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初七日(当日)

本日2回投稿

初七日の夜。


部屋の空気が、少し重かった。

低く沈む声で、やすくんのお義母さんが言った。


「……指輪は、遺骨と一緒に入れてあげてもいいかしら?」


私はは、手の中の指輪を見つめた。

小さな光が、指の温度を受けて静かに揺れている。


「それが、あの子も喜ぶと思うの」

その声は震えていた。

「きっと、あの子は天国でも、あなたのことを思ってるわ」


あかりはうつむいたまま、唇を噛んだ。

喉の奥が、かすかに焼けるように痛い。


「……あの、」

言葉を選びながら、かすれた声が漏れた。

「外したくないんです」


指輪をなぞりながらあかりは続けた。


「結婚していないけれど、プロポーズはされました。

この指輪は……私が、康之さんと過ごした時間の証なんです」


やすくんのお義母さんの目に涙が浮かんでいる。それでもあかりは続けた。


「形見として、持たせてください。

これがあることで、まだ“彼の隣”にいられる気がするんです」


しばらく、誰も言葉を発さなかった。

時計の秒針の音だけが、部屋に響く。


やがて、お義父さんが静かにうなずいた。

「……そうだな。康之も、君に持っていてほしいと思うだろう」


やすくんのお義母さんは小さく笑って、涙をぬぐった。

「そうね。あの子、優しかったから……。

あかりさんが悲しむのは、きっと一番嫌うわね」


あかりは、うなずくだけで精一杯だった。

指輪をそっと握りしめる。

体温で、少し温かくなる。


帰り道、携帯の画面を見た。

最後の着信、水曜日の夜。

「康之」の名前を指でなぞる。


――電話しても、もう出てくれない。


つぶやくように、口からこぼれた。


「さよなら……大好きな人」


遠くで、風の音がした。

明日は、水曜日十時のドラマの最終回。

もう二度と会えないことだけが現実。

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