表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽と星のバンデイラ  作者: さくらのはなびら
1章 計画と策動
34/122

慈杏の決意19

 今日の逢瀬の主旨は恋人同士の甘いひとときというよりも、慈杏が自らの進退について再検討するにあたり、信頼のおける恋人に相談に乗ってもらうというものだった。

 会社での慈杏と新町やチームメンバーとのやり取りと、慈杏の揺れる気持ちを聴いたミカは、情報を整理しようか、と話し始めた。


「有利な点は、辞めなくてはいけない事情が今あるわけじゃないってところだよね。慈杏のお父さんの決め次第」


 ミカは仕事で戦略の骨子を作る時にするように、状況を整理しながらターゲットの分析をしていた。


 慈杏はうなずき、見解を述べる。

「一方、その決断自体はいつかしなくてはならなくて、お父さんの気質的に今しなくて良いからと、単に結論を後ろ倒しにするってことは無いと思う。

お父さんの思う、やがてくる閉じるべき理由が払拭されてない限り、計画通り進めるのだと思う」


 ミカはなるほどと思った。

 慈杏の計画性の高さはお父さん譲りだったのかと内心で納得した。


 ミカはまず、懸念点、リスク、不安要素などを洗い出そうと思った。裏を返せば、それらがなくなれば状況は打破されるのだから。

「もうひとつ不利な点としては、お店の継続を強く望んでいるのはお父さんよりも慈杏ってところだ。辞めなくてはならない理由を消すのも難しそうだけど、続ける強い理由をつくれないとなかなか意思は変えられないよね」


「不利な要素、実はもうひとつあるんだ」

 慈杏はミカの意図を汲んだのか、マイナス要素の洗い出しに乗った。

「知ってるかもしれないけど、新しい駅周辺の開発に大型ショッピングモールの誘致が確定していることが、うちというより商店街全体として士気が下がってるみたいで。

うちの頑張りで他所からお客さんを商店街に呼んで少しでも活気に寄与できるならという想いが少なからずあったと思う。でも商店街全体が諦めムードだと、そこで頑張る意味が薄くなっちゃったんじゃないかな」


「うーん、意外と、攻略の糸口って論理よりも感情なのかも」

 

「というと?」

 慈杏はミモザのおかわりを頼みながら顔をミカに向けて尋ねた。


「お母さんの体調や、お母さん自身がどうしたいのかっていうのは一旦置いとくよ。

お父さんとしてまず優先順位が高いのはお母さんへの負担があったと思う。次に、見通せる近い将来への備えがあって、確度の高い将来に向けての計画がある。最後に、この優先順位を無視してでも続けたい要素が見受けられないということ」


 慈杏はミカの言葉を頷きながら聴いていた。


「要は、優先順位が高いように思える要素も、覆される要素がないから上位に置かれている程度の、そこまで積極的な要因じゃない。

最後に残った『優先順位を無視してでも続けたい要素』は、条件や環境、気持ちが当てはまり、変動するものであると」


「うん」と、慈杏は次の言葉を促すように、ミモザに口をつけつつミカを見つめだ。ミカは言葉を続ける。


「例えば、慈杏がまだ学生でお金が掛かるとしたら、仕事を辞められない理由が辞める理由を凌駕して、身体が多少きつくても続けていたはずでしょ?

これが条件による優先順位の変動。

お父さん自身がやりたい、続けたいと思えるなら、いつ辞めるなんて決めず、やれるところまでやると思う。これは気持ち。

もちろん、身体的な限界はいつかくるだろうけど、予期しない病気なんかがなければ、年齢的にはまだまだしばらくは現役でいけるでしょ」


「うん、言ってる意味はわかる。

要は計画性が高すぎるから、閉じる計画ありきで進んでるけど、実際は辞めなきゃいけない理由も続けたい理由も明確なものがあるわけではないので、モチベーション次第で覆せるってことね」


「簡単に言えば。

その上で、お父さんが安心できる事業承継の問題もクリアになれば尚良し。慈杏が継ぐってのが単純なのだけど、それを選ぶと今の仕事との天秤になる。であればどうするのが次善か」

 ミカはやや上を見ながら考え込んだ。


「つまり、お父さんが続けたいと思える要素と、わたしが継ぐ以外の方策が無いかの二点を考えれば良いのか」

 慈杏も考えた。

すぐに案が思いつくわけではないが、単純化すればできそうな気がしていた。


 ちなみに慈杏の母はむしろ仕事を生きがいにしていた。

 パンが焼けるのを見るのも、焼きたての香りも好きだとよく言っていた。接客に至っては父以上に楽しんでいた。

 自分の体調を考えてお店を閉じる方向に進もうとする慈杏の父に、大丈夫だからもっと続けようと懇願していたくらいだった。

 慈杏はお母さんという要素は店を続ける方の要素になり得るだろうと考えた。


「あとは何かないかな」

 ひとつきっかけが見つかると、意外といろいろなアイディアが湧いたりするものだ。


「そういえば気になることが」

 慈杏は、これはどうかなといった様子でミカに話した。

 どうすれば続けられるかがテーマだからあまり関係ないかなって思って要素にはあげなかったが、新駅ができるエリアに誘致予定のショッピングモールに移転しないかって話があるらしいことを。

 店を閉じる方向で考えていた父は相手にそう話し、この件はそれで終わったと聞いているが、この件は何らかの材料になり得るだろうか?


 とにかく慈杏はあらゆる切り口で道を探ろうと考えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