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奏楽

 良く晴れている。

 祭り日和だ。

 そして、圧倒的なサンバ日和でもある。


 晩秋とは名ばかりの、強い日差し。

 それでいてからっとした空気。


 準備に準備を。研鑽に研鑽を。

 積み重ね練り上げたそれらを、吐き出すべき日。『サンスターまつり』ら、天の祝福を受けたような陽射しに包まれて始まった。



 俺たちの芯にある熱く煮え滾った情熱を、爽やかに軽やかに伝播させるのに適した日であると思った。


 心なしか、ここ最近は例年にない活気を感じていたが、今日は殊更熱量があるように思えた。そう、迸るほどの熱が。


 祭りが迫りつつあったことももちろんあるだろう。

 本番が近づくにつれ高まる緊張感と高揚感だ。

 メンバーが増えたことも大きいだろう。



 ジアンのおかげでカザウが揃った。

 ミカは飲み込みが早く既に戦力として数えても差し支えない。


 実際問題として、カザウの不在はエスコーラとしては痛手だった。

 唯一の男性ダンサーとなった俺がやると言う選択肢も無くは無かったが、プレヂデンチとメストリ・サラが同一人物では、舞台でバンデイラにエスコーラの主要人物がキスをする重要な儀式である「ベイジョ」が出来なくなるといった演出上の問題だけでなく、エスコーラにとっての重要なポジションは兼任ではなく専任でそれぞれ存在していてほしいと思っていた。

 まあ、単純にマランドロで在り続けたいといった本音も少しある。


 るいぷるはダンス経験者だけあって即戦力だ。先輩だが年下のルイもるいぷるを意識してか最近は練習に身が入っているように見える。

 掘り出し物はアキとウリだ。

 スーツの似合うふたりだから見栄えには期待していたが、想像以上にマランドロスタイルにハマっていることといったら!


 今まで俺だけしかいないポジションだったから、どうしても位置付けの扱いに持て余すこともあったが、これからはマランドロだけでアーラ(グループ)を組んだりショーをしたりもできる。


 ミカもそうだが、ふたりはサッカーでガビの教えを受けていたと聞いた。

 そういう意味では俺たちは同じフィロソフィーをもつ兄弟だ。

 俺のやりたかったガビから授かったイズムを汲んだマランドロショーの演出意図は伝わりやすいかもしれない。


 アイジは家でも練習しているようで既に基本は押さえてくれている。

 演者としてだけでなく、ジアンやるいぷるもだが、アイジは人一倍クリエイティブについても精力的で、祭りのイベント告知のほか今後のイベントへの集客やメンバー募集の面でも貢献してくれそうだ。


 ジャックのモチベーションが上がっているのも頼もしい。

 釣られてかうちの親父をはじめ、創設メンバーも祭りに参加する気で練習にも良く顔を出すようになった。

 それぞれが好き放題口を出してくるのには辟易とすることもあるが、創設メンバーは全員バテリアとバンドのメンバーだから、バテリアとバンドには良い刺激になっている。

 単純に人数増の影響もあり、音に厚みが出ていて、それによりダンサーたちのテンションも一層上がっている。



 まさに好循環のスパイラル。

 プレヂデンチとしては、この機を最大限活かす義務がある。

 メンバー全員を楽しませ、エスコーラの礎を固め、より盛況に!


 ついつい力が入ってしまう。なるほど、活気の源はこれか。

 皆がそれぞれ、この後の祭りに、これからの『ソルエス』に、えも言われぬ期待を持ってしまったからなのだと思った。


 良いだろう。

 各々が灯した心の火は、俺が責任を持って燃え盛らせてみせよう。



 さて、そろそろ出番だ。

 スタンバイ前に短めのスピーチでメンバーを鼓舞するのもプレヂデンチの務めである。


 プールオムをロールオンで手首と首に塗るいつものルーティーンを済ます。


 よし、昂ってきた。


「みんな、準備はできているか⁉︎」


 応! のレスポンスが小気味良い。


「出し惜しむ必要はない。感情の解放がサンバの本質だ。みんなの想い、『ソルエス』の情熱! 思うがままに吐き出すぞ‼︎」



『ソルエス! シェゴウ‼︎』



 俺の掛け声に、メンバー全員の声が重なった。


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