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第3話 「『まほう』ってな~に?」と衝撃の「魔法補助」

「ねぇ、ララ。『まほう』ってな~に?」


「『まほう』はね、このせかいにみちている みえないエネルギー『エーテル』を、わたしたちのちからで みえるかたちにすることなんだよ」


「エーテル?」


「うん。かみさまが このせかいをつくりだしたとき、ひかりよりもさきに『まほう(エーテル)』で せかいをみたしたんだ。そして、そのエーテルと、せかいのざいりょうをかきまぜて、わたしたちをつくりだしたの。だから、ロロのからだのはんぶんは、エーテルでできてるんだよ」


「へぇ、そうなんだ! じゃあ、ぼくたちは、みんな、うまれたときから『まほうつかい』なんだね!」


「うん、そのとおり! じゃあ、その『まほう』のべんきょうをはじめよう!」


   ◇ ◇ ◇


 魔法学園初等部の一年生の教科書らしく、とても平易な言葉で『魔法(エーテル)』が説明されていた。しかも、ララとロロという可愛いキャラクターのイラスト付きだ。異世界から来た私にも、その内容をすぐに理解することができた。


 ちなみに、この教科書は当然、平仮名で書かれているわけではない。実際には、記号のような形をした、この世界特有の文字で書かれている。


 しかし、私の頭に入ってくる際の文章は、前世の平仮名に変換されていた。一方、大人向けの文章であれば、漢字交じりの文章で頭に入ってくる。先程の旧約聖書に似た本の場合がそうだった。


 いずれにしても、異世界の教科書の内容はとても興味深かった。私は、前世の常識との違いを実感しながら、一年生の教科書をめくっていく。


 ──なんだかんだで、やっぱりこの世界は違うんだ。『エーテル』でこの空間が満たされているっていうなら、私の目の前にもエーテルが存在してるってことだよね……。


 私は目の前の何もない空間に手を伸ばして、広げた手を何かを(つか)むようにギュッと握る。しかし、当然ながら、手の平には何の感覚もない。前世と同様、空気すら掴んだ感覚はなかった。


 ──人間の意思の力で、ここに満ちている見えないエーテルを実体化させるなんて、なんだか信じられないな……。私は、この世界の魔法を使えるようになれるのかな……。


 私は握った手を、ゆっくりと机の上に下ろした。そして、国王への魔法の披露に失敗する場面を想像して、一人で勝手に落ち込む。しかし、そんな臆病な自分を追い払うように、すぐに首を左右に振った。


 ──ダメダメ! 前向きに頑張らなきゃ! きっと私だって魔法を使えるはず! 私は今、この世界の王女の身体に転生してきているんだから!


 私は気を取り直すと、再び教科書を読み進める。


 そして、あっという間に半分を読み終えてしまった。教科書の前半は文字数も少なく、理解に苦労する内容もなかった。……転生前のソフィアが、この教科書を学び終えていなかったことが信じられない。


 教科書前半の説明のキーポイントは、「人間の半分は魔法(エーテル)で出来ているが、この世界の誰もが魔法が使えるわけではない」ということだった。「魔法を使うためには、最低限、二つの条件を満たさなければならない」と書かれていた。


 一つ目は、年一回行われる王族主催の「精霊覚醒の儀」で、王宮所属の魔法聖職者、もしくは、魔法を使える王族から、「魔法(エーテル)分離の祝福」を受けること。


 二つ目は、体内に保有している魔力量が十分であること。つまり、残存魔力が、使用する魔法の消費量を超えていること。


 一つ目の条件、「精霊覚醒の儀」は王侯貴族のイベントだ。そのため、昔ネット小説で読んだように、魔法を使うことは基本的に王族と貴族の特権だと考えられる。これは、ライゼンハルト王国特有の儀式のようで、他国での魔法覚醒方法は、この教科書には書いていない。


 二つ目の条件は至極当然だった。持っているお小遣い以上のお菓子が買えないことと同じだ。自分の魔力量を知る方法は不明だが、実際に魔法を使ってみれば分かるような気がした。何かの数値で分かるものではなく、体力と同じように、魔力が減れば疲れを感じ、休めば回復するものだと思う。


 ──魔法を使うための条件は分かったけど、実際にどうやって使うんだろう?


