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太陽と星のバンデイラ  作者: さくらのはなびら
1章 計画と策動
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慈杏の決意14

 初日の大騒ぎがあったからか、雨降って地固まるが如く、チームの関係性は良好で、社内評価の高い仕事をいくつもこなしていた。

 実績を重ねるうちに、いよいよ大きいと言える案件を弧峰チームは得ていた。



 それは、挑戦する学生に向けた、プレゼンイベントの参加を募る媒体の案件だった。


『視えないからこそ、観える景色がある。

さあ、見に行こう。見たことのない世界を』


「第一稿です。コピーは少し冗長にも思えるので、ブラッシュアップできるか考えるつもりですが、ご意見あります?」百合から提出されたポスターは、とても良いバランスで出来上がっていた。


「おー! えーやんえーやん!」


「ええがな! おまっせ!」


 慈杏と渡会は口々に褒めた。なぜか似非関西弁で。


「ちょっと、関西弁いじるとかって、昔の関東子どもですか! イマドキ関西弁なんてテレビつけたら毎日聞けるでしょうに。ていうかシンプルになんらかのハラスメントぽくありません?

あと渡会のは意味わからん」


 関西出身の百合は律儀に反応する。

 反応するから慈杏や渡会は面白がるのだが、百合もそのやり取りを本気で嫌がってはなく、「チーム内のノリ」として楽しんでいる節があった。


「まーまー、関西弁リスペクトですやん」


「せやろがいっ! じゃけーのー!」


「絶対馬鹿にしてますよね? あとおまえまで調子乗んなや! 先輩やぞ! あと広島弁まざとるわ」


「出た! 本場やんー! 極道のなんらかのやつやん!」


「だから、それは広島弁!」


 ほどほどで軌道修正するのはいつもリーダーの慈杏だ。


「いや、ごめんごめん、でもこのコピーは本当に良いよ! 素敵。これでいこう」


 一方、渡会はこれが通常なので「チーム内のノリ」は続く。


「それじゃ、ランちゃんよ? いきましょ、か」


「しつこいて! なんやねんその言い方気色悪い。あとその呼び方やめや。文字数たいして変わらんし藍司でええやろ」


「ランちゃんてかわいくない?

昔飼ってた犬の名前とおそろなんだから光栄に思うが良い。

しかしまぁなんですなぁ。さすがハイセンスコピーライター。文字数とかこだわりますよねぇ。

わたしが考えたコピーの草案、文字数多すぎってあいつに即却下された! じあさん、ひどない⁉︎ あいつ怒ってよ!」


「あいつて! 犬て! 可愛いてなんやねん。エセ関西弁もやめや、きしょいわ。

あとコピーは切れ味や! けど文字数だけで決めたわけちゃうよ。渡会はコピー向いてないわ。あのコピー、ようわからんかった」


 ひとつひとつにきちんと反応を返す百合は、やはり律儀と言えた。


「うわ他人行儀! これあれ? いけずとかいうやつちゃうん? 京都のノリ⁉︎ ルイルイって呼んだらええやんか」


「出身京都ちゃうわ! ええ歳してルイルイてなんやねん。文字数倍なっとるやん。ナイわ! センスないな!」


 慈杏はにこにこと聴いている。


「愛称は可愛ければ良いんですー! 表面の文字数とかにこだわって本質見ないなんて、ねえ?」


「こいつ……たまに鋭いな」


「うち、センスの塊、ですからな。

てかランちゃんそのシャツカッコよ!」


「相変わらず話飛ぶな!

これな、ヨウジヤマモトのやねん。ええやろ」


「仲良しね、話進めよ?」


 慈杏は相変わらずにこにこしていたが、声色には少し苛立ちが含まれていた。


「じあさんもずっ友だょ! うちら最強チームじゃわい!」


 そんな慈杏の内心に気付いていないのか、気付いていてあえて被せてきているのか、怯まない渡会の発言に慈杏の気勢は逸らされた。


「話し終わてへんぞ。なんでおまえが昔飼うてた犬の名前で呼ばれなあかんねん」


「藍はランとも読めるんだから良いでしょっ!」


「なにがええのかわからんわ! 勢いでどうにかしようとしとんなぁ」


「犬かぁ、ちょっと可哀想かもだけど、最近は犬は家族扱いってひとも多いしね?」


「なんのフォローにもなってませんよ? 弧峰さんは名前の省略でええですねぇ⁉︎」


 慈杏も愛称で呼ぶのをやめさせたがってはいたが、犬よりは本名を文字っただけの愛称で良かったと思っていたのがバレていた。

 しかし、慈杏がホッとしたのも束の間。


「じあは猫だよ! 最近近所をうろうろしている毛がバッサバサの猫のことずぃーあって呼んでるんだぁ。写真見ます? かーわい」



 チーム最初の大きい案件をみんなで笑い合いながら作り上げていったあの日は、はっきり思い出せる。昨日のようでもあり、だけどもう届かない遠い日のようでもあった。

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