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太陽と星のバンデイラ  作者: さくらのはなびら
1章 計画と策動
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会合3

「さて!」


 暁は美嘉を遮って、少し大きな声を出した。何かを振り払うような声だって。

 場のみんなが暁に注目する。美嘉以外の。

 美嘉はやるせ無いような、何かを言いたそうな顔をし、少し目を伏せていた。


「そろそろ腹も膨れたろ。忌憚のない会話ができる関係性も少しは築けたと思う。この辺で一旦本題について話したい」


 よく通る声だった。改まった物言いに場の空気の変化を一堂は感じていた。


「今のところ君たちと俺たちは今後対立の関係になる見込みだ。お互いそれは避けたいとの思いから、この場に集まってもらっていると思う。どこか妥協点はないか、前向きに話し合いたい」


 暁はちらりと羽龍を見た。言葉を続ける。


「駆け引きは無しで、こちらの目的を率直に伝えよう。簡単に言えば、旧体制の破壊だ。土着の人間の旧い価値観を一掃する」


 強い表現だった。美嘉と慈杏は表情を少し強張らせ、お互いを見た。


「その手段のひとつとして、新エリアの開発があり、同時に時代の流れを読まず変化に対応せず、文句は言うが努力はせず、行政に助けられて当たり前だと言わんばかりの旧来の商店街を、街の癌として摘出もしなくてはならない。つまり、協働はあり得ない」


 過激とも言える暁の主張は、商店街とは完全に相容れないことを伝えていた。


「一方、君たちの軸はパン屋だろう? あの店舗は仮に商店街が寂れても、順調に売り上げを伸ばせるはずだ」


 決して敵対せざるを得ない関係性ではないことを示すように、敵意の籠らない明るい声で暁は述べている。表情も柔和だ。


「それと、サンバチーム? 確かに商店街が発足の地かもしれないが、商店街以外のメンバーも多いのだろう?

独立したサークルなら、商店街があってもなくても活動は続けられる。なんなら新エリアのイベントに出てもらいたいくらいだ。

つまり、君たちのやろうとしていることは俺たちの目的の障害になるが、俺たちの目的は君たちのやりたいことにはぶつからないんだ。どうだろう、手段の部分を考え直してもらえないだろうか」


 慈杏は明るく言い終えた暁とは対照的な面持ちだった。


「それは……」


 慈杏は少し辛そうな表情をしながらも、気丈な声を上げた。慈杏はプロジェクト立ち上げの経緯、思いをストレートに伝えた。


「つまり、商店街の再起がマストであると?」


 暁は慈杏の訴えをまとめ、理解した。難しそうな顔をしている。


「はい、お父さんがより永くパン屋を続けようと思ってもらうためにも、わたし自身も愛着のある商店街がまたあの頃のように盛り上がってほしいと思う気持ちを満たすためにも」


 暁はこの場で頼んだアルコールとしては通算四杯目のバランタインを飲み干し、ふぅーっと息を吐く。


「この前君が言っていたな。まさに譲れないモノ同士のぶつかりと言うわけだ。お互い引く気もないとなると、文字通り争わざるを得なくなるが」


 暁の顔からは柔和さが消えていた。

 表情は無機質でありながら、眼の光だけが強く、慈杏を見据えていた。


 渡会はすぅ、と場の温度が下がるような感覚を覚えた。

「アキにい、ちょっとまってよ!」渡会は珍しく、少し悲壮な表情に、焦ったような声で口を挟んだ。


「俺はキミの兄じゃない」


 口調は穏やかだが、強く冷たい眼の光はそのまま。

 目線の先も慈杏のままで、度会を見もせずに答えた。


「ミカちゃんのおにいさんでしょ⁉︎ ならみんなのおにいさんじゃん!」


「全く意味がわからん」


 暁はそっけない。しかし渡会はめげなかった。


「わかるんじゃなくて感じるの! 心で! そもそもアキにいはなんでそんなに商店街に意地悪したいの?」


「意地悪? そんな次元の低い」


 暁はようやく目線を慈杏から渡会へ移した。冷たかった眼差しに感情の色が灯る。それは静かな怒りだった。


「言い方変えたってダメだよ! やろうとしてるのはそう言うことじゃない!

旧い価値観とか言ってたけど、価値観なんてみんな違うんだし、旧い感覚の人がいたって良いでしょ? 世の中には他にもそう言う商店街あるでしょ? 他の人の価値観がアキにいになにか迷惑かけるの? なんかそれっぽいけど全然説得力ない。なんで故郷であるこの街の商店街の在り方だけ許せないの?」


 渡会は畳み掛けた。質問の形になっているが、暁の答えを待たずに渡会は言葉を続ける。


「目的って言うけど、それって実は手段じゃない? その裏に本当の目的が、思いがあるんじゃないの?」


 段々と渡会の言葉に熱がこもるのがわかった。

 顔は上気し、瞳はうるみ始めている。しかしその論は感情のまま述べられていても、筋は通っている。


「何をつらつらと」


 比例するように暁の瞳は冷たさを増しながらも、怒気の色合いを強めていった。

 少なくとも渡会の言う心云々の論法で絆されるような段階は過ぎていた。

 暁はそうやって、心を硬質的な膜で覆い、ブレずに目的を遂行し続けてきていた。

 羽龍は、こうなってしまっては決裂しかないだろうなと少し残念な気持ちになりながらも、冷静に決裂を前提とした方向に頭も心もシフトしていた。


 百合と慈杏が渡会を落ち着かそうとしていた。羽龍は暁に水を勧めている。美嘉は何か言いたそうに暁を見ていた。


「怒ってるの⁉︎ だとしたら触れられたくないところに触れられたってことだよ! 本当の自分の気持ちに素直になろうよ! 人は心でしょっ」


 いよいよ類の瞳からは涙がこぼれていた。


「知ったような……俺は……!」


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