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太陽と星のバンデイラ  作者: さくらのはなびら
1章 計画と策動
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慈杏の決意5

 渡会の教育係となった慈杏は、社内業務はもちろん、外出の案件にも渡会を同行させていた。

 かつて新人だった慈杏が当時先輩だった新町と共に行動していたように、バディとして案件につきっきりで当たることで、先輩を補佐しつつ先輩の業務内容ややり方を一通り直近で見て一部体験体感できる。

 後輩はやり方だけで無く、先輩の流儀やイズムといったものも身につけていくのだ。


 慈杏は思う。

 どこかで間違えたか? と。

 渡会が人懐こいのは理解した。空気を読む力はある。TPOも弁えてる。決して舐められているとは思えない。だから、それは親密さの現れだとは思うのだが。



 その日、慈杏は渡会を仕事終わりに少し飲まないか誘った。秘めた決意には気づかれているのかいないのか。

 渡会は嬉しそうについてきて、カウンターに慈杏の隣に並びメニューをめくっている。


「あ、じあさん! ヤングコーンの唐揚げですって! (わか)もろこしを(から)もろこし、って、それただの(とう)もろこしじゃんねえ! うける」


「ねえ、その呼び方止めようよ」

 慈杏はげらげら笑っている渡会に、苦笑と諦めを混ぜたような顔をした。

 このやり取りは何度目だろうか。もはや期待はしていないが認めてはいないと伝えるためにも、慈杏は一応言ってみるのだった。


「じあさぁん」

 渡会はなぜか呆れたような声を出した。今更何を言っているのだとでも言いたいようなニュアンスだった。


 先輩と呼ばれていたはずだったのに、渡会はいつのまにか慈杏を愛称で呼んでいた。

 さん付けなだけマシだと思うべきだろうか。慈杏にとって、喉の小骨にもならない全く気になるものではないが、一応体面を気にすればプライベートでも多少上下は意識したほうが良いのかな程度の悩みであった。


「そもそも!

本当はJさんって呼びたかったんですよ⁉︎

もしくはシンプルにJっ」


「だって、Jさんて、じーさんって呼ばれてるみたいじゃない」


「わがままばっかり言ってからに!

この格好良さなんでわかってくれないんすか!

本当にもったいない! 親に感謝してます!? ガチリス!」


「がちりす?」


「ガチリスペクト! ですよ、やだなー」笑いながらバシバシ慈杏の背中を叩いて笑っている。何が嫌なのかさっぱりわからない。


「最近の若者言葉?」


 あまり年齢は変わらないはずだが、テレビやソーシャルネットワークサービスにはほとんど触れていない慈杏に、流行について行けている自信は皆無だった。

 仕事に関連する書籍や雑誌には目を通すようにしていたが、日々移り変わる流行に触れ、流行を作り出すくらいの気概を持つように言われている身としては、反省しなくてはと思わせてくれる後輩でもあった。


「オリジナルですよー! ジ・オリジン!

先輩も若者でしょうが! 仲間仲間!

うぃーあー!」


 ノリというかテンションというか、口調や言葉の使い方がころころと微妙に変わるのでなかなか掴みにくい。

 酔っぱらってんのか? と思うこともあるが、流行ってこういうところから生まれてくるのかもしれないと慈杏は思っていた。思うようにしていたと言う方が正確かもしれない。


 ただ。この愛嬌のある後輩からも、学ぶべき点はたくさんありそうだなどと、まじめに考えることが多いのは事実だった。

 それも込みでどうにも憎めない。憎めないし人懐こくもあるので、教育係になって時間を掛けずに、仕事終わりにふたりで飲みに行くようになっていた。


 渡会が慈杏を愛称で呼ぶようになったきっかけも、ふたりでバーに入りカウンターで飲んでいるときだった。


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