↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/34

エピローグ 「キラキラ女王様になるのは大変!」

このエピローグは、二章終了後、数年分の物語のダイジェスト版です。

話の構成上、一部は少し細かく描写していますが、物語は一気に展開していきます。

このエピローグで、本作は完結します。

 私は控えの間から王族専用のバルコニーに出ると、真っ青な大空の下、眼下に広がる王都の景色を見渡した。


「思えば遠くへ来たもんだ……」


 私はバルコニーの欄干(らんかん)に手をつきながら、前世のどこかで聞いたような、雰囲気に似合わないセリフをポロっと漏らす。


「……まさか、何の取り柄もない私が王国を統治することになるなんて……」


 エリザベートのお茶会試験を無事に終えてから三年後、私はライゼンハルト王国の女王となっていた。


    ◇ ◇ ◇


 エリザベートのお茶会試験を終えてから数か月が経った頃、私はエリザベートから女王即位の打診を受けた。


 私は「まだまだこの国の王女生活を堪能できておりません!」と、周囲には理解しがたい理由で女王になることを必死に拒否していたが、ほどなくして、私を説得するために国王アルフォンスが私の部屋を訪ねてきた。


「ソフィアよ。少し良いか?」


「ふぇっ!?」


 突然の国王の来訪で紅茶カップを落とす私を余所(よそ)に、アルフォンスは私の目の前の椅子にドシッと腰かける。そして、人払いした上で、女王への即位打診について話を始めた。


「今回の女王即位の提案は、余の考えによるものだ。エリザベートが頑張ってくれてはいるものの、今のそなたの派閥が貧弱なのは分かっておろう。また、今までのそなたの行いが原因で、有力な貴族の後ろ盾も無い。……このままでは、余が死んだ後、そなたが女王へ即位することは不可能だ」


 私はその言葉に、目の前のテーブルに視線を落として俯(うつむ)いた。


「……それに、このままだと、そなたの命が危うい」


「えっ?」


 私が顔を上げてアルフォンスを見ると、アルフォンスは真剣な眼差しを私に向けていた。


「エリザベートの内偵部隊によると、上級貴族の間に、そなたを排斥しようとする動きが出てきている」


 私は言葉を失ったまま、ゴクッと息を呑んだ。


「今、余にできることは、余の命があるうちに、ソフィア……そなたを即位させることなのだ。ソフィアの即位に反対する貴族との内乱は回避できないだろうが、余が生きているうちなら、いくらかの貴族達を押さえることはできる。それに、余の息がかかった近衛軍の一部も動かせる」


 簡単に言えば、今の私だけでは圧倒的に力不足だという事だ。しかし、私はそこまでして女王への即位を望んでいるわけではない。


 私は少し間を置いた後、口を開いた。


「……せっかくご提案をいただいたのに恐縮ですが、私の即位が王国にそんなに大きな波乱を招くのでしたら、私は王位継承権を返上いたします。私は無用な流血の海を見てまで、女王を目指したいとは思っていません」


 私がそう答えると、アルフォンスは軽く首を振った。


「いや、そういう訳にもいかんのだ。今すぐの話ではないが、この国には、とても大きな危機が迫っている」


「……危機ですか?」


「周辺国が、王国内の貴族領への干渉を強めている。余の直属の調査機関の推測によると、余の死後のライゼンハルト王国は貴族間の勢力が拮抗し、分裂して内乱に突入する可能性が高い」


 私が目を大きく見開いてその話に驚いていると、アルフォンスは私に対して頭を下げた。


「エリザベートとも話し合った結果、周辺国の干渉を退けるためには、そなたの神具の強力な力が必要なのだ。どうか女王となって、ライゼンハルト王国を一つにまとめあげて欲しい」


 私はまだまだ異世界のことを理解できていないが、王政や帝政といった形態の封建国家が乱立するこの世界では、侵略戦争や内政干渉は日常茶飯事なのだろう。きっと、アルフォンスは私が知らないところで、色々と苦労しているに違いない。


