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太陽と星のバンデイラ  作者: さくらのはなびら
1章 計画と策動
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慈杏の決意6

 慈杏と渡会はカウンターで隣り合って座り、軽く乾杯してドリンクを飲んでいた。


 最初はビールなどの決めもなく、ペースも合わせず思い思いに好きなドリンクを頼むのがふたりのスタイルだった。

 ふたりともアルコールには特にこだわりも好みも苦手なものも無かったので、暑ければビールをあおることもあるし、料理に合わせて日本酒やワインを選ぶこともあるが、軽く飲む時などは甘くて飲みやすいカクテルを選ぶことが多かった。



 慈杏はファーストドリンクを一口飲み、グラスを置いた。隣の渡会はフルーツが入っているカクテルをソフトドリンクのようにがぶ飲みしている。

 渡会は飲みながら慈杏がグラスを置いた手元の奥を見ていた。


「あれ? 電話じゃないすか?」


 カウンターに置いていたスマートフォンが薄暗い店内で少し光っていた。

 慈杏は仕事中は私用スマートフォンの音を消していた。この日は終業後も設定を戻すのを忘れていたため、着信に気付かなかった。


「あ、ほんとだ。もしもし」席も外さずその場で出てしまったのは迂闊だった。少し酔っていたからかもしれない。


「ああ、ミカ? どうしたの?」


 電話の内容は大したことはなく、ちょうど今仕事が終わったばかりで、もし未だ家に帰ってないなら飲まないかという誘いだった。

 慈杏は相手に後輩と飲んでいると伝え、近いうち改めて予定合わせて飲もう、予定をメッセージに入れておいてといったやり取りを追えて電話を切った。

 渡会はその様子を揺れる紐を見つけた猫のように見つめていた。


「ミカちゃんて誰すか水くさい! 激カワ後輩と飲んでるから合流しようっていって呼んじゃいましょーよ! 先輩の友達はだいたい友達って格言ありますもんねぇ」


 そんな格言は知らないし、なにが水くさいのか良くわからなかったが、この後輩に会話を聞かれたことを慈杏は少し後悔した。

 これは呼ぶまで納得しないだろうし、どうせ根掘り葉掘り聞かれるなら、正直に全部話して話題を変えよう。隠すようなこともない。慈杏は覚悟を決め、或いは開き直ったような気持ちで渡会と向き合った。


「ええとね、彼氏なんだ」

「彼氏⁉︎ おんの⁉︎ 水くさい! そりゃいますよねーいいなー!

彼氏ミカちゃんなんですか⁉︎ ミカちゃんて誰すか⁉︎ 水くさい!」


 今は水くさいが彼女の中で流行っているのかだろうか。

 放っておいても追及されるのはわかっていると、慈杏は出会いから順番に話すことにした。話しているうち彼氏は自宅に向かう電車に乗ってしまうだろうから、呼べとはなるまい。


 慈杏がミカと呼んでいる彼氏とは大学で知り合った。同級生だ。

 ある日同じく同級生の男子学生が大声で「ミカ―!」と呼んでいるのを見かけ、「ミカちゃんなんて子いたっけ?」と思っていたら遠くにいた男子生徒が返事をしていて、少し驚いたのでよく覚えていた。



「名前、ミカっていうの?」


 講義を受けていた時、彼がたまたま隣だったのでなんとなく訊いてみたのだった。


「あー、あいつが呼んでるの聞いてた? いや、あいつ同じ小学校に通ってて、クラスも同じだったことがあったんだけど、名前の漢字を音読みでそのまま『ミカ』って読まれて、それがハマったんだか、そのときから『ミカ』ってあだ名にされちゃったんだよ。

その呼び方がなぜか広まっちゃって、別の学年の友達なんかもそう呼んでたんだ。さすがに未だにそう呼ぶ奴は減ったけど、何人かはそのまま呼び続けててさ」


「えー、良いじゃん、ミカって響き。かわいい」


「かわいいって言われたいわけじゃないんだけどな」などと言いつつ彼は満更でもない様子だったので、慈杏もミカと呼ぶ許可をもらった。



 聞いてみればなんてことのない話ではあった。その話をきっかけに、小学校時代のエピソードなどをお互いで話しているうちに、どうやら学区こそ違っていたが、地元が一緒であるとが分かった。

 ふたりとも親元から学校に通っているのも分かり、時間が合えば学校と家への行き来も共にするようになった。帰宅の道すがら、時間に余裕があれば買い物や食事、時には映画やアミューズメントに行くこともあった。

 地元の話で盛り上がり、その後も色々な話題が尽きなかったのは、単に共通の話題を持っていただけでなく、相性も良かったのだろう。


 いつしか休日も時間を合わせて出かけるようになり、どちらからともなく告白をし、恋人となったのだった。

 地元の話題以外で二人が良く話していたのは映画のことだった。

 映画そのものについてはもちろん、番宣や広告手法など、売り方・見せ方などについても話すようになり、良い映画と売れる映画のギャップなど、お互いに分析して持論などを語り合ったりもしていた。


 そのような部分に自然と関心を持てたことも、影響があったのかもしれない。

 就活生になったふたりは、特別強い志望動機を持ってというほどではなかったが、なんとなく広告代理店の業界を中心に就職活動を行い、ふたりとも同じ業界では大手と言える会社の採用通知を受け取った。

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