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太陽と星のバンデイラ  作者: さくらのはなびら
1章 計画と策動
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慈杏の決意2

『リアライズ』は順調で、少しずつ大きい案件が増えている一方、人員も増えていた。

 更に昨今の風潮もあり、残業や休日出勤などは激減していて社員の身体的な負担はかなり減っていた。


 大手の頃は残業が前提であるかのような仕事をしていたし、『リアライズ』創業当初も、スタートアップならではの忙しさもさることながら、新町も慈杏も大手の頃の考え方をそのまま持ち込んでいた。

 午後八時なんて外回りしていたメンバーが一通り戻ってきてミーティングした後、クリエイティブに取り掛かる時間で、「第二部」などと呼ばれていたものだし、大型案件の締切付近なんて会社で寝泊まりするのが当たり前で、午後十一時あたりを過ぎると徐々に寝場所の確保や、綺麗な寝袋を探し始めるものが目立ち始めたものだった。

 しかし、スタートアップの忙しさが落ち着き、創業メンバー以外の社員がある程度揃ったタイミングで、新町は体制に一気にテコ入れを図り、不健全な働き方は一掃された。

 最近は締め切りが想定以上に重なったり、入稿直前にミスが発覚したりするなどといった余程のイレギュラーが無い限り、原則午後七時には全員退社するルールになっていた。


 それでも仕事が回るよう、人員の数もだが、新町は仕組みと仕事の仕方をコントロールして、効率の良い仕事が行える環境を整えたのだ。

 結果として、案件の数はむしろ増えているが、人員はそこまで増えていないにも関わらず、残業をほとんどしなくてもクオリティを落とさずにプロジェクトを全うしていた。



 残業ルールについては慈杏も概ねは従っていたが、アイディアを出したい時、集中したい時など、スケジュール的に切羽詰まった状況では無くても、かつての先輩である現社長に、午後八時以降の作業を特例として認めさせていた。

 新町は慈杏の性格や特性を熟知していたので「後輩に悪い影響を与えないこと!」を条件に、どんなに遅くても午後十時までに完全退館も約束させ、特例を許したのだった。


 慈杏は電話などに邪魔されることがない、作業領域には誰もいない、時間も空間も自分だけのものになったような感覚になるこの時間が好きだった。

 静寂と、お気に入りのコーヒーの香り。

 慈杏のデスクのあるエリア以外は落とされた照明。抜き取られたような自らのいる光の枠と、それを守るように広がる暗闇。

 照明を落としたことで見える窓から見える他のビルの光。その光から微かに感じる、顔も知らない人たちの「働いている」という営みの気配。

 その全てが、慈杏を落ち着かせながらも、静かな意欲を燃えさせるのだった。


 集中して事に当たる時間はいつもあっという間に過ぎてしまい、「この時間がもっと続けば良いのに」と思っていた。



 続いてほしいかけがえのない時間を、自ら手放す決断を来る日が来るなんて、あの頃は考えもしなかった。

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