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その後

「ドラマみたいだね」


「実話です。私も今でも自分の身に起こったことなんて思えない時もあるんですけど、ね」


 この話をする時はいつも指輪を擦りながらだ。穏やかに、にこやかに、まるで他人事のように話せるようになったのは暖かさを感じる季節だった。ちょうど去年の桜が咲き始めるころだろうか。


 法要にはもうこないで自分の幸せを探せと言われた。三年忌だった。


 初七日から、土日に変更になった四十九日、あっという間に季節は冬になっていた。


 月の命日には会いに行って、その度に指輪をなぞりながら位牌の前で話をした。時間が解決してくれるっていつかの先輩が話してたのを思い出す。確かに忘れてないけど、思い出として残ってしまっている。そうしないと生きていけなかったという気持ちもある。




 今日は30になる前に結婚した大学の友人の2次会に参加している。


 指輪を見られて、新婚さん?と聞かれてしまい、


 事実を淡々と語る。そして、冒頭に戻る。


「素敵ですね。ずっと思われているなんて、彼が羨ましい」


「こいつ、奥さんに浮気されてバツイチなんすよ!どうですか?」

 酔い過ぎた彼の同僚だろうか、大きな声で、紹介して、彼にどつかれている。結婚式の二次会で言うことではない。“浮気“とは。まあ、私も死別だから人のこと言えないけど。


「その指輪、婚約指輪ですか?」


「そうです。結婚指輪はキャンセルしたので」


「素敵な指輪ですね」


「ありがとうございます」


 指輪を褒められるなんてことは今までなかった。外せないことがだめみたいな気持ちだったから。


「これ、お店でサプライズで予約してたらしく、受け取りに行ったら、これからもよろしくって刺繍で箱の裏側に縫い付けてあったんですよ。もう、これからもっていないのに」苦笑いしながら話す。


 私は何を、話しているんだ。大概酔いが回ってきたのかな。指輪を褒められたことなんてなかったし、彼は思い出にして、幸せになれっていう周りのプレッシャーが大きかったのかな。意固地になって指輪を外さない自分に両親は悲しそうな表情をするのにも疲れた。


「ちゃんと、一緒にいるじゃないか。指輪外してないし、これからも外すことないよ。これからもよろしくって。思いがある限り、外すことなんてしなくていいと思うよ。そもそも、結婚指輪は死ぬまでつけておくものだ。まぁ、僕は相手に外されたし、そこで思いが無くなって外したけれどね」


 最後は戯けて自分の手をフラフラさせた。


「いろんな出会いと別れがありますね」

何と言っていいかわからないまま、曖昧に答える。


「うん。一途な人って素敵だよね。忘れられない人がいるのが、素敵だと思う。」

彼がそう言うので、私は少し驚いたように目を瞬かせた。

周囲のざわめきが遠のく。

彼の指先がグラスの縁をなぞる音だけが、やけに鮮明に響いた。


「……そう、思えるんですね」

「うん。だって、ちゃんと誰かを愛した証じゃない?」


わたしは微笑みながら、自分の左手の指輪にそっと触れた。彼は視線を落とし、小さく息をついた。

その仕草が、なぜだか少し胸に残った。


彼を失ったわたしと、誰かに裏切られた彼。

出会うはずのなかった二人が、

その夜、静かに同じ痛みを分け合った気がした。

ありがとうございました。

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