 私はアルフォンスの姿を見て、しばらくの間じっと考えると、ゆっくりと口を開いた。


「お父様、どうか顔をお上げください。……お言葉ですが、王位と言えば、この国の頂点です。私のような至らぬ身でもよろしいのでしょうか?」


 私の問い掛けに、アルフォンスは顔を上げると、軽く笑みを見せた。


「大丈夫だ。余でも王国を統治できておる。それに、そなたが女王となった後も、余はそなたを叱りながら、全力でサポートするつもりだ」


 私はアルフォンスの冗談にニッコリと笑うと、椅子から起立して、深くお辞儀をした。


「女王即位の件、承(うけたまわ)りました。王国のために、この身を捧げます」


 私の答えを聞いて、アルフォンスは感心したように大きく息を吐いた。


「……ソフィアよ。見違えるように立派になったな……」


 私は思わず頬を赤くして俯(うつむ)く。しかし、すぐに顔を上げて、照れ隠しをするように、今後の予定について確認を行った。


「……それで、私の女王即位はいつになりますでしょうか?」


「なるべく急ぎたいところだが、当然ながら、王の退位と即位は国家の大事(だいじ)だ。今回は、余が王位をそなたに譲る平和的な形態であるから、十分な準備期間を置くとしよう」


 アルフォンスは顎(あご)に手を当てて、しばらく考えた後、口を開いた。


「……そなたの女王即位は五年後だ。それまでの間に、可能な限り、そなたの派閥を大きくしておきなさい。その結果次第で、内乱で流れる血の量が大きく変わる」


 私はお腹(なか)の前で両手を合わせて、再び深くお辞儀をした。


「承知いたしました。微力を尽くします」


    ◇ ◇ ◇


 アルフォンスの話から女王に即位するまでの間、私は前世の知識を生かして、女性貴族に様々な文化を広めていった。


 お茶会のドレスに始まり、化粧、お菓子、髪飾り、そして、お気に入り令嬢を集めたライブ!……ではなく、多人数での歌の合唱など、この異世界に有りそうで無かったものを女性貴族達に紹介していった。


 最初は警戒していた貴族令嬢達も、自派閥の顔色を窺いながら、私のお茶会に参加する機会が増えていった。そして、下級貴族を中心に、私の派閥に鞍替えする令嬢が何人か現れた。


 また、エリザベートのお茶会以来、ずっと対立していたフレイアとベアトリスも、私のお茶会で何度も決闘を重ねるうちに拳(こぶし)の友情が生まれたようで、決闘がない時でも二人は私のお茶会に参加するようになっていった。


    ◇ ◇ ◇


 私が女王即位を決めてから約三年後のある日、私は国王アルフォンスと王妃エリザベートから呼び出しを受けた。


 私が沢山の扉を開けて国王アルフォンスの部屋に入ると、そこには神妙な表情を浮かべるエリザベートの姿があった。


「ソフィアよ。周辺国と、国内の辺境貴族達の動きが激しい。おそらく半年以内に、そなたを排斥するための内乱が起こる」


「えっ!?」


 目を丸くして驚く私に、アルフォンスは話を続けた。


「貴族勢力が結集する前に手を打たねばならない。彼らに対抗するため、来月、新女王ソフィアの戴冠式を執り行う」


「来月っ!? でっ……でも、計画では、私の即位まで残り二年あります。それに、王宮側はそんなに早く戴冠式の準備ができるのですか!?」


 私がそう言うと、アルフォンスとエリザベートは顔を見合わせて、軽く困ったような笑みを見せた。


「……ソフィアちゃん。騙(だま)していてごめんなさいね。もともとソフィアちゃんの即位は、アルフォンスがソフィアちゃんに話をした時から三年後、つまり、今を想定して準備していたの」


「えぇっ!?」


 私は再び目を丸くして驚いた。


「反乱勢力の計画に合わせていたら、私達は二年後、全員処刑されてるわよ?」


 ……なるほど。敵を欺(あざむ)くにはまず味方から、ということか……。


 アルフォンスは、顎(あご)に手を当てて考え込む私を見る。


「それでだ。そなたが来月女王に即位するにあたり、反乱貴族の勢力を削ぎたいと思っている。そなたは、神剣ローゼヴァインの制御方法を習得したか?」


 神剣ローゼヴァインの制御方法については、意外と早くその方法が見つかった。


 図書室中央の台座に置いてあった立派な書物の翻訳版に記載があり、「神剣に魔力を注ぐ前に、特定の呪文を唱えてから神剣に指示を出すと、その暴走を防ぐことができる」とのことだった。


