第25話 お茶会イベント企画委員会
フレイアの予想通り、エリザベートは私にお茶会のイベント企画を丸投げしてきた。イベントを通じて、私の王女としての資質を試すようだ。
私の派閥を作る以上、令嬢達の首領として、私にはそれなりの能力が求められる。先日のアリエッタの話によれば、貴族令嬢達も家の運命を掛けてお茶会に出席してくるわけだが、私が失敗すれば、私の派閥に入った令嬢達にも未来は無い。
魔法披露に比べるとかなり難易度が高く感じられるが、影響の大きさを考えると、泣き言を言ってもいられなかった。
──王女様って、綺麗なドレスを着て、能天気に「むふふ~ん♡」ってデザート食べていればいいのかと思ってたけど、そうでもないんだなぁ……。
私は前世で、組織やチームを動かす仕事にま~っっったく関わったことがなかったため、今回のお茶会には不安しかない。できれば、このまま引きこもりたい。
私は溜息を吐きながら、エリザベートからの指示が書かれた手紙を封筒に戻すと、その封筒をじっと見つめた。
──そういえば、前世で、会社の上司が部下のエンジニアに言ってたな……。「困った時には、所構わず泣きつけ!」と。「黙っていて、あとで挽回不可能な状況になる方が迷惑だ」と。とんでもない『迷言』だと思ってたけど、意外と真実なのかも……。
私はイベントの企画に協力してくれそうな数少ない面々を思い浮かべると、アリエッタを通じて、すぐに招集をかけた。
◇ ◇ ◇
「それでは、第一回、イベント企画委員会を開催いたします!」
私が人差し指を高く上げて開会を宣言すると、テーブルに座るフレイア、アリエッタ、マリーが呆然とした様子で私を見上げた。
「……あの、ソフィア様。『委員会』って何でしょうか?」
フレイアが少し手を上げながら、皆を代表して疑問を口にする。私は腰に手を当てながら、ドヤ顔で答えた。
「簡単に言うと、志を同じくする仲間の集まりです! 皆さんは幸運にも、私のお茶会のイベントを企画する委員に任命されました!」
すると、アリエッタがゲンナリした表情を浮かべる。
「……すみません。私、仕事に戻っても良いですか? トイレの掃除をしないといけなくて……」
「ちょっと待って! 委員会は、まだ始まったばかりですよっ!!」
椅子から立ち上がろうとするアリエッタを、私は懸命に押し戻す。しかし、アリエッタは私を凄い力で押し返してきた。
「ソフィア様っ! こんなことは、ソフィア様だけで考えるものですよ!! どうして、侍女の私まで巻き込むんですかっ!?」
「だって、私、お茶会のイベントなんて分からないんですよ! なのに、残り少ない日数でそれを企画しないといけないんです! 頼れる人も、この場にいる人だけしかいません! お茶会に失敗したら、私はお母様の実家に連れて行かれちゃいます! 貴族令嬢達も路頭に迷うんですよ!! アリエッタさんはそれでいいんですかっ!?」
私の言葉に、取っ組み合いをしていたアリエッタが一瞬固まった。しかし、すぐに口を開く。
「……とは言いましても、イベントなんて、大きな失敗をしないように無難な『決闘』を企画すれば良いのではないですか? 殆どのお茶会では、令嬢同士が決闘しているらしいですよ。それに、手練れの戦士がここにいらっしゃるようですし」
アリエッタがフレイアに視線を向けると、私達の話を聞いていたフレイアが無言でスッと椅子から立ち上がった。そして、私に近付くと、不敵な笑みを浮かべる。
「ソフィア様……。誰かコテンパンに懲らしめたい令嬢はいませんか? 私がソフィア様の御前で、その令嬢の息の根を止めてやります」
フレイアが神剣を示すように手刀を振るが、私は慌てて両手でフレイアを制止した。
「むやみに人の息の根を止めないで! それに、一番恨まれてるのは、きっと私ですよ! 息の根を止められるのは、この私です!」
私の言葉に、フレイアは顎に手を当てて考え込む。
「なるほど……。確かにそうかもしれませんね」
フレイアはそう言いながら、何度か頷いた。
「……私の言葉を否定してくれなかったことが、何気に悲しいです」
私が勢いを失ってションボリしていると、私達のやり取りを見ていたマリーが、困った表情で苦笑いをして、小さく手を上げた。
「あの~、せっかくですから、ソフィア様らしいお茶会を企画されてはいかがですか?」
マリーは私を見てニコッと笑みを浮かべる。アリエッタのようにまだ擦れていなくて、その笑顔がとても可愛らしい。
「前職で仕えていた伯爵家では、領地周辺に同年代の令嬢が少なかったこともあり、決闘ではなく、代わりに『創作自慢』を行っていました。自分が作った自慢の逸品を披露したりするんです。ソフィア様は、何か皆さんに披露したいものはございませんか?」
マリーのその言葉を受けて、私は顎に手を当てた。
──そんなイベントも許されるのね。なんだか面白そう。……とはいえ、私はまだこの異世界の事を分かっていないから、披露したいものなんて……。
私は意味もなく、チラッとフレイアに視線を向けた。すると、それに気付いたフレイアが、頬を赤くしてニコッと笑顔を見せる。その天使の笑顔に、私の頬が大きく緩んだ。
はわぁぁ! 超カワイイ~っ! 何かコスプレさせたいなぁ!!
