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「夢かなって異世界の王女様に転生しましたが……、この王女様、思ってたのと全然ちがう!」 ~廃嫡寸前のダメ王女に転生した私、魔法王国のキラキラ王女様を目指す~  作者: 白うさぎの子
第1章 「いきなり廃嫡宣告!?」陛下の無茶ぶり 編

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第7話 異世界に来てから初めての就寝

「よっ……、よろしくお願いします……」


 私の目の前に可愛い生き物がいる。


 私は、その本人に聞こえるように呟(つぶや)いた。


「あまりにも可愛すぎて、同一人物とは思えない……」


 一人分ぐらいの距離を置いて、パジャマ姿のアリエッタが枕を抱えて、ベッドの上にちょこんと座っていた。頬を赤く染めて恥じらう姿は、普段は仏頂面(ぶっちょうづら)のアリエッタとは思えないほど、とても可愛らしい。


 しかも、アリエッタのパジャマのデザインが、私が理想とするお嬢様仕様だ。


 前世のような味気ない上下セパレートタイプのパジャマではなく、上から被るようなワンピースタイプのパジャマで、袖や首元にひだ飾りがあしらわれていた。アリエッタは「ヒラヒラ」のあるドレスを知らないと言っていたが、そこにはまさに「ヒラヒラ」が付いていた。


 もしかすると、私とアリエッタの前提知識が異なるため、想像する衣服の形状が違っていたのかもしれない。


「アリエッタさん。とっても可愛いですよ。……私、アリエッタさんと一緒に寝られて嬉しいです」


「ひぃぃ……」


 アリエッタは、自分の身体を両手で抱き締めるようにして怯(おび)える。


「……いや、あの、別に変なことをするつもりはありませんよ? 私はそういう趣味はありませんので」


 私は、顔を青くして怯(おび)えるアリエッタを見て苦笑した。


「まぁ、お姉ちゃんと一緒に寝ると思って、気楽にしてくださいね」


 私が優しくそう言うと、アリエッタは急にきょとんとした表情を浮かべた。


「……あの~、ソフィア様」


「はい、なんでしょう?」


「もしかして、記憶喪失のせいで、私を年下だと思ってます?」


 ……え、違うの?


 私が首を傾げていると、アリエッタは小さく笑うように言った。


「私は二十歳(はたち)ですよ。ソフィア様より三歳も年上です。ですから、私の方がお姉ちゃんです」


「えぇっ!? 私よりも年上だったんですか!? 『こっちの世界』には、こんなに可愛い二十歳(はたち)の美少女がいるの!?」


 私は思わず「異世界転生」を匂わせるような発言をしてしまい、慌てて口を押さえた。すると、アリエッタは私の言葉に目を丸くして黙り込む。


 ──しまった! 口を滑らせちゃった!!


 私が警戒しながらアリエッタをじっと見ていると、アリエッタは唇を震わせながら、声を絞り出すように叫んだ。


「びっ、びっ……美人のソフィア様に褒められても、私には嫌味にしか聞こえませんよっ!!」


 ……アリエッタは、外見を褒められて、もの凄く喜んでいた。両手を頬に当てて、とても嬉しそうにしている。私が口を滑らせて発した単語に気付いた様子はない。


 ……というか、アリエッタさん、超カワイイ~!


 私が「ふふっ」と笑うと、アリエッタは照れ隠しをするようにコホンと軽く咳をして、侍女についての説明を始めた。


「そもそも、未成年の主人の侍女が、主人よりも年下になることはありません。主人よりも未熟な侍女では困ります。……まあ、私は優秀ですから、ソフィア様の侍女としては最年少だそうですけど」


 すると、アリエッタは右手の人差し指を立てて振り始めた。もしかすると、この仕草は、アリエッタの癖なのかもしれない。


「それに、ソフィア様は王族一の問題児ですから、年下の侍女はあり得ないです。ちなみに、本来なら年長のベテランの侍女がソフィア様の専属になるべきですが、どうして私がソフィア様の侍女になるのを認められたのか分かります?」


