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「夢かなって異世界の王女様に転生しましたが……、この王女様、思ってたのと全然ちがう!」 ~廃嫡寸前のダメ王女に転生した私、魔法王国のキラキラ王女様を目指す~  作者: 白うさぎの子
第1章 「いきなり廃嫡宣告!?」陛下の無茶ぶり 編

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第15話 魔法お披露目会

今回は区切りの話のため、ギャグは少な目の展開です。

 ついに、この日がやって来た──。


 私は魔力をうまく排出できるようになってから連日王宮の図書室にこもり、ひたすら魔法の勉強をした。教科書は中等部までの内容を全てこなし、それ以外の魔法関係の書籍も読み込んだ。


 そして、勉強を終えると、休みなく魔法の練習をした。魔法使いの先輩であるアリエッタに指導を仰ぎながら、魔力を操るコツや、魔法陣のイメージの仕方を教わった。そして、日中は可能な限り魔法学園の特別学級(講堂)を訪れ、オリバーから厳しい魔法の指導を受けた。


 できることは全てやった。事前準備は完璧なはずだ……。


 レディー・パーフェクトリィッ!


 私は、一週間前にも訪れた謁見の間の巨大な扉を見上げると、軽く目を閉じて深呼吸をする。


 一方、アリエッタは、一度謁見の間に入って私の到着を伝えると、駆け足で再び私の(もと)に戻って来た。


「ソフィア様。それでは参りましょう。国王陛下がお待ちです」


 私が軽く(うなず)くと、アリエッタは気まずそうに言葉を付け加える。


「……それから、王国の全貴族の皆様、行政尚書の皆様もお待ちです。ソフィア様廃嫡後の次期国王候補であるレーゲンス公爵のご令息、アレン様もいらっしゃいます……」


 国王は、私の魔法お披露目会を、王位継承権をアレンに委譲する儀式にしようとしているようだ。


「アリエッタさん。そんなに気まずそうにしなくても良いですよ。これは、今まで私がしてきたことの結果ですし、私も想定していたことです」


 私はアリエッタに微笑(ほほえ)み掛ける。


「……そして、私が今日、もし魔法を披露できなかったら、アリエッタさんともお別れですね」


 私の言葉に、アリエッタは(つら)そうな表情を浮かべると、すぐに(うつむ)いた。


「……ソフィア様。オリバー先生と私が教えたことをちゃんと実行できれば、何も問題はありません。心を落ち着けて、集中して魔法を詠唱してください」


 そして、私に一歩近付くと、小声で話し掛けた。


「それに、もし魔法を披露できなかったら……、分かってますよね? 私、ソフィア様を殴ることに躊躇(ちゅうちょ)はありませんよ? 前にもお話した通り、全侍女の恨みを受け止めてくださいね?」


 私はそれを聞いて、軽く笑った。


「ふふっ。アリエッタさんは怖いですね。……私、アリエッタさんにボコボコにされたくないので、頑張りますね」


 私がそう返すと、アリエッタは顔を上げて優しく微笑んだ。


「ソフィア様。その意気です。私は上級侍女になって、主人の『女王』をこき使うのが夢なんですから」


 アリエッタは(きびす)を返して私の前に立つと、扉の両側に控える兵士に手を上げる。すると、兵士がそれぞれ左右の扉の取っ手を持って、大きな扉を同時に手前に開けた。


「ライゼンハルト王国、第一王女ソフィア様、ご入来(にゅうらい)!」


 アリエッタがその宣言を受けて、前世でいう敬礼をするかのように、片手を胸に当てた。


 私は、そんなアリエッタに背後から声を掛ける。


「……アリエッタさん。お願いがあります」


 私の言葉に、アリエッタは怪訝な顔をして私の方を振り向いた。


「アリエッタさんは、私の背後に下がってください。私が先頭を歩きます」


 私がそう言うと、アリエッタは目を丸くして驚く。


「しかし、そういうわけには……。ソフィア様は国王陛下にちゃんと挨拶ができるのですか?」


 私はアリエッタの問い掛けにコクリと(うなず)く。そして、軽く苦笑した。


「……最後になるかもしれないのに、自分で挨拶できないなんて恥ずかしいじゃないですか?」


 私がそう言うと、アリエッタは私に道を譲るように横に移動した。そして、通り道の脇に控えるようにしてお辞儀をする。私はお辞儀をしているアリエッタの前を通って、謁見の間に入った。