…………。
…………。
…………。
あっ、そうか!! これだーっ!!
私は鼻息荒く、フレイアの両肩をガシッと掴む。その瞬間、フレイアは目を大きく見開いて、ビクッと身体を震わせた。
「あっ……あの、ソフィア様。どうされましたか?」
「フレイアさんっ!!」
「はっ……はいっ!!」
「オシャレしましょう!!」
「……え?」
その場にいる全員が言葉を失う。部屋を沈黙が支配した。
──あれ? 私、変なことを言ったかな?
すると、しばらくして、アリエッタが口を開く。
「ソフィア様……。『オシャレ』とは何ですか?」
アリエッタから返されたその質問に、今度は私が固まった。
「……まさか、『オシャレ』を知らないんですか?」
全員がコクリと頷く。私はその様子に愕然とした。
「ウソでしょ……。こんなに美形揃いなのに、オシャレを知らないなんて」
その後、私は、この異世界には身を着飾る文化がないことを知った……。
◇ ◇ ◇
「『オシャレ』とは、自分自身を綺麗に見せることです!」
クローゼットの背面に貼られた紙に、私は異世界の表音文字で「オシャレ」と書く。自室には黒板が無いため、クローゼットを移動させて、その背面を利用して黒板代わりとした。
テーブルに座るフレイアが、小さく手を上げた。
「ソフィア様。どうしてわざわざ綺麗に見せる必要があるのでしょうか? 私やソフィア様は、何もしなくても十分に綺麗だと思っているのですが」
フレイアの言葉を受け、私は軽く頷く。
「確かにフレイアさんは超美人です。女の私ですら、フレイアさんの美しさにボーッとしてしまいます。フレイアさんは将来、この国で一番の美人になると思います」
私の褒め言葉に、フレイアは少し俯いて頬を赤くした。
「……ですが、フレイアさんに一つ質問があります」
「はい」
「最高のフレイアさんを百点だとすると、今の自分は何点ですか?」
私の問い掛けに、フレイアは軽く首を傾げた。
「え? もちろん、私は百点だと思っていますけれども……」
予想通りのフレイアの回答に、私は目を閉じて首を左右に振った。そして、再び目を開くと、ビシッと人差し指を向ける。
「フレイアさん! 今のフレイアさんは、五十点です!!」
「えぇっ!?」
フレイアはショックを受けた表情のまま、声を上げて固まる。私は次に、アリエッタに視線を向けた。
「アリエッタさんは、今の自分をどう思いますか?」
アリエッタは顎に手を当てて、私を上目遣いで見る。
「そうですね……。八十点ぐらいでしょうか? 私はソフィア様やフレイア様には遠く及びませんが、侍女の中では、まぁまぁ綺麗な方だと思っています」
アリエッタはそう言いつつも、私に視線を向けたまま、私の反応を警戒していた。
私は人差し指を唇に当てたまま、アリエッタをじっと見つめて少し間を置くと、先程と同じように、アリエッタにビシッと人差し指を向けた。
「アリエッタさんは三十点です!!」
…………。
…………。
…………。
「……は?」
アリエッタはスーッと目を細めると、眉間に皺を寄せて私を見る。そして、不機嫌を纏う闇のオーラをまき散らした。
マズイ……。
私は慌ててフォローを入れた。
「あっ! すみません! 訂正します! 五十点……、いや、初査定のボーナス・ポイント付けて、六十点でどうですかっ!?」
「……査定?」
「とっ……とりあえず、実際に『オシャレ』のデモンストレーションをして、綺麗になる方法をお見せしますね!」