 私は顎(あご)に指を当てて少し考える。


「……えっと、歳が近い方が話が合うから? 私と仲良く出来そうとか?」


「いいえ、全く違います。性悪(しょうわる)ソフィア様と仲良くしたい侍女なんていません」


「ぐぁっ! 言い方がひどい……」


 私がアリエッタのいつもの返しにショックを受けていると、アリエッタは「理由は簡単なことですよ」と言いながら、答えを教えてくれた。


「ソフィア様を追い掛けて捕まえるのに、体力がいるからです。そして、暴れまわるソフィア様を押さえ付けて縛り、この部屋に運ぶ必要があるんです。そんなのが毎日続くんです。重労働すぎて、お年寄りには耐えられません」


「あ~、なるほど! 納得です! ……そして、ごめんなさい」


 私はガックリと項垂(うなだ)れつつ、アリエッタの説明を受け入れた。


「それじゃ、おしゃべりはこれぐらいにして、『魔法補助』を始めましょうか」


 アリエッタはニコッと笑うと、私の枕を少しずらして自分の枕を隣に置いた。その光景に、私は前世の新婚の頃を思い出す。……そういうコトをする訳ではないのに、なんだか急に恥ずかしくなってきた。


 ──転生してから初めての就寝が、可愛い女の子との添い寝なんて……。私にはそういう趣味は無いけど、今夜、そういう趣味に目覚めちゃったらどうしよう!?


 私は首を左右に振って雑念を払う。すると、アリエッタが私を見て首を傾(かし)げた。


 私は気持ちを切り替えるべく、慌てて『魔法補助』の疑問点をアリエッタにぶつけた。


「えっと、アリエッタさんは、添い寝が『魔法補助』だと言っていましたよね? 私には、どうして添い寝が『魔法補助』になるのか、さっぱり分からないのですが、教えてもらえますでしょうか?」


 私の問い掛けに、アリエッタは女の子座りのまま私の方を向くと、真剣な表情で「魔法補助」の説明を始めた。


「ソフィア様は『魔法(エーテル)分離の祝福』についてはご存じですか?」


「はい。今日、一年生の教科書で学習しました。『魔法を使えるようになるための条件』と書かれていました。そして、この空間はエーテルで満たされているということだったと思います。その認識で正しいですか?」


「はい、その通りです。『魔法(エーテル)分離の祝福』の儀式の中で、人の魂の中に混ざって存在している『霊力』と『魔力』を分離させます」


 アリエッタは、合わせていた両手を離すようなジェスチャーをして、霊力と魔力の分離を説明した。この辺りは、図書室で学習した通りの内容だ。


「実は、空間のエーテルと、人の中にあるエーテルは別モノなのですが、その説明は中等部や高等部の教科書に出てくると思います。ちなみに、『霊力』は人間が生きるための根源的な力です。別名、『生命力』とも言われています。一方、『魔力』は、その名の通り『魔法』を使うための力です」


 魔法の根源となるエーテルにも種類があることを、この時初めて知った。魔法はなかなか奥が深い。


「叙爵(じょしゃく)された貴族を除いて、生まれながらの王族と貴族は、赤子の時に『魔法(エーテル)分離の祝福』を受けることになっています。当然、王族であるソフィア様も祝福を受けているはずです」


 私にはその記憶はないが、きっと祝福を受けていると信じて、アリエッタの言葉に軽く頷(うなず)いた。


「しかし、霊力と魔力が分離されただけでは、魔力は混沌としたままです。……『淀(よど)んでいる』と表現したら分かりやすいでしょうか? 魔法を使うには、魔力に流れを生み出して、自在に操作する必要があります。流れのない魔力では、魔法を扱うことはできません。そして、魔力に流れを生み出すことは、机上の勉強だけでは非常に難しいのです」


「……えっと、つまり、この『魔法補助』を経ることで、私の魔力に流れが生まれるということですか?」


 アリエッタはコクリと頷いた。


「理屈としては、その通りです。ソフィア様は魔力を操作することができないので、私がソフィア様から魔力を強制的に吸い上げ、それを再度ソフィア様に流し込みます。それを今夜、一晩中行います」


