慈杏の計画6
顔合わせといいつつですが、広報には段階がありますからと、百合はA3の書類を折らずに入れられるサイズの製図ケースを開き、何枚かの資料を取り出した。
認知、興味喚起、欲求や意欲の醸成、実際の行動へとつなぐ、それぞれの役割を持ったクリエイティブを、適切なタイミングでリリースするのが望ましい。
それを丁寧にやるとなると、認知の広報活動はそろそろ開始されても良い時期だと百合は述べた。
はっきり言えば時間に余裕はないと。
「なので、ラフ中のラフですが、ポスターとリーフレット案作ってきました。
せっかく皆さんいてはるんで、ご意見伺いたいなと。異論なければこれをベースにして、初期ツールに関しては仕上げてしまいたいです」
「え、やだ……ごりごりやんけ……やる気、めっちゃごりごりウェルカムですやん!」
渡会が手を口に当てて驚いた表情を作っている。
「なにちょっと引いた感じ出してん。弧峰さんの進退もかかてるんやし、やるからには成功させたいからな。てか、おまえこそ本気出す言うてたんちゃうんか?」
「わたしはだんだん加速つくタイプなんですー!
へー、これランちゃん描いたの? コピーライターなのにラフまで描いて健気ー」
「おまえがなかなか描かへんからや。コピー当てるにもラフのイメージないと文字数やバランス、大きさやフォントなどピンと来んからな」
「うん、確かにわかりやすい。イメージ湧くね」同業でもあるミカは感心した。
「ね。それに絵心もあるね、そっちもいけるんじゃない?」慈杏も満足そうに頷いた。
「だめー! わたしの仕事取らないでよ! ランちゃんなんてどうせあれよ! サンバギャル描きたかっただけよ! このエロがっぱ!」
「サンバはエロくないの!」慈杏は即答で渡会に反論する。
「おまえがモタくそしとるからや。せやな、弧峰さんの言う通り、ボクだけでクリエイティブ全部こなしてもええかもしらんな。おまえお荷物や」
「おまえおまえ言わないでくださる⁉︎ インチキ丸メガネ関白がっ!
前髪揃えてる男って信用ならない!」
「類⁉︎ 口悪いよ!
それ偏見よ、ブチャラティは前髪ぱっつんでも男らしくて人望も厚かったわ!」
「なんや⁉︎ 誰がインチキや!
入社日に髪色ピンクにしくさるおのれの方がインチキぽいわ! 大体髪ピンクにしとる女ってぶっ飛んどるやつ多いよな!」
「百合くんもおちついて!
それ偏見よ、ちびうさちゃんはピンク髪の可愛らしい子どもなのに頭が良くてしっかり者だったわ!」
「ジョジョとセーラームーン⁉︎」「じあさん、昭和のマンガとか見るんすね」驚く百合と急に冷静な口調になる度会に、顔を赤くしながら「両方とも平成です!」と、答える慈杏。
「忙しいイメージの仕事だから、少し心配していたが、こんなふうに仕事をしているなら楽しいのだろうな。
ははは、確かに慈杏は子どもの頃漫画や小説が好きだったよな」若人は楽しそうに目を細めていた。
「お父さん⁉︎ 余計なこと言わないで!」
「じあさんの幼少のみぎりの話聴きたーい‼︎
さぞや可愛かったんじゃろう? お? どないなん?」
「あ、俺も聴いてみたいです」
「類! ミカもやめてよ! せっかく百合くんがラフ作ってくれたんだから、これのこととか今後のこととか話しましょう!」
慈杏が懸命に軌道修正した。少なくとも場の雰囲気は良く、和気藹々と話を進められるメンバーだとそこにいる誰もが思えて、計画の成功にも自ずと期待が高まっていた。