 ──これが謁見の間に入るときの先頭の景色……。すごい……。


 前回はアリエッタに先導されたため、前方に何もない状態で謁見の間に入ることはなかったが、その壮麗さは筆舌に尽くしがたいものだった。こんなにも凄い王宮に住まう王女に転生できたことに、私は今更ながらに感動を覚えた。


 私が玉座に向かって歩いていくと、左右にいる貴族達が奇異の目で私を見る。


「……あのソフィア王女殿下が先頭を歩くなんて、大丈夫なのかしら。今度はどんな無礼を働こうとしてるのでしょう……」


 ヒソヒソと私の悪口を言う声があちこちから聞こえる。しかし、私はそんな声を気にせず、前だけを見て真っすぐに歩いていった。


 そして、玉座の前に着くと、私が先頭を歩いてきたことに驚いている国王の前に(ひざまず)いた。アリエッタは、私の後方に控えるように跪く。


 私は前回の謁見の時を思い出しながら、自分なりのアレンジを加えて、国王に挨拶の言葉を述べた。


「陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう恐悦至極(きょうえつしごく)に存じます。(わたくし)めに、こうして多くの皆様の前での魔法披露の場をご用意いただきましたこと、ご厚情(こうじょう)痛み()ります」


 私がそう述べると、国王や宰相達側近はポカーンと口を開けて私を見る。しかし、国王はすぐに正気を取り戻すと、慌てたように口を開いた。


「ソッ……ソフィアよ。楽にせよ。今日はよくぞ参った」


 私はその言葉を受けて起立した。背後のアリエッタも、私に合わせて起立する。


 私が玉座のある壇上にいる人達を見回すと、国王とその側近達に加え、数名の男女が並んでいる。その一番右端に、作業服姿のアレンと、私と同じセーラー服を着たフレイアが立っているのが見えた。私と同じダサい恰好でも、フレイアはとても可愛らしい。


 私がフレイアに視線を向けると、フレイアはとても嬉しそうにニコッと笑顔を見せた。頬を赤くして、心を(おど)らせているようにも見える。


 ──あぁ、きっと、憎い私がこれから「廃嫡」になるのを見られるのが嬉しいんだろうな……。


 私はこの数日間、魔法の勉強と練習に明け暮れていたため、過去に私がフレイアに何をしたかの話をアリエッタから聞けていないが、フレイアの表情が全てを物語っている気がした。


 私が視線を国王に戻すと、国王は玉座に座ったまま、片肘(かたひじ)をついて口を開いた。


「ソフィア。それでは、余の前でそなたの魔法を披露してみせよ。ここにいる全ての貴族が、その証人となろう」


 私はコクリと(うなず)くと、すぐには魔法の詠唱には入らず、国王に声を掛けた。


「……陛下。最近、お疲れではありませんか?」


 私の質問に、国王は(まゆ)をひそめた。


「ん? ……あぁ、まあいつも、そなたの事を始め、様々な政務で悩んでおるから疲れておる」


 私は国王の答えを受け、その横に控える側近にも視線を向ける。


「皆様はいかがですか? やはり、(わたくし)のことでお疲れですか?」


 その問い掛けに、宰相らしき男性が他の側近を代表して答えた。


「私どもも陛下と同様です。ソフィア様のことだけではなく、ここ最近、連日深夜まで政務関係の会議が続いておりますので、疲労がたまっております」


 私はその言葉に笑みを浮かべて軽く頷くと、後方を振り返って、謁見の間に集う貴族達を見回した。そして、大声で話し掛ける。


「皆様もきっと、それぞれのお仕事や悩みでお疲れのことでしょう! 皆様のその疲れ、(わたくし)が治癒魔法を使って一気に(いや)して差し上げます!」


 私がそう言うと、あちこちから冷笑する声が聞こえた。


「魔法を全く使えない王女殿下が『治癒魔法』? 一体、どんなイタズラの前振りなのか……」(小声)


