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三日目

葬儀の後は、父と母に付き添ってもらってアパートへ戻った。


「まずはシャワー、それからちょっと寝なさい」

と母が指示をとばす。言われた通りに動く。何も考えたくない。明日は土曜日だし、眠ろう。


そして目覚めた土曜日明け方。薄暗い部屋にテーブルにラップに包まったおにぎりと1枚のメモ。

『おはよう。ごはんを用意したから食べてね。またきます。母』


電気をつけてキッチンへ向う。こんな時でも喉は乾く。


結婚式は今年の12月だった。もう招待状も送る最終段階だった。


今日の予定は式場の打ち合わせ。引出物の最終確認と、ドレスの小物を決めたりするはずだった。キャンセルを入れて事情を話さなきゃね。


携帯を持つ手が震える。


動け、私の体。


式場のキャンセル、伝えるんだ。もう、会えない。


二人で打合せしたことをたくさん思い出し、まだ涙が出た。こんなに泣いたのに、まだ涙って枯れないんだ。


式場をいくつ回ったかな。値段と相場がわからなくてネットで調べたこともあったよね。真剣な横顔、ふざけて話が逸れて長くなった打合せ。


ああ、あの横顔も、振り向いた笑顔も。もう、見れない。一緒にいれないことがつらすぎる。無理だよ、やすくん。


深呼吸して電話をかけた。担当者の名前を伝えて保留になる。自分でも震えてるって分かる声で式場のキャンセルを伝えた。


手付金はすでに支払っている。キャンセル料は今回は事情が事情ということで、いただきませんと言われた。


ご冥福をお祈りされた。そうだよね。

決まり文句さえも自分に言われたことが理解できない。


昨日から「突然すぎて」と言う言葉を何度聞いたことか。人の死は突然と聞くが、実際に自分の身におきるとは思っていなかった。


携帯を手に持ち、やすくんとの思い出に浸る。

実家の母からの電話に気づくとすでにお昼が過ぎようとしていた。


喪服はクリーニングに出すために紙袋へ入れた。来週の初七日は黒のスーツにしよう。


クリーニングを出した後は近くの河川敷を歩いた。


湿った空気と遠くになる雷が、夕立ちがくることを伝えてる。

まだまだ日中は暑いけれど、週末には秋雨前線が降りてきて、朝晩が涼しくなるらしい。


じめじめした空気に夏祭りを思い出す。あの時も雨が降った。夏のゲリラ豪雨。浴衣の私は荷物を少なくしたいと準備のときに愛用の折りたたみ傘を部屋の机に置こうとしてた。


「まだ日が高いから持っていきなよ」

と彼が肩掛けリュックに入れた。私の日傘にもなる折りたたみ傘を二人でさして大粒の雨が止むのを待った。


「結構降ってるね。花火上がるかな」


雨の音で自然と顔が近くなる。足元の裾は水気を吸い込み、すでに肌に張り付いている。傘なしの人達やシートを拡げた人達が慌てて片付けしている。


さすがに中止かなって思っていたけれど1時間後に再開するという放送に喜ぶ声が拡がった。


私の折りたたみ傘に二人。濡れないようにと触れ合った肩が熱くて。夕立ちで涼しくなったはずなのに、顔の火照りはとれない。心臓の音を聞かれてしまうんじゃないかと思って見上げたのはあの木の下だった。


雨が降り出した。

あの時と同じように人々が足早に駆ける。


傘はない。

もう、一緒に肩を寄せ合うこともない。


頬の涙はすぐに雨に混ざった。


帰宅後は指輪のキャンセルの電話をした。

式場と同じように、ニュースもあったからか、事情は説明不要だった。


『実は、康之さんが、サプライズで婚約用に購入されていった指輪があるのですが、受け取りにいらっしゃいますか?そちらはすでに出来上がっており、お渡しの準備ができております』


明日は指輪を受け取りにいくことになった。

作品を見つけてくれて、読んでくれて、感謝します!

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