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楽観2

 本番の開始は刻一刻と迫ってきている。比例するように場の緊張感が高まっている気がした。


 改めて周りのメンバーの様子を見てみる。


 にいちゃんとの化学反応が期待できる渡会さんは相変わらずと言うかさすがと言うか、メンバー同士や見に来た知り合い、ついには知らない人とまで片っ端から自撮りしては騒いでいる。どんなハートしているんだろう。


 百合くんですら、緊張感よりも興奮の方が上回っているのか、不適な笑みでタンボリンの調整をしていた。


 みんな度胸が据わっている。

 いや、周りはあまり関係がない。俺は俺のやるべきことを完遂するだけ。

 やるべきこととは? 慈杏をエスコートし、エスコーラのバンデイラを観客に魅せることだ。

 何も難しく考える必要はない。

 期間は長くはなかったけど、空いている時間はほとんど練習に充てたし、練習は集中しておこなった。

 エンサイオ以外にもワークショップや自主練もした。人事は尽くしたはずだ。

 あとは実行するのみ。さあ、来るなら来い!



 その時、どん! と、スルドの音が響き他の楽器が続く。

 間を置かずカバキーニョの前奏が鳴り出した。


 始まってからは早かった。

 バテリアの大きな音の中にあっても届く観客の歓声! 嬌声!


 特別な日に特別な場所で。

 特別な衣装に身を包み、特別なポジションで、特別でも何でもない俺がここにいる。

 人々の注目を、声を浴びている。

 これでは、勘違いしてしまいそうだ。自分が特別な存在だと。控えめに言って気持ちが良い。


 もっと観客に喜んでもらいたいと、負担の大きい派手なターンを決めた。

 目の前の観客が湧いた。

 ああ、勘違いしそうになる。メストリ・サラの役割。ポルタを輝かすことに徹さなくては。


 息が切れる。汗が止まらない。

 ゴールラインを超えても止まっていては次々ゴールを迎える後ろのポジションの邪魔になる。速やかに控室のある建物まで移動しなくてはならない。

 パレードの範囲外でも祭りの見物客はいくらでもいるから、だらしのない姿など見せられない。背筋を伸ばし笑顔を作って移動する。


 やり切った。やり切れたか? やれた、と思う。

 呼吸を整えながらカベッサ(頭飾り)を外す。

 これがとにかく重く、頭を締め付けてくるので辛い。汗でシャワーを浴びたような状態の頭をサポートのスタッフが渡してくれたタオルで拭いながら控室に向かう。


 普段はフロアでの練習だったから、路上では勝手が異なり、ターンがしにくくもあったが、リズムから外れることもなく想定していたトリックはこなせたと思う。

 慈杏のエスコートも、うまく意思の疎通はできていたと思うし、各場面でバンデイラを美しく魅せることはできていた。

 バンデイラを広げる場面ではとにかくミスなくやるのに必死で、観客を意識できてはいなかったし、表情も固くなっていたかもしれない。

 反省はあるが、観客に披露するに能う最低限の演技はできたのではないだろうか。

 各所で観客は盛り上がってくれていたと思うし、慈杏が嬉しそうにしてくれていることからも、そうであったと思いたい。


 反省点や後悔は次の機会に活かそう。

 その次の機会は、早速二時間後のステージで訪れるのだから。

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