 私はアルフォンスの問い掛けにコクリと頷(うなず)いた。


「はい。意外と簡単でした。こう言ってはなんですが、制御方法はなかなか可愛いですよ」


 アルフォンスは、可愛くウィンクをする私を見て笑みを浮かべると、エリザベートに視線を移した。


「エリザベート。予定通り、余の名前で全貴族に緊急招集をかけて欲しい。一週間後、新女王ソフィアの力を貴族達に見せつける。そして、その勢力の分断を図る」


 エリザベートはアルフォンスを見て、コクリと頷いた。


    ◇ ◇ ◇


 青空が広がる快晴の下、王都郊外にある広大な軍事演習エリアを使って、そのイベントは開催された。王国の全ての貴族が階級に関係なく、広大な平原を見渡すことができる丘の上のテントに集められた。


 国王アルフォンスは拡声魔法を使って、貴族達に向かって話を始めた。


「我が親愛なる臣下達よ。今日はよくぞ集まってくれた。来月のソフィアの女王即位に際し、皆に見てもらいたいものがある」


 貴族達は、今回の急な招集だけではなく、私の即位発表に非常に不満顔だった。アルフォンスは、そんな貴族達を見渡しながら話を続ける。


「ここから五キロメートル程先に、王宮魔導士三十人に土魔法で作らせた模造街がある。この丘から見える大きさは親指ほどだが、実際には王都の半分ほどの規模だ。皆には、あの街が自分の領都であると思って見ていて欲しい」


 アルフォンスはそう言うと、私達に視線を向けた。


 私は隣に立つエリザベートの顔を見ながら、恐る恐る小声で尋ねる。


「……あの~、本当にやるんですか?」(小声)


「そうよ。これは、ソフィアちゃんの女王即位のためだけじゃなく、国民を守るためにも必要なことなの。もし、ソフィアちゃんが国内での無駄な戦いを避けたいと思っているのなら、思いっきりやりなさい。それによって、中立派の貴族達を一気に私達の味方にすることができる」(小声)


「そうですか……。分かりました」(小声)


 私は溜息を吐(つ)いて、平原の方を向く。そして、後ろを振り返るようにエリザベートを見た。


「ただ、思いっきりやると危険ですし、動物達も怖がると思うので、軽くやりますね」


 私はいつもの言葉を唱えて、魔法少女のステッキ型神剣を手の平から取り出した。すると、私の神剣を初めて見た貴族達から失笑が漏れる。どこからか、「お子様のお遊びが始まるの?」という女性貴族の嫌味が聞こえてきた。


 私は目を軽く閉じて深呼吸すると、魔法少女のステッキを構えた。そして、ステッキを片手に持つと、笑顔でダンスをするようにクルクルと回りながら、神剣を制御するための呪文を唱える。



「ラミクル・ラミクル・ルルル~!! 私の魔法で、遠くにあるあの街を吹き飛ばしちゃ~え♡」



 私の姿を見て、テントで椅子に座っている貴族達が大爆笑した。


 しかし、次の瞬間、それまで快晴だった空が一瞬にして暗転した。土魔法で作った模造街の真上に、赤黒い雲がどんどんと立ち込めてくる。


 私は一切の笑みを消すと、魔法少女のステッキを一旦高く掲げて、街に向けて振り下ろした。



「極大破壊魔法、メテオ・ストライクッ!!!」



 円形に赤く光っていた雲を突き破るようにして、巨大な隕石がゆっくりと落ちてきた。


 貴族達がその光景に唖然とする中、エリザベートが、貴族の周囲に配置されている王宮魔導士達に指示を出す。


「今すぐ全魔力を使って、最も強力な魔法障壁を張りなさい!! ソフィアの破壊魔法は、並の障壁はすぐに破ってしまいますから、絶対に手を抜いてはいけませんよ!!」


 魔導士達が懸命に魔法障壁を張る中、隕石が土魔法でできた張りぼての街に衝突した。その瞬間、街は強力な閃光と共に、一瞬で蒸発して跡形もなくなる。そして、さらに数秒後、私達がいるエリアを巨大な衝撃波が襲った。


