邂逅2
若人の冷静な答えを、暁は表情もなく聞いていた。
「なるほど」
無表情で若人に答えた暁。目だけは冷たい光を宿していた。
「にいちゃんたちは都市開発事業なんだよね? この商店街もかつては地域の主要な市場であり顔でもあったんだし、新開発のエリアと連携とった企画とかやれないかな?」
暁は美嘉の方は見ずに若人に言った。
「市は開発エリアに資源を集中させる方向で舵を切っています。この方針は決定事項です。
憚られる言い方をしますが、既存の駅周辺は切り捨てる考えです。それでもお考えは変わりませんか」
「商工会議所でも、そのようなニュアンスの話は前からあったよ。
切り捨てると言う表現が適切かはわからないが、積極的に人や資金を投入する気がないのは仰る通りだろう。広報なんかはより露骨に新規エリア中心、一辺倒になっているのが良くわかるよ」
だからこそ、行政に頼らず自助努力でなんとかしないとならないなと言う思いが強くなったと若人は答えた。
「私の店だけ新エリアになんてことは考えられません」強い意志の宿った目だった。
「よく分かりました。交渉や検討の余地は無いようですね」
暁はやや表情を和らげた。
作られた薄い笑みの形をしているが、他人行儀で慇懃無礼な言葉遣いも相俟って、酷薄で皮肉な色が浮かび上がっている。
「我々の仕事は誘致をして終わりではありません。市が想定する、新たな市の中心部として、市の想定を超えて機能させる使命があります。
申し訳ありませんが商店街とはある種競合として対立関係にならざるを得ません。有体に言えば、市場を奪うつもりでいます。どうかご承知おきの程を」
一方的で、言い切るような言い方だった。
「あ、あの! おにいさん!
改めまして、弧峰慈杏です。若人の娘です。ミカにはいつも公私にわたって助けてもらっています」
決裂の気配を感じた慈杏は、慌てた様子で言葉を挟んだ。
「おにいさんにとってもここは故郷なんですよね? それとウリちゃんさん……?」
「ああ、申し遅れました。北光羽龍です。システムコンサルタントです。さっきのやりとりで気付いたと思うけど、暁、美嘉兄弟とは幼馴染です」
羽龍は代表取締役の名刺を弧峰親子に渡す。
「高天の都市開発事業とアライアンスを組み、主に情報化戦略の立案、構築、導入部分に携わっています。
まだ独立したてで、その他なんでもしなくちゃならないんで、情報と名のつく分野全般の便利屋みたいなこともやらせてもらっています。情報発信って意味では広報や広告なんかもね」
羽龍は暁とは対照的に、終始柔和な表情は崩さずに話した。
「ミカは代理店だよね? 同期ってことは慈杏さんも同業かな? 本業の方を前に恥ずかしいけど、アキの会社の広宣チームと一緒にキャッチコピーやポスターを作り、展開の戦略やプレスリリースにも関わっているよ」
若人が先ほど述べた、市が新駅周りに特化した「露骨な広報」に、羽龍が、もっと言えば暁と羽龍の計画が関わっていると言うことだった。