旗持つ乙女3
異なる立場だった者同士。ともすれば、いがみあっていた南北の者同士が、手を取り合いひとつとなり融合した、その証とも言える『ソルエス』を、何かを想うような遠くを見る目で、良いエスコーラと言っていたガビ。
そんなエスコーラで、慈杏はどう在っても良いし、何をしても、何を求めたって良い。
『ソルエス』で、慈杏はどんなダンサーになりたいかとガビに尋ねられたとき、慈杏は旗を持ちたいと即答していた。
元々お姫様と王子様のような衣装のカザウには憧れていた。
ガビが言っていたことはわかったような気がするし、やっぱりよくわからなかったような気もしていたが、太陽と星が一緒に描かれたバンデイラは良いものだと思えた。
それを持つのは誇らしいことだと思った。
会長以下何名かは空港まで迎えに行っていた。
商店街に戻り、商店街の主だった者たちとの挨拶などを終えたら、この練習場まで連れてくる手筈になっていた。
ガビが練習場に来るのは午後過ぎになると想定された。
衣装への着替え時間を考えて、慈杏と美嘉は早めに練習場に来ていた。少し早過ぎたかもしれない。
「ミカ、少し練習してようか」
美嘉の動きはかなり滑らかになっていた。
一方、止めやキメなどはダイナミックな動きも取り入れられるようになっていた。
午後には暁と羽龍も来る予定だ。
暁は実家に泊まったそうだ。
最近はちょくちょく実家に顔を出しているらしいと、慈杏は美嘉から聞かされていた。
そう言う美嘉は嬉しそうだった。
ガビが渡航前に話していたことで、思い出したことがあった。
ガビは渡航を間近に控えたあの日、確かに残していく子どもたちを心配していた。
一週間みっちり指導し、語り合えた『ソルエス』の子どもたち、ではない子どもたちのことを。
慈杏はその時は、辞めてしまったメンバーの子たちへ向けての言葉だと思っていた。
でも、今ならわかる。
あれはきっと、暁と羽龍、美嘉のことだったのだ。
――ガビに導かれて進み始めたこの道で、今わたしはミカと手を取り合って進んでいる。
――周りにはハルさんやアキさん、ウリちゃんがいる。みんなガビの教え子たちだ。
――メウ・コラソン。心のままに。
そのイズムはガビを知らないふたりのルイや百合くんに広がっている。
――いや、『ソルエス』に浸透したイズムは、この商店街に、この街に広がっている!
そのことを、ガビに早く見せたかった。
慈杏の回転が速くなる。バンデイラも強くはためく。
重い扉がゆっくりと開こうとしていた。
射し込む光が、揺れる太陽と星のバンデイラを輝く色に染め上げていった。