 私が教科書を読み進めていくと、最終章に、その疑問に答える学習内容が現れた。


『魔法を使うために、魔法陣を思い浮かべてみよう!』


 教科書の記述も、前世で言うところの「漢字」が混じった表現に変化し、段々と難しくなってきた。大人の私にとっては問題ないが、初等部一年生の内容にしては、後半の難易度の上がり方が半端ない。やはりこの世界でも、貴族階級はそれなりの教育レベルが求められるようだ。


 私がさらにページをめくっていくと、丸が組み合わされた魔法陣が現れた。それは決して複雑な模様ではなく、前世の家紋のようなマークだ。


 私はその下に書かれた説明を読む。そこには、「簡単な魔法を使う手順を学習しよう!」と書いてあった。


 ──わぁ~、きたぁ~!! ついに魔法を使う段階だ~! なんだか、すっごくワクワクする!!


 私は興奮しながら、その説明を読み進めた。


 ──なになに、「まず、人差し指を立てましょう。そして、心の中に魔法陣を思い浮かべましょう」か。


 私は目を閉じて、教科書にあった魔法陣を思い浮かべる。魔法陣を大体イメージできるようになったところで、目を開けて、その次を読み進めた。


 ──「魔法陣をイメージできるようになったら、その魔法陣が魔法に変わるところを強く念じましょう」だね。じゃあ、やってみよう! これが出来たら、国王からの課題はクリアだ!


 私は人差し指を立てて、魔法陣が指の先で「光」に変わるところをイメージした。それを可能な限り、強く念じる。


 ……しかし、じっと人差し指を見ていても、何も変化は起きなかった。


 ──うーん。何か足りないのかな? 王族なら多分、幼児の時に『精霊覚醒の儀』は済んでると思うから、条件は満たしてると思うんだけど……。破天荒な王女でも、幼児の時はさすがに大人の言うことを聞いて、『精霊覚醒の儀』を受けたと思うし……。


 私は再び教科書に目を向けて、続きのページをめくる。すると、そこに注意書きが添えられていた。


「ごめんね! 魔法をすぐに使うことはできないよ!」


 ──はぁっ!? 魔法って、すぐに使えないのっ!? 教科書なのに、なんたるフェイント!! しかも、フェイントが次ページに記載されている構成とは、芸が細かい!


 私はガックリしながら、教科書の説明を読み進めた。


 「魔法は、根気よく何度も挑戦してね! 何度も何度も練習することで、徐々に魔力が消費される感覚が増していくんだ。そして、ある日、一気に魔力が消費される感覚を得たとき、君がイメージした魔法が初めて目の前に現れるよ!」


 さっきはガックリしたけれども、やっぱり魔法にはロマンがある。私はまだ魔法を使えないが、何度も練習すれば魔法を使えると知ったら、俄然(がぜん)、勉強のやる気が出た。


 私は初等部一年生の教科書を読み終えると、パタンと裏表紙を閉じる。そして、人差し指を立てると、何度も何度も、光の魔法の発動に挑戦した。


「さぁ! いくよ! 私の前途に『光』あれっ!」


    ◇ ◇ ◇


「……ソフィア様? 大丈夫ですか?」


「ダメです……。この王女……じゃなくて私は、やっぱり魔法の才能が無いのかもしれません……。私の前途に光はなかった……。ぐすん……」


 私は泣き真似をしながら、テーブルの上に手を伸ばすようにして突っ伏す。


 教科書を読み終えた後、私は既に二百回以上、「光の魔法」の発動に挑戦していた。しかし、まだ一度も光の魔法の発動に成功していない……。


 私はアリエッタに視線を向ける。


 ──そういえば、ネット小説では大抵、侍女は貴族出身で魔法が使える人物だった。この世界の侍女のアリエッタさんはどうかな?


 私は図書室に来た時の高尚な決意を捨て、突っ伏した状態のダラしない姿のまま、アリエッタに声を掛けた。


「……まさかとは思いますが、アリエッタさんは貴族出身ですか? ついでに、魔法も使えたりするんでしょうか?」


 私の質問に、アリエッタは意外なことを訊かれたような顔をして(うなず)いた。「ソフィア様には記憶が無いのかもしれませんが、私は子爵家の出身です。もちろん魔法も使えます」と答える。


 ──やっぱり!!


