいえ、指定こそされてないが広域の二次と複数に亘る不動産の契約を同時期に行ったんじゃさすがに目立ちましょう?

明るみに出たら企業と姿勢も問われるでしょうに。それこそ、存続に関わる程度のリスクを抱えることになりゃしませんか?」


 現金で後腐れない方がおたくらにとっては都合良いと思うんですがねぇ?

 言う男からは威圧的な空気は無くなっていた。



 暁は目の前の男の評価を少々改めた。

 なるほど、弱体化した組織とはいえ懐中を任された本部長だけはあると言うことか。

 少々下卑た印象はあるが、それなりに智慧は回ると見える。そう考えた暁は折衝のスタンスを少し変えることにした。

 警戒すべきところさえ押さえておけば、それ以外はむしろ腹を明かしてしまった方が良いだろう。余計な駆け引きはむしろ付け入る隙を与えかねない。


 暁は高速で思考を巡らせる。

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