少女たちの学校生活 2日目
登校直前
「この白紙は何かな?叶夜ちゃん?」
叶夜の前には、プリントと、笑顔の裏におぞましいものを感じる母の姿があった。
「えーと、それは……今日が提出日の宿題です」
素直に口にしたが、叶夜はそれが間違いだったと後悔することになる。
「そうだよね?そして昨日は何をしたの?」
「……音ゲーをやっていました」
「何時まで?」
「……12時です」
母はさらに笑みを深くしてこういった。
「早く起きてゲームするのもいいけど、ゲームと宿題、どちらが大事かは分かるでしょ?」
「……はい」
宿題の提出まで残り8時間。それまでにこの白紙のプリントを隙間なく埋めなければならない。
(なんでゲームしたんだよ!昨日の私!バカ!アホ!)
昨日の自分に罵声を浴びせながらも、叶夜はシャーペンを握った。
1限目 技術家庭 技術科
「それじゃ、それぞれ自分のプランターを持ってきて、肥料をやってねー!」
妃唯は自分のプランターを持ってきて、盛大にため息をついた。
(なんでこんな育っちゃってるのかなぁ、ジャングルみたいになってるんだけど)
妃唯のプランターには数本、バジルが植えてある。発芽できた8本のバジルは栄養分をぐんぐん吸って大きく成長していた。
(水やりがクラスの当番制になってるし、先週のこの授業は休んだから2週間ぶりの顔合わせだけど、まさかこんなになってるとは……)
一見良いように見えるが、葉の下の方が影になっており日が当たっていない。
(なんか間引くのもかわいそうになってくるんだよね、愛情が芽生えてしまった)
悩んでいたところに、横から手が伸びてきた。
「えーい!!いただき〜〜!!」
同じ班の男子だ。
(何してんのよ!!というか他の人の作物を勝手に抜くな!!)
妃唯の怒りはごもっともだ。だが、こうも考えられる。情が湧いて間引けなかったバジルを彼は代わりに間引いてくれた。
(……まあいいか)
どうやら妃唯も同じ考えに至ったようである。
2限目 国語
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少しあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる」
有名な「枕草子」の一節だ。
(なぜ今日に限って暗唱テストがあるんですかー?)
李凪は運命を呪いたくなった。今日は「枕草子」の暗唱テスト。春から冬までの全ての文を暗唱しなければならない。
(さっきから頭が痛いのにぃ……やめてください……)
彼女の頭痛の原因、それは英語の単語テストのために徹夜で勉強したことだった。(徹夜での勉強はおすすめしません。寝たほうが記憶も持続します。)
「だ、大丈夫?体調悪いの?」
睦季が心配している。実際、周りが心配するほど李凪の顔色は悪かった。
「大丈夫だよ!たぶん。(何が何でもテストだけは受けたい……!)」
結局、テストを受けた後に保健室へ連行された李凪であった。
(テスト受けられて良かったです……満点じゃなかったけどね)
李凪は意識を手放した。
3限目 音楽
(うん。無理でしよ。こんなの)
釉音は手元に配られた鑑賞プリントを見てため息をつく。
「ちゃーんと5行は書いてね〜」
そのプリントには10行ある。つまり半分は書け、ということだ。
「せんせー、適当でいい?」
適当で何が悪い。むしろ書くだけ偉いと思う。少なくとも配られた瞬間に紙飛行機にするやつらよりは。
(そもそもクラシックのどこがいいんだよ、ポップスとかボカロとかあるじゃん。今の時代は軽音楽だよ)
なぜ未だにクラシックの鑑賞をしなくてはならないのか、釉音は疑問だった。
音楽が流れる。確かにいい曲だとは思う。でもそれ以上の感想はない。
(あーあ、また宿題になるやつだ)
書き上がった自分の感想用紙を見えないように隠すと、釉音は目を閉じた。
4限目 数学
(ひ、ま、だ)
爪をいじりながら、ただ時間が過ぎるのを待つ。
(ほんとに、なんでこの時間があるんだろ?ぼっちへの理不尽な罰なの?)
