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変化

 大事なものなど作ってこなかった。計画の邪魔になるから。


 執着するものなどなかった。

 金にも物にも、人間関係にも。計画以外には。


 ただそれだけのために駆け抜けた二十年だった。

 削ぎに削ぎ、意志を貫く機能として純一さを尖らせ続けてきた俺に、守るものなど何もないと思っていた。

 だからいつだって身軽で強気、時には捨て身で攻めることができた。それが自分の強さの真髄だと、成果を上げ続けてきた要因だと信じていた。


 しかし、いざ己を鑑みてみれば、ただ手放すだけでもこんなにも手間のかかるしがらみが、幾重にも自らを縛っていたのだと思い知らされた。



 烏我への連絡はあの日、その日のうちに済ませた。

 遅い時間でも良いという話だったから、二十三時を過ぎていたがワンコールもせずに繋がった。業界は違えど、彼も仕事人間なのだと思った。


 想像通りごねられたが、契約前だったことに加え、手付として用意していた幾許かの現金を提供することで納得は得られた。

 以後新たな請求は求めず、今回の契約に関する経緯の履歴はお互い一切残さず漏らさないと、お互いのみが理解できる表現の文章で覚書も交わした。

 元々向こうの会長とこちらの社長は繋がりがあるから、そもそも大事になりはしないと思うが、一般企業以上に形としてのケジメには気を使う必要があった。



 会社には退職届を出した。

 一応引き留める言葉は口にされたが、あっさりと受理された。

 新駅エリアの開発に関する引き継ぎもようやく終えた。既存の商店街への動線をつくり、相乗効果で街全体のパイを広げて新駅エリアの発展を図る新プランは、当初のプランとは趣旨を大きく異なっており、社長をはじめ社内からは反対を受けたが、羽龍経由で市の方から、市にとってよりメリットの大きそうなこちらのプランの方の支持を取り付け、軌道修正を図ることとなった。


 まだ完結はしてないが道筋は整えた。あとは手順通り進めれば良い。



 何にも縛られていないと言うのはこんなにも気持ちが軽くなるものだったのか。


 組織もしがらみも仕事も、そして呪縛からも。


 次の仕事が決まっているわけではない。


 将来の計画ももうない。


 目的も失った。


 無鉄砲な若さで走れる年齢ではもうないだろう。

 不安や虚無感が一切ないと言えば嘘になる。それでもとても軽やかだ。


 きっとどこにでも行けるしなんだってやれる。



 さて、なにをやろうか。


 そういえば美嘉たちが出る祭りはあと二ヶ月後か。

 一緒にやらないかと言ってくれたのは弧峰さんだったか。

 仕事を辞めてどうせ暇なのだろうと余計なことを言っていたのは渡会さんだ。無職になった人間に、もう少し気は使えないものだろうか。


 なぜか口元が緩むのも、気分が軽くなったせいかもしれない。


 俺がサンバ?


 尚笑いが込み上げる。

 似合わないにも程がある。

 でも、それも良いかもしれないな。意外と羽龍も乗り気だったようだし。

 思えばサッカーを辞めて以来、美嘉と同じ分野で一緒に何かをするなんてことはなかった。今度は後輩の立場になるわけだ。それも悪くないと思った。


 何にも縛られず、囚われず、今心に思ったことを思うがままに、やってみようか。



 とにかく心が軽い。

 何かを終わらせるのも、始めるのも、とても簡単なことだったのか。

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