「えっ!? 一晩中っ!? アリエッタさんは眠れるんですか!?」


 私が目を丸くして驚くと、アリエッタは軽く笑みを浮かべた。


「ふふっ、大丈夫ですよ。最初の一時間程は意識して『魔法補助』を行う必要がありますが、その後はポンプのように、勝手に魔力が行き交うようになるんです」


「そうなんですね。……アリエッタさんが眠れるのなら良かったです」


 私はアリエッタの説明に安堵した。


「結果として、明日の朝には、ソフィア様の体の中に魔力の流れが生まれている……というのが『魔法補助』の目指すところです。私は母の『魔法補助』を受けて、翌日には光を灯す初級魔法が使えるようになりました」


 ──なるほど。話を聞く限りでは、「魔法補助」は効きそうな気がする。……でも、こんな恥ずかしいこと、肉親じゃないと難しいね。


「ただ、全ての王侯貴族が、同じ方法で魔法を使えるようになるわけではありません。『私には母からの魔力補助が有効だった』というだけで、ソフィア様に同じ方法が効くかどうかは分かりません。そこは誤解のないようにお願いします」


「はい、分かっています。でも、今は藁(わら)にもすがりたい気持ちなんです……」


 私はアリエッタから視線を外し、申し訳なさそうにして下を向く。


「こんなことを頼んでしまって、本当にごめんなさい。……きっと、私と寝るなんてイヤですよね。でも、私、廃嫡になりたくないんです」


 すると、アリエッタが、俯いた私の両手を持つ。私が驚いて顔を上げると、アリエッタが頬を赤くしてニッコリと微笑んでいた。


「夕食の時もお伝えしましたけど、私は今のソフィア様のこと、好きですよ」


「アリエッタさん……」

 

「昨日までのソフィア様は、グーで殴りたいぐらい大っ嫌いでしたけどね。……まあ、頭は普通に平手で叩いていましたけど」


 私はアリエッタの冗談(?)に、涙目で笑顔を返した。そして、また泣きそうになるのを必死に我慢する。


「ありがとうございます。私もアリエッタさんが好きです」


 私がそう言うと、アリエッタは顔を真っ赤にする。


「……ふふっ、なんだか愛の告白みたいですね。私とアリエッタさんは、相思相愛かもしれません。私はステーキの切れ端のプレゼントで、アリエッタさんに落とされちゃいました」


 すると、アリエッタは恥ずかしさを隠すように、慌てて私から視線を外した。


「なっ……なにバカなことを言ってるんですかっ! それじゃ、すぐに『魔法補助』を始めますよ!」


「はい! よろしくお願いします!」


 アリエッタは一旦ベッドから下りると、テーブルに何かを取りに行く。そして、太めの紐(ひも)を数本持って戻ってきた。そして、紐の端をそれぞれ両手で持って、何度もパシッパシッと左右に引っ張る。


「さぁ、ソフィア様。ベッドに仰向けに寝てください」


「……えーっと、愛の告白をしたばかりなのに、私は危険を感じるんですけど?」


 私が目を点にして呆然としていると、アリエッタが私を急(せ)かした。


「いいですから、早く寝てください。『魔法補助』の準備を始めますので」


 私はアリエッタに言われるがまま、ベッドの上に仰向けに寝た。すると、アリエッタは、私の両足を数本の紐で縛り始めた。


「……ちょ、ちょっと!! これは何ですか!?」


「え? 拘束具ですよ。ソフィア様の両足と手を縛るんです」


「そんなの見たら分かりますよ!!」


 すると、アリエッタは私を軽く睨むようにして、じっと見つめる。


「……ソフィア様。『魔法補助』、して欲しいんですよね?」


「うっ……」


「じゃあ、黙っててください」


「は、はい。すみません……」


 アリエッタは私の足の拘束が終わると、今度は私の右手と自分の左手を紐で縛り始めた。


 最初に私の右手に軽く紐を巻き、そこに自分の手を滑り込ませるようにして入れる。そして、私に紐の一端を持つように言うと、軽くコマ結びにした。一応、太い紐であるため、コマ結びといえども、結び目を解くのは容易(たやす)い。