「きゃあぁぁ!!!」


 女性貴族達が椅子から転げ落ちて叫ぶ中、アルフォンスとエリザベートは魔法障壁を展開して、懸命に私達を守る。



 十秒ほどが経過したと思われる頃、大地震のような衝撃波は過ぎ去った。



 私が貴族達の方を見ると、彼らがいたテントは跡形もなく吹き飛んでいた。そして、貴族達は地面に尻もちをついたり、頭を抱えたりして座り込んでいる。


 魔法障壁を解除したエリザベートが、恐怖で地面に座り込んだままの貴族達に拡声魔法で声を掛けた。


「……え~っと、私達が言いたいことは、もうお分かりですよね? もし将来、皆様がソフィア新女王に逆らった場合、皆様の領都は目の前のような惨状になると考えてください」


 エリザベートが指差す先には何もない……。私が魔力を抑えた結果、実際の隕石落下ほどの大穴は空いていないが、模造街があった周囲数キロは大きく抉(えぐ)れ、草木は一本も無くなっていた。


 エリザベートは何かを思い出したようにニッコリと笑顔を浮かべ、貴族に向けて可愛く人差し指を立てる。


「あっ、そうそう、最初は皆様の居城から消しますから安心してくださいね。その後に、住民へ避難勧告してから街を消します。あと、一応これでもソフィアは魔力を抑えていますので、皆様が街に魔法障壁を張っていても無駄です」


 こうして、貴族達にお披露目した私の凶悪魔法は脅(おど)しとして有効に働き、四分の三以上の貴族が、私の女王即位を支持する側に回った。


 しかし、それでも反逆しようとする者たちはいるもので、私の女王戴冠式の日、隣国にそそのかされた辺境伯達が一斉に反乱を起こした。


 彼らは隣国と手を結んで各都市に強力な魔法障壁を展開すると、私と王国へ宣戦を布告した──。


    ◇ ◇ ◇


 私がバルコニーに出て心地良い風を楽しんでいると、背後から不意に声を掛けられた。


「ソフィア女王陛下。失礼いたします」


「あら、アリエッタさん。どうしたんですか?」


 上級侍女となったアリエッタは、高位の貴族と同じ仕事着をビシッと着こなして、私に光る札を渡す。


「東部方面軍のレーゲンス将軍から、……その、『魔法札』による定時連絡が入っております」


 アリエッタの言葉に、私の頬(ほお)が引き攣(つ)った。


「……ありがとうございます」


 私は軽く溜息を吐(つ)きつつ、魔法札を受け取って片側の耳に当てると、通話先の相手に呼び掛けた。


「……フレイアさん。今度はいかがされましたか?」


『ソフィア様! そのお声を聞きたかったです! 寂しかったです!』


 フレイアは未成年であったが、女王である私の権限で、東部戦線を担当する王国の将軍に任命していた。ちなみに、西部戦線はベアトリスに任せてあるのだが、この人事には訳がある。


 実は、私が女王就任当初に騎士団を視察した時のことが発端だ。私は、軍事演習場で男性騎士達の鍛錬を見て唖然とした。


「……何なの、この学芸会みたいな軍事演習……。しょぼい……。弱そう……。絶対負ける……」


 この異世界の男性貴族達はイケメンではあったが、前世の「男性は強い」という常識とは大きく異なり、非常に軟弱だった……。


 一方、女性貴族は戦争に出ないものの、お茶会の決闘で生死を賭けて戦っているせいか、男性貴族以上の戦闘力を持っていた。


 それを知った私は、反乱の早期鎮圧を目的として軍部改革を行った。


 まず、女性貴族中心の軍隊に再編し、既存の男性貴族部隊を後方支援に回した。また、強力な神剣を使える上位女性貴族を、各部隊の将軍に据えた。加えて、軍への加入を希望する侍女達を、積極的に兵士として取り込んだ。


 なお、他国や辺境領の軍隊は男性貴族中心の軟弱軍であったため、神剣を操る女性貴族軍は圧倒的な強さだった。通常の軍隊が鎮圧に数週間かかるところを、女性貴族軍は数日でやってのけた。


