邂逅5
街灯はあるが店舗などは少なく、暗い夜の道を走る白いアコード。
「ミカには驚いたね」
車の中、運転しながら羽龍は助手席で憮然としていた暁に話しかけた。
「偶然と言えば偶然だけど、元々俺たちの地元なんだから、どこで旧知の人間に関わることになっても不思議ではないか。
だとしても、ミカとはねー......。よりによってって感じだよねぇ」
先ほどの重々しい雰囲気のやりとりなどなかったかのように、羽龍は軽やかに言った。
「ああ。しかし、あいつ……」
暁は言う。苦虫を噛み潰したような表情で。
「パン屋のことは良い。
元々期待はしてなかった。人事を尽くすうえで、やれるだけのことをやったうちのひとつに過ぎない。
だが、商店街活性化の計画だと?
これから出ようとしている芽は、根を張る前に摘まないとな」
明るく振る舞っていた、或いは無理に明るく振る舞おうとしていた羽龍の顔は、暁の宣言のような呟きを聞いて曇った。
できればこの会話の流れは避けたいと思っていたのだった。
「やっぱ、そうなる?」
曇った表情を無理に笑顔に戻して羽龍は暁に尋ねた。
「安心しろ。最近会ってなくても美嘉は肉親だ。いきなり策や力でどうにかしようとは考えてはいない。
一度メシでも食いながらじっくり話してみよう。あいつの彼女も交えてさ。お前も来てくれよ」
予想に反して暁からもたらされた柔軟な対応策に、羽龍は喜んだ。
「もちろん。平和的に進められるならなによりだ。
物語なんかじゃ悪役が話し合いなどまどろっこしいなんて言って強硬に出たりするけど、理解と納得を経て求める結論を得た方が、色んな意味でコストかからないんだよね」
それがとても合理的であるかのように、語る羽龍。
暁の考えを補強し、適切な選択はこれしかないと思わせたいかのようだった。
「悪役か」
心外とも、覚悟の上だろとも、言っているような暁の呟きに、
「例えだよ、例え」
と、羽龍は笑った。
少しでも抱えているものを軽くしたいとの想いが現れているかのような明るさだった。
夜の街。
比較的交通量の少ない生活道路を、「調和」や「和解」を意味する英単語が由来の白い車は、少しだけスピードを上げて街から遠ざかっていった。