 私は元の姿勢に戻ると、鼻息荒く興奮しながら、アリエッタに魔法について質問した。


「アリエッタさん! 魔法を使うコツみたいなものはあるんでしょうか? アリエッタさんは、最初の魔法をすぐに使えるようになりましたか?」


 私の問いに、アリエッタは珍しく苦笑する。アリエッタが「少しだけ私を信じる」と言ってから、私達は少し打ち解けてきたような気がした。


「いいえ、私も最初はなかなか魔法を使えませんでしたよ。おそらく、(ほとん)どの貴族は、初めて魔法を使うまでに苦労していると思います。ですが、魔法を一度使えるようになると、あとはどんどん新しい魔法を覚えることができるようになるんですよ」


 コツを一回掴むと、あとはその応用技ということなのだろう。私はアリエッタへの質問を続けた。


「アリエッタさんは、その最初の苦労をどうやって乗り越えましたか?」


「うーん……。それを乗り越える方法は、本当に人それぞれですからね……」


 アリエッタは考え込むように、(あご)に手を当てる。そして、しばらくして、何かを思い出したかのように、女性らしく軽く手を合わせた。


「あっ、思い出しました! そういえば、私は母に『魔法補助』をしてもらってから、使えるようになりました」


 私は失礼にも、アリエッタに人差し指を向けた。


「それだーっ!! アリエッタさん、私の魔法の補助をしてくださいっ!! 少しだけ、侍女を辞めるのを延期してください!!」


 私がアリエッタに無茶を言うと、アリエッタはあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。


「えぇ~……。やだなぁ……」


 アリエッタは眉をひそめて、げんなりした表情を浮かべる。しかも、私の魔法の補助を心底嫌がっているせいか、話す言葉も丁寧語ではなくなった……。


「おっ……お願いしますっ!! 王女の力で、侍女の退職金の割り増しができるか交渉してみますからっ!! ……って、退職金があるかは知りませんけど! ……とにかく、魔法の補助をして頂けたら、何か恩返しをしますっ!!」


 私は椅子に座ったまま、頭をテーブルにぶつける勢いで、深くお辞儀をしてアリエッタに頼み込んだ。


「……何かを頂けるとしても、ちょっとイヤです……」


 アリエッタは頬を真っ赤にして、床に視線を向ける。


 ──そこっ! さっきの「何でも私に言い付けてください」っていう格好いいアリエッタさんはどこに行ったの!? 魔法の補助ぐらい、協力してくれたっていいじゃないの!


 ……とは言わずに、私は低姿勢のまま、アリエッタに懸命に頼み込んだ。しかし、アリエッタはなかなか了承してくれない。


 私は最終手段に出た。


 私は椅子から立ち上がると、床に両膝(りょうひざ)を突いて「土下座」の体勢を取る。すると、アリエッタが慌てたように私に近付いて来て、土下座を止められた。


「ソッ……ソフィア様っ! 王族が侍女に向かって、そんなことをしてはいけませんっ!!」


「だってぇ、アリエッタさんがぁ……」


 私が半べそをかきながら、ウルウルとした涙目でアリエッタを見上げると、アリエッタは「はぁ」っと溜息を()いた。


「……ソフィア様。私が言ったのは、『魔法の補助』ではありませんよ。『魔法補助』という行為です。ソフィア様は、『魔法補助』をどうやって行うか知ってるんですか?」


 私はブンブンと首を振る。すると、アリエッタは再び大きな溜息を吐きながら、その方法を教えてくれた。


「『魔法補助』はですね、ソフィア様と私が……、そのぉ……」


「はい」


「えーっと、ですね……」


「はい、はい」


「あの~……」


 アリエッタは、その先の説明を物凄く言いにくそうにしていた。私は黙ってしまったアリエッタに、再度問い掛ける。


「……それで、『魔法補助』とは何でしょうか?」


「…………」


「アリエッタさん?」


 私の呼び掛けに、アリエッタは決意を固めたような表情をする。そして、私の瞳を泣きそうな目でじっと見つめて、なぜかすぐに視線を外した。そして、深く息を吸い込むと、唇を震わせるようにして、口を開いた。


「……『魔法補助』は、私とソフィア様が、……手をギュッと(つな)ぎながら、一晩中、一緒のベッドで寝ることなんですよっ!! 添い寝なんですよっ!!」


「…………は?」


 私は、アリエッタが叫ぶように説明した内容に固まった……。


 ──ちょっと待って!! その行為のどこに、『魔法補助』の要素があるのっ!?


 私が唖然とする一方、アリエッタは顔を真っ赤にして、両手でその顔を覆ってしまった……。


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