 フレイアが統率する東部方面軍は、そんな女性貴族軍の中でもより強者揃いの部隊なのだが、当のフレイアはまだまだ幼さを覗かせていた。


 私は苦笑しながら、魔法札の向こう側のフレイアに話し掛ける。


「え~っと、一時間ほど前にお話したばかりではないかと? ……っていうか、一時間ごとの定時連絡は回数が多すぎませんか?」


『そんなことはありません! これでも少ないぐらいです。あっ、30分ごとにするのも良いかもしれませんね! なんなら常時接続でも!』


 私は魔法札通信が音声だけであるのを良いことに、眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せながら、額(ひたい)を手で押さえる。


「……その話は置いておくとしまして、戦況はいかがですか?」


『あっ! そうでした。先程の戦いで、隣国リーゼンブルグ王国の王子を捕らえました』


 リーゼンブルグ王国と言えば、ライゼンハルト王国の辺境伯と共謀して、私に宣戦布告した国だ。その王国の王子を捕らえたとなれば、戦争終結のために有利な条約を結ぶ材料になる。


「フレイアさん、すごいです!! でかしました!!」


『えへへ~。もっと褒めて下さって良いですよ?』


「フレイアさん、最高っ!! 素敵っ!!」


『ふふっ。……愛の言葉をおっしゃって頂いても良いですよ?』


「……あ、時間切れです。それでは、王子を丁重に王都まで連れて来て下さい」


『仕方がありません。私から愛の言葉を……』


「いっ……いずれにしましても、これで東部方面の戦争は終わります! やりましたね!」


 私の言葉に、フレイアの声音が一段低くなった。


『……ソフィア様。実は、そういうわけにはまいりません』


「どういうことですか? 王都に帰還するための帰路に問題でも?」


『え? いえ、それは全く問題ありません。王都に至る街道は、私の部隊ソフィアン・ローズが全て押さえています』


 フレイアは将軍になるにあたり、自分専用の特殊部隊を編成していた。フレイアが選抜した優秀な女性貴族だけで構成されている。……だが、そのネーミングは何とかして欲しい。


「それでは、一体何の問題が?」


『捕らえた王子なのですが、私の元婚約者なのですけれども……』


 フレイアが寂し気に話す。もしかして、元婚約者の王子に、何かの情が湧いてしまったのだろうか?


『その姿が……』


「はい」


 …………。


 …………。


 …………。


『……おそらく、ソフィア様好みの『超イケメン』に属するものだと思われるのですっ!!』


「おおっ!! なんとっ!! 素晴らしいっ!!」


 私はつい、魔法札に食いつくように叫んでしまった。


『……ですから、五分後に王子を処刑しますね。ソフィア様の下(もと)には、ぜ~~~ったいに連れて行きません。ご期待に沿えず、申し訳ありません』


「いやいや、待って!! そんな理由で処刑しないであげて!!」


 私は魔法札に唾を飛ばしながら、懸命にフレイアを説得する。しかし、フレイアからは良い返事は返ってこない。


『……色仕掛けされたら、ソフィア様はどうせ、すぐに絆(ほだ)されてしまいます』


「私は全く浮名を流したことがないのに、随分と信用がないんですね!」


 私は魔法札を一旦耳元から離して軽く咳払いすると、再度耳に当てた。


「いずれにしても、王子は戦争終結のための切り札ですから、絶対に処刑してはダメです!」


『いいえ、処刑しても大丈夫です!』


「ダメです!」


『大丈夫です!』


「元婚約者に慈悲を!」


『ソフィア様の分からず屋! リーゼンブルグ王国など、あと一週間もあれば、私の手で滅亡させられます! 現在、彼らの王都は私の東部方面軍の包囲下にあります! ……さぁ、マリー。王子をここに連れて来なさい』


 なんとなく、フレイアが神剣の切っ先を王子の喉元に当てている気がする。魔法札の向こう側で、情けなく命乞いする声が聞こえた。フレイアは、相手が元婚約者でも情け容赦無い……。


「ホントに、ちょっと待ってください! 私はリーゼンブルグ王国を滅亡させる気はないのです! そもそも、それがしたいなら、私は自分の魔法で巨大隕石を落としてますよ!」


 フレイアは私の言葉を聞いて、黙り込んだ。そして、しばらく経過した後、口を開く。


『……分かりました。ソフィア様がそこまでおっしゃるなら、仕方がありません。ただし、条件があります』


「え? 条件?」


『この王子を王都に連れて行ったとしても、会話は全て魔法札で行(おこな)って下さい。その姿を見ることは、私が許しません』


 ……あの~、すみません。私、フレイアさんの上に立つ女王なんですけど?