 私はその様子にも(ひる)まず、再び正面を見て国王に視線を向ける。


 すると、国王はとても残念そうにしながら、(あわ)れむように私を見つめた。


 ──ソフィアよ。最後ぐらい、変な(たくら)みをせずに(いさぎよ)くするべきだ。……余は、お前を(はずかし)めるために、この場を用意したわけではない。早く、できないことは「できない」と言いなさい。自ら王位継承権を返上して、立派に役割を終えなさい……。


 そう言いたげな視線に、私は笑みを返す。


「陛下。それでは(わたくし)の魔法を披露いたします」


 私はそう言うと、胸の前で両手を祈るように組んだ。


「天空を()べる光の神ホルス、生きとし生けるものに宿(やど)る命の神ソアーレ、そして、万物に休息と(いや)しを与える治癒の女神キュアリーよ。魔法の行使者たるソフィアが命じる」


 私が神々の名前を呼び終えると、私の周囲に半径5メートル程度の光り輝く魔法陣が現れた。そして、その魔法陣を中心に、(ゆる)やかな風が吹き始める。謁見の間の正面にある何かの紋章が刺繍されたタペストリーが、その風を受けて軽く揺れた。


 壇上の国王達が目を見開いて私の詠唱に驚く中、その(そば)に控えていた神官風の衣装を着た男性が一歩前に出た。


「……この魔法陣は、上級魔法ですぞ。しかも、高位貴族ですら、唱えられる者が(わず)かしかいない範囲魔法……。魔法を全く使えなかったソフィア様がなぜ……」


 神官風の男性が言葉を言い終えるよりも先に、私の周囲にあった魔法陣が強力な光を放った。


 そして、瞬く間に魔法陣は左右に割れると、それぞれ時計回り・反時計回りに180度回転する。すると、魔法陣は真の姿を現すように、全く別の模様に形を変えた。同時に、謁見の間全体にキラキラとした光が舞う。


「もしかして、これが噂のエーテルの(きら)めき……。こんな魔法、今まで見たことございませんわ……」


 貴族の中からそんな声が漏れだす。私は祈るように組んでいた両手を、左右に伸ばした。


「神々たちよ! この場にいる全ての人に祝福を! そして、その疲れと(やまい)(いや)したまえ! 上級魔法、セレスティアル(神々の)ヒーリングッ(癒し)!!」


 私が左右に広げていた手を上方に掲げると、魔法陣が部屋いっぱいに広がり、床の所々から天井に向かって光が立ち(のぼ)る。そして、緩やかに吹いていた風が勢いを増すと、謁見の間にいる皆を柔らかく包み込んだ。


 国王は、その光景に目を丸くしたまま玉座から立ち上がると、自分の手の平を胸の前に掲げてじっと見つめた。


「これは現実なのか……。全身に力がみなぎっていく。本当に疲れが癒されていく……」


 謁見の間にいる皆が驚きの声を上げる中、私はしばらく両手を上げ続ける。


 そして、自分の魔力が尽きたのを感じ取ると、両手を下げてお(なか)の前で組んだ。すると、光を放っていた魔法陣は消え、元の謁見の間の光景に戻った。


 私は元に戻った謁見の間を見回しながら、大きく溜息を()く。


 ──はぁ~! なんとか上級魔法を唱えられたぁ~! こんなに難しい魔法、失敗するんじゃないかと思って、本当にドキドキしちゃったぁ~! なんだか、ピアノの発表会を無事に終えた気分!


