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果報2

 祭りは盛況のうちに幕を閉じた。

 今年は外部からの観客も多く、『ソルエス』は大いに観客を盛り上げていた。

 わたしが作ったWEB広告のおかげなどと自画自賛するつもりはないが、ソーシャルネットワークサービスを活用したWEBマーケティングの効果はそれなりにあったであろうことは、配信後のクリエイティブごとのパフォーマンスを示すデータからも読み取れた。


 盛り上がりは指数では表せないが、その場にいたわたしの感情が体感している。

 あんな大声出したのはいつぶりだろう。お陰で週明けは寡黙なボスを演じる羽目になった。

 自作のうちわも演者を鼓舞し周囲を盛り上げたはずだ。これは自画自賛しても良いと思う。

 変なうちわ呼ばわりしていた百合とは一度じっくり話し合う必要はありそうだが。



 弧峰の取組の成功に話を戻そう。

 祭りの成果はひとつのきっかけに過ぎず、高天くんと北光くんが主導していた市政を巻き込んだ都市開発の流れを新駅エリアと既存のリソースを持つ旧駅エリアとの相乗効果路線に変更したことが加速を生んだ。


 祭りの成果でこのエリアにもまだまだ人を呼べると実感した商店街の店舗たちはにわかに活気付いた。

 新駅絡みで市自体の認知度は上がりつつあるなかで、今回の祭りは地域のニュースなどでも取り上げられ、旧駅エリアにも注目が集まった。

 もちろん、『ソルエス』や商店街にはこの機を逃さずプレスリリースを流すよう勧めた。効果はあったようでいくつかの媒体でも取り上げられるようだ。

 その機運は『ベーカリーどれみ』の現店主にも良い影響を与えたようだ。

 無論抜かりなくプレスリリースは出しているので、この特需はもう少し続くだろう。


 相乗効果を狙うとなれば、新駅エリア側にとって、活気付く商店街は利用すべきものへと変わる。商店街へのポイントやクーポン、販促企画などの連携の話がスムーズに進んでいる。


 では、わたしの用意しておいたバックアップは無駄になったかと言えば、否だ。


 おそらく商店街の衰退には一旦は歯止めは掛かっただろう。

 現店主は年齢的にはまだまだ現役だから、数年は問題ないはずだ。

 しかし裏を返せば、五年十年は問題なくても、二十年三十年と続けられる可能性は高くは無い。

 いつかは必ず訪れるその時を、いつかのことと思っていたものが、急に現実的になったのが今回の弧峰家に起こったケースの本質だ。


 今目の前にあった問題は解消できた。

 だけどこの後いつ何がどうなるかなんて誰にもわからない。

 その時弧峰がどう考えるかはわからない。

 二十年後なら今とは違う気持ちで退社を選ぶかもしれない。それをわたしは快く受け入れるかもしれない。

 でも、数年後に予期せぬ不幸でまた決断を迫られたら?


 だから、準備はしておくに越したことは無いのだ。

 準備にわたしの用意したバックアップはそのまま使える。商店街と新駅エリアで相乗効果をもち拡大する市場は、元々地元の名店化していた『ベーカリーどれみ』に新駅直結のショッピングモールへの打診があった。

 高天くんたちの計画では移転の誘いで、一度は断ったようだが、新店舗ならどうだろうか?

 手が足らないとやはり断られるだろう。

 だが、もし手があるなら?

 今わたしの手元には意気軒昂な候補者が五人もいる。現店主のお眼鏡にかなえば良いが。


 サテライト計画も捨てたわけでは無い。

 テナント料次第だが、新駅エリアの商業ビルは実際に検討している。

 商店街の空き店舗でも良い。高天くんからはお勧めの物件も紹介してもらった。

 彼は会社を辞めてしまったからもし私が契約を進めても彼にインセンティブが入らないのは残念だが。

 別の方法でお返しはしたいと思う。彼の能力はあの若さで市と連携した新駅エリアの開発プロジェクトをまとめあげた実績からも折り紙付きだ。

 私から見ても魅力的な会社や経営者で、有能な人材を欲しがっているはいくらでもいる。高天くんが望むなら、紹介できる先は推挙にいとまがない。

 もっと言えば、『リアライズ』だって優秀な人材は喉から手が出るほど欲しい。

 サテライト計画を進めるなら自ずと人手は必要になる。

 メジャーデベロッパーで優秀な成果を残し、地方デベロッパーで行政と渡り合ってきた彼の持つ人脈や、サテライトを置くこの地域に強い点は魅力であることは間違いがない。だがそれ以上に欲しいのはその実績に裏打ちされた能力だ。

 もし彼がうちに来てくれるのならば、今のうちではまだまだ弱い国際企業やガリバー企業へのアカウント営業の部門立ち上げも現実的になる。

 そうだ、北光くんのところと組むのも良い。元々今回の件で実現した地域鉄道との提携を単発で終わらせるつもりはなかった。市政と繋がっている彼の事業は魅力的だ。

 国際企業と発展著しい地域それぞれに対し、グローバルとローカルを結び付ける提案ができないだろうか。

 おそらくうちだけでは手に余る規模になるだろうから、古巣に振っても良い。

 向こうのプロジェクトリーダーには地域に所縁のある美嘉くんが選ばれれば更に面白いな。

 久しぶりにあの人に連絡でもしてみようか。そういえばいただいたドルチェビータの使い心地も報告していなかった。



 考えれば考えるほど良い案のように思えた。

 なにより、高天くんがうちに来たら渡会が喜ぶなと何故か思った。何故だろうか。


 あまりに納まりの良い案でもある。

 さすがに都合が良すぎ、出来過ぎかとも思えるが、うちの社名は『リアライズ』である。

 僅かでも可能性を見出せたならば。

 確率がゼロでさえないのであれば。

 その実現が少しでもイメージできたのならば。

 それは、実現可能なプランにできるのだ。


 まずは、高天くんに物件の件で相談させてもらう時にでも、興味のある仕事がないか訊いてみようか。



 さて、斯様な結果に終わった今回の顛末。

 急場を凌ぐ延命で充分及第点だったものが、発展と万が一の対策を備えた恒久的とも思える体制の構築という着地を迎えることができそうだ。


 これは安心、安全、安定をもたらしてくれるだろう。

 その土台の上に、弧峰親子、高天兄弟、北光くん、百合、渡会、『ソルエス』メンバー、商店街、市民、観客……多くの人の人生が少し、もしくは大きく、良い方向に変わったように思えるのだ。


 だから、これは、良い。とても良い。


 最上の成果だと思えたのだった。


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