今は友達との相談の時間だ。各々が友達のところに行って、分からないところを教え合ったり、答えを見たりする時間だ。建前は。
だが、この時間はほとんどが雑談タイムと化している。このおかげでそれ以外の時間での私語がかなり減ったのだが、鈴愛のようなぼっちには地獄のような時間だった。
(いくら待ったってだれも来やしない。無駄だよ)
そんな鈴愛が時間つぶしとしてしているのは、周囲の観察だ。どんな動きをしているのか、どんな話をしているのか、人と人との関わり合いは、見ているだけで面白かった。
顔を上げてみる。まず視界に入ったのは、李凪とその隣の席の男子。今見た感じではかなり仲が良さそうだが、時々李凪がキレて教科書で殴っているのを見るに、恋人ではなさそうだ。というか、李凪はどんな人にも優しく接するから、周りも勘違いしそうになる。
(このクラスで李凪が本気かどうか分かるのは、いつも一緒にいる……誰だっけ?)
名前を思い出せず、その人のほうを見る。だが、ここで鈴愛は「その人」に共感することになる。
(あ、あのこ……ぼっちだ!!!)
初めての同胞。つい嬉しくなって話しかけに行こうとする。が、彼女の行動を見て、すぐに思いとどまった
(あれ、なにか書いてる?あれは……絵!?)
「その人」に対する鈴愛のイメージは、「頭が良くて真面目」だった。
だが、今の行動はどう見ても真面目とはいえない。授業プリントに堂々と絵を描く姿は、まるで開き直った問題児の姿だった。
(やっぱ無理かも……絵を描く邪魔とかできない……)
結局、その日からも話しかけることはできなかった。
5限目 総合(自習)
シャーペンの音が響く。一斉にプリントが配られ、それを解いていく。
「残り10分になったら答え配るからね」
先生はそう言うとパソコンを開いて自分の仕事を始めてしまった。
それから20分後。流風はシャーペンを置いた。
(疲れた……5限目だからかもだけど、とにかく疲れた……)
問題自体は簡単だったが、数が多かった。
(寝ようかな……隣の子も、前の子も、斜め前の子も寝てるし……)
腕を組み、机に伏そうとした時、それは起こった。
(わああああああ!!!先生なんでこっち見てるの!?仕事してて!!こっち見ないで!)
偶然クラスの様子を確認していた先生と目があってしまった。気まずい。非常に気まずい。
(あああ、ここで寝たら絶対ダメだ。先生が他の方向向いてからにしよ)
だが、結局先生が気になりすぎて寝られなかった流風だった。
6限目 社会
「はーい、号れーい」
「起立、気をつけ、お願いしまーす」
叶夜は号令をかけた。が、心の中は穏やかではなかった。
(やばいやばい、あと3問ってとこでチャイムなっちゃったんだけど!?)
手で隠せばなんとかいける…?など誤魔化す方法をとにかく考える。なんとか余裕を作り出し、冷静に考える。
そこに、光明がさしてきた。
「ほーい、じゃ今日のプリント配るからなー」
(来たかも!?先生宿題のこと忘れてるんじゃね!?)
だが、こういうときに限ってうまくいかないものである。
「せんせー、宿題は?」
「ああ、いっけね。忘れてたわ。宿題出してー」
(あああーー!何やってんだよお前ぇぇ!もうちょっとだったのに!)
幸いにして先生が確認するまで5列ある。3問くらいなら解けるはずだ。
(急げ〜急げ〜)
見つからないようにちゃちゃっと書く。雑な字だが、背に腹は代えられない。
(終わった……!)
「よし、李凪は合格。次、叶夜……よし、合格」
(あっぶな〜〜)
なんとかやり過ごせた。しかし、これからは家に帰ったらすぐに宿題をしようと思う叶夜だった。
帰り道
「あれは、叶夜ちゃんと李凪ちゃんか。吹奏楽部の練習あるんだね」
美術部の流風は2人を横目に見ながら下駄箱に向かう。
「あはは、わたしたちは暇人文化部だからね」
隣には科学•情報部の睦季がいる。
美術部、文芸部、文化研究部、科学•情報部は暇人四天王と言われるほど活動がない部活だった。厳密に言えば美術部のみ毎日あるのだが、ほぼ開店休業状態である。
「まあ青春じゃないけど早く帰れるからいいよね」
早く帰ってゲームや動画に熱中するのもまた彼女たちなりの楽しい時間の使い方なのだ。
そしてそれは、きっとこれからも同じだろう。
何日、何ヶ月、何年過ぎたって、この日常はいつでもここにある。決して消えない文章の中に。
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短編シリーズ作品の2回目です。超☆短いので読みやすいけどあんまり記憶に残らないかも……?
謳歌できなかった青春を文章の中だけでも謳歌しようと生まれた作品たちです。喜んでいただけたら嬉しいです!




