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太陽と星のバンデイラ  作者: さくらのはなびら
1章 計画と策動
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邂逅1

 突如、店の入り口が開けられた。


 クローズの札をかけていたはずなのに、と若人が怪訝な顔を入り口に向けると、そこには例の男が立っていた。


 今日はストライプの入ったブラックのスリーピースとネイビーのシャツ、シルバーのネクタイでいつもの誠実な装いと比べると押し出しの強さを感じた。

 若人はなんとなくこちらがこの男の本質のようだと感じていた。


 例の男は、ふだんは見かけない別の男を伴っていた。

 こちらはサンドベージュのリネンウール素材のセットアップにホワイトのカットソー。知的ながらカジュアルで柔らかい印象だ。システム担当だろうか。或いはコンビで役割分担でもあるのか。

 若人は分析しながらも、大人の態度を取り繕った。


「おや、今日はおふたりでいらして」


「こんにちは、失礼します」サンドベージュの方がにこやかに挨拶をする。

 ブラックの方は顔がこわばっていた。その目は既に若人を見ていなかった。



美嘉(よしひろ)、か? こんなところでなにをしている」


 男の目線の先にはミカがいた。


「にいちゃん?」


「え⁉︎」



 一同、驚愕の度合いに濃淡はあれど、それぞれが驚きの対象となっているブラックの男を、或いは男から美嘉と呼ばれたミカを見た。


「え⁉︎ ミカかい? 見違えたね! 最後に会ったのは俺が高二の時だから、中三だったっけ?」サンドベージュの男が驚いたような顔で美嘉と呼ばれたミカに語りかけた。


「あ、え? もしかして、ウリちゃん?」

そうだよと、サンドベージュの男はにっこり微笑んだ。


「どうでも良い! 羽龍も和むな! まずは俺の質問が先だ。何故美嘉がここにいる?」

 ブラックスーツの男はミカを見据えていた。


「いや、申し訳ないが招かれざる客は君たちの方だ。彼は娘の連れで、ここは私の店だ。私の客を詰問する立場にはないと思うが?」


 ほっこりとし、楽しく笑っていた時間が奪われたことの怒りもあったのかもしれない。

 若人はこれまでの男に対しての態度以上に冷淡だった。


「これは、大変失礼致しました。彼は私の弟です。

数年ぶりの再会が予期せぬ場であったため少々狼狽えてしまいました。お恥ずかしい限りです」ブラックスーツの男は慇懃無礼に言った。


「弧峰様へのご挨拶もそこそこに、本来のご用件もお伝えせずにすべきことではないのは重々承知の上ではございますが、なにぶん数年顔を合わせていない実の弟との再会です。できればお互いの近況を話したい。お邪魔でしたらお店の外で……」


「いや、それには及びません。紳士的に会話されるのでしたらこの場をお使いいただいて結構です。正直娘も興味津々のようですし」


「ありがとうございます。そちらは弧峰様のお嬢様? と、そのご友人ですか? 改めまして、そこにいる美嘉の兄、高天暁と申します」


 有無を言わせぬ一方的な挨拶に、慈杏と百合は「娘です」や「その後輩です」などと挨拶をしていた。

 百合は渡会が口を開く前に、こいつも後輩ですと挨拶を代わった。今は渡会に喋らせない方が良いと感じたのだった。絶対に。

 渡会は不満そうな顔だった。


「それでは、失礼します」既に暁は弟の美嘉以外の誰のことも見ていなかった。


「さて、美嘉。お前も同じように疑問があるだろうから先に答えようか。

俺と羽龍は今、市政とも連携した開業予定の新駅近辺の都市開発に関わっている。こちらの『ベーカリーどれみ』さんは近隣にも響く評判の店舗だから、ぜひ駅直結のショッピングモールに入ってもらえないかと、三顧の礼をしていたところだ」


 暁は概要をかいつまんで話し、お前は? と、目で促す。


「俺は、弧峰さんの娘さんの慈杏さんと、その、お付き合いをさせてもらっていて……」

 言って何かに気づく美嘉。


「すみません、報告が遅くなってしまって!」若人に向かい何度も頭を下げる。


「いや、まあそうだろうと思っていたと言うか、今更と言うか……良いから続けて」


 若人はなんてタイミングで聞かされたのだと思いながらも、今はそれを主題にできる雰囲気でもないなと美嘉を本題に戻した。


「弧峰さんの生家であるパン屋が属している商店街を活気づけようと計画を立ち上げることになって、プロジェクト遂行メンバーで集まってたんだ」


「商店街を活気づける……弧峰様も?」


 そのメンバーに含まれているのかと、暁は若人に射竦めるような目で尋ねた。

 若人は目の前の男から、仕事に対する情熱とは思えない情念を感じた。

 何がこの男をここまで駆り立てているのだろうか。とにかくあまりあてられてはいけないと思った。

 この男と感情のステージで対峙しない方が良いと。


「この若者たちが中心ですよ。私自身恩も思い入れもある商店街のことですから、邪魔にならない程度にとは思っています」若人は務めて冷静に答えた。

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