 アリエッタは私の右側に寝ると、手を交差するようにして、私の右手の指に自分の左手の指を絡めるようにしてギュッと握る。恋人のような密着した手の握り方に、私は再び新婚時代を思い出して、思わず赤面してしまった。


「あのっ、アリエッタさん! 説明をっ! 説明をお願いしますっ!」


「え? ……この手の握り方のことですか?」


「違いますよっ!! 私が手足を拘束されて、動けない件について!!」


 私は拘束されて動けない身体を捻(ひね)ると、アリエッタの方を向いて叫ぶように訴えた。


「先ほどもお話しましたが、『魔法補助』は一晩中、私がソフィア様に魔力を注ぐんです。ですから、ソフィア様にむやみに動かれると困るんです」


「……いやいや、別にむやみに動く気はありませんよ? これじゃ、私、トイレにも行けないんですけど……」


 すると、アリエッタは何かに気付いたような表情を浮かべる。


「あっ、すみません! 忘れてました!」


 アリエッタは手を結び付けていた紐を右手で解(ほど)くと、「うんしょ」とベッドを出て、再度テーブルに向かった。そして、大きな白い布を持ってくる。


 ……その布、素材は違うけど、どこかで見たことがあるような大きさ……。


「では、今からソフィア様にオムツをつけますね。足の紐を一旦解(ほど)きますから、その後、股(また)を開いてくださいね~」


「ぜーーったいにダメ!! それだけはダメ!! 私の言いたかったことはそうじゃない!! 今からトイレに行ってくるので、私の足の紐を解(ほど)いてくださいっ!!」


 実際のところ、前世の死に際にはオムツを付けていた時期もあったが、こんな元気な若い身体には必要ない。前世は死期を悟ってから全てを諦めていたため、オムツを受け入れられた。だが、今はなるべく恥ずかしい思いをしたくない!


「え? そうですか? そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。私が後片付けもしますから」


「そうじゃないです!! これは、私の尊厳の問題です!! しかも、出したブツを見られるなんて、絶対に、イ・ヤ!!」


 アリエッタは苦笑いしながらベッドの上に乗ると、私の両足を拘束している紐を解(ほど)き始めた。


「私が母に『魔法補助』をしてもらった時なんて、オムツを付けられて、両手両足を縛られたんですよ。私は泣き叫んで、母にとても迷惑を掛けました」


 アリエッタは紐を解きながら、当時を思い出すように軽く笑う。


「ちなみに、私、あまりにも泣き叫びましたから、最後は口にまで紐を噛まされたんです。……『猿ぐつわ』って言うんでしたっけ? なんだかとても屈辱的だったのを覚えています」


「……へ、へぇ~」


「ソフィア様も、両手両足を縛っちゃいましょうか? 『魔法補助』は、私が拘束したソフィア様を抱き締めるようにすることでも可能です。実は、私はその方が楽なんですよ」


 アリエッタは人差し指を立てて、輝くような笑顔を私に向けた。


「あの……。もしかして、私をイジめて楽しんでます?」


 アリエッタは「ふふっ」と堪(こら)え切れない笑いを漏らしながら、口元を手で押さえて、私から目を逸(そ)らした。


「あっ! 否定しないんですね! もうっ!! アリエッタさんのいじわるっ!!」


 私は、自分の足元で紐を解き終わったアリエッタをポカポカと軽く叩くような真似をすると、急いでベッドを下りて、走るようにしてトイレに向かった。


 ──私の認識が甘かった! お母さんが一緒に寝たって言うから、もっと優しい方法だと思ってたのに! ……っていうか、これ、アリエッタさんが最初に怯(おび)えてた要素がどこにあるの!? 私が怯えるのが正解だよ!


 そして、トイレから戻った私は、再び身体を縛られるのだった。……ぐすん。


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