『ソフィア様。分かりましたね?』


 私が「むむ~。イケメン見たい……」っと回答を悩んでいると、フレイアが再び強い口調で私に回答を促した。


『ソフィア様? 分かりましたね? ……あと十秒以内に承諾して頂けない場合、今すぐに王子を処刑します。十、九、八、七……』


「わっ……分かりましたっ!! フレイアさんに従いますっ!!」


 私はイケメン王子との出会いを諦めた……。


『ふふっ、ありがとうございます。それでは、王子を王都に連行していきますね』


 私が無言で魔法札通信を切る寸前、「さぁ、早く立ちなさい。この腰抜け」というフレイアの言葉が聞こえた。


 ──弱肉強食の世の中って非情……。敵国と言えど、せめて王子様には温かいお茶を出してあげようかな……。


 私はバルコニーから眼下に広がる王都の景色を見ながら、「私はこの異世界では結婚できないのかも」と、ニッコリと悟りの笑みを浮かべるのであった。


    ◇ ◇ ◇


 私が女王へ即位してから一年後、圧倒的な女性貴族軍の力で辺境貴族の反乱は全て鎮圧され、ライゼンハルト王国は私の下(もと)で再び一つになった。


「夢にまでみた王女生活はあまり堪能できなかったけど、代わりに女王生活を充実させてキラキラしてみようかな……」


 私はいつも通り、王族専用のバルコニーから眼下に広がる王都の景色を眺めて、ボソッと呟(つぶや)く。


 すると、いつの間にか隣に立っていた女性が、私の肩にその頭をピタっとくっつけた。


「……そうですね。夢を叶えるのって本当に難しいです」


「……ん?」


 私が目を点にして横を見ると、隣に立つフレイアが寂し気な表情で私を見つめてきた。


「私はソフィア様の侍女になるという夢を叶えることができませんでした」


 フレイアは美少女特有の儚(はかな)い笑みを浮かべると、「でも、最近、新しい夢ができたんです」と言って、なぜか自身の腹部を優しく撫(な)でた。


「……ソフィア様。私達の子供は、どんな子になると思いますか?」


「は?」


「私は、元気な女の子が生まれてくると思うんです。私達の子供でしたら、きっとこの王国をきちんと引き継いでいってくれると思います」


「……何の話ですか?」


「ご覧ください! ほら、なんだか最近、私のお腹(なか)が大きくなってきたんです!」


 私が見る限り、フレイアの腹部の大きさに変化はない。……というか、フレイアが押さえている場所は小腸から大腸のあたりだ。


「これは、愛を誓い合ったソフィア様と私の間に新しい命が宿ったんですよ! ですから私は、ソフィア様の王配になるという夢を叶えたいと思います!」


 私は思わず首を大きく振って、反対側に立つアリエッタに視線を向けた。


「……アリエッタさん。もしかしてフレイアさんって、『アノ教育』を受けていないんでしょうか? キスで赤ちゃんができると信じてる人ですか? ……っていうか、私は愛を誓い合っていませんけどね?」


 アリエッタは頬を赤くしながら視線を外すと、「フレイア様は変なところで勉強不足ですから……」とボソッと呟(つぶや)いた。


 私はアリエッタの肩に手を当てると、その目をじっと見つめる。


「フレイアさんに、今すぐ『アノ教育』をしてあげてください。これは女王としての命令です。……便秘なら身体に悪いので、早目に王宮聖職者に診てもらってください」


 アリエッタはあからさまに嫌な顔を浮かべると、私の依頼をそのまま隣のマリーに押し付けた。


【終わり】


本作を読んで頂き、本当にありがとうございました!

最後は駆け足になってしまいましたが、作品を完結させることを目指しました。

読み終わった後、もしお時間の余裕がありましたら、☆で評価していただけると嬉しいです。

それでは、また別の作品でお会いいたしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。