私は隠れるようにして、黒板の裏側にあるクローゼットの正面に移動して扉を開けると、魔法学園の制服からリボンを引き抜いた。そして、元の場所に戻る。
「さて、フレイアさん。こちらへ来てください」
その言葉に、三人は目を丸くして私を見つめた。特にフレイアが驚愕の表情を浮かべている。
「……ソフィア様。私をここで殺す気ですか?」
「へ?」
「その紐は、敵の首を絞めるためのものです。……私、何かソフィア様の気に障ることでもしましたでしょうか?」
フレイアの指摘で、私は以前のアリエッタの言葉を思い出した。そういえば、魔法学園の制服のリボンは、魔力が尽きた時に敵に止めを刺すための道具だ。
「いえいえ! そういうことではありませんよ! 首は絞めませんから、ちょっとだけこちらへ」
私がフレイアに手を差し伸べると、マリーが慌ててフレイアの椅子を引く準備をする。すると、フレイアは気が進まない様子で椅子から立ち上がった。そして、不安な表情のまま、私に近付いた。
私は何度かフレイアの右側の髪を軽くまとめて位置を確認すると、一部分だけ三つ編みをして、リボンを蝶々結びで頭に付けてあげた。左側にも、クローゼットから持ってきた二本目のリボンを付ける。こういう時、前世で孫の髪を結ってあげた経験が役に立つ。
「う~ん、やっぱり可愛いっ! 私の想像通り!」
フレイアは両手を胸の前で祈るように組むと、心配そうな表情で私を見る。
「……そうですか? 私、可愛いですか?」
──その仕草、マジ可愛いっ!! 弱々しいセリフも、めちゃくちゃ雰囲気に合ってる!! 鼻血でそう!!
私は頬を赤くしたままフレイアの肩を持つと、アリエッタとマリーの方に回転させた。
「お二人は、リボンを付けたフレイアさんをどう思いますか? 何も付けていない時よりも、可愛いと思いませんか?」
これは、私が異世界人の感覚を知るための質問だ。もし反応が良くなければ、お茶会での「オシャレ」は諦めざるを得ない。
しばらくして、マリーが頬を真っ赤にして小さく手を上げた。そして、感想を口にする。
「えっと……、主人に対して大変失礼かもしれませんが、とても可愛いです。なんだか胸がキューっとなって……。どうしてフレイア様にもっと早く出会えなかったのかなって……。フレイア様、最高です!」
ドルヲタのようなマリーのそのセリフに、私は気持ちが一気に高揚した。
私が満面の笑みのままアリエッタに視線を移すと、アリエッタも口を開く。
「……私もマリーが言った感想と同じです。フレイア様は邪気を纏った最悪の戦士ですが、殺傷用リボンを使うだけで、こんなにも変わり果ててしまうものなんですね」
「アリエッタさんっ! 『可愛い』を表現するときの言葉がおかしい!」
いずれにしても、前世と異世界で、可愛いの感覚がほぼ同じであることが分かった。
──もしかすると、私の前世知識を生かせるチャンスかもしれない! 異世界人を超可愛くすることができたら、そのファッション・ショーをイベントにできるんじゃない!?
「私、決めました!!」
私は委員会の開会時と同様に、人差し指を高く上げる。すると、三人が私に視線を向けた。
「お茶会では、『貴族令嬢コスプレ大会』を実施しようと思います!!」
…………。
…………。
…………。
「「「……『コスプレ大会』?」」」
まるで合唱するかのように、三人の声が綺麗に揃った。
前の話から少し間が空いてしまいましたが、久々の投稿です。