 私はそんな本心を隠したまま、ニコッと笑みを浮かべると、玉座から立ち上がって手の平を見つめている国王に声を掛けた。


「国王陛下。これが(わたくし)の魔法です。……いかがでしたか? (わたくし)は廃嫡にならずに済みますでしょうか?」


 私の言葉に、国王はハッとした表情をして正気に戻ると、ドサッと尻もちをつくようにして玉座に座った。そして、ニヤッと笑った表情を隠すように、片手で顔を押さえる。


「ふふっ……」


「……陛下?」


「ソフィア。……これは本当にそなたの魔法なのか?」


「はい。本当に(わたくし)が唱えた魔法です。……信じていただけないのでしょうか?」


「当たり前であろう……。一週間前まで、そなたは『ライト』すら使えなかったのだぞ? 一体、どんな仕掛けを使ったのだ?」


 国王は、私が魔法を使ったことを信用していないようだった。


 ──まあ、そうだよね……。この十数年間、一切魔法を使えなかったのに、いきなり皆を癒す治癒魔法だもんね。……だけど、国王のこの反応は想定内。私の魔法を信じてもらえない時は、あの人を呼ぶように言われている。


 私は後方を振り向くと、貴族達がいる一角に視線を向けた。すると、貴族達の間を縫うようにして、一人の老人が進み出てくる。そして、私の横に来て並ぶと、国王に向かって(ひざまず)いた。


 国王は、その老人に声を掛ける。


「……グロスター伯爵。この余興は、そなたの入れ知恵なのか?」


 グロスター伯爵たるオリバーは、国王の言葉にコクリと頷いたが、すぐに笑みを浮かべる。


「恐れながら、陛下。『入れ知恵』という表現は違いますな。……これは、本物の上級魔法です。ソフィア様が詠唱し、実際にソフィア様の魔力で行使した大規模治癒魔法です」


「……しかし、ソフィアは今まで、全く魔法を使えなかったのだぞ?」


「はい、それは存じ上げております。……ですが、ソフィア様は魔法の行使において、(たぐ)(まれ)な才能をお持ちのようです。たったの二日間で、貴族でも数人しか詠唱できない上級魔法を一つ、習得されてしまわれました」


 ──えっ? 数人だけ?


 私はオリバーに無理やり上級魔法を叩き込まれたが、そもそも上級魔法がそんなに難しいものだとは知らなかった。私が目を丸くしてその言葉に驚いていると、オリバーは私に軽くウィンクをする。


「もしかすると、ソフィア様は将来、この国でも一二を争う魔法使いになるやもしれませぬな」


 そして、オリバーは、私の後方に視線を移す。


「それに、ソフィア様の専属侍女は大変優秀ですな。そもそも、ソフィア様が魔法を使えるようになったのは、アリエッタ嬢のお陰と言っても良いほどです。アリエッタ嬢は……」


 オリバーがそこまで話すと、アリエッタは慌てて指を口元に当てて、「しーっ!」という仕草をした。「強力な魔法補助」の件を、全貴族の前で暴露されるのを恐れているようだ。


 あれをバラされたら、間違いなく、私とアリエッタは「できてる~♡」と思われる……。


 オリバーはそれに気付き、一旦、口を(つぐ)むと、視線を国王に戻した。


「……まあ、いずれにしても、ソフィア様の魔法は正真正銘の上級魔法です。そもそも……」


 オリバーは跪くのをやめて起立すると、謁見の間全体を指し示すように、開いた手を動かした。


「この場の貴族達の中に、上級魔法を使える貴族が一体何人おるのですか? 私やソフィア様が何か仕掛けをするとしても、一体誰が、ソフィア様の代わりに上級魔法を唱えられるのですか?」


 私はその言葉を聞いて、オリバーの意図を理解した。


 ──なるほど。「ライト」程度の初級魔法だと、私の代わりに、アリエッタさんが背後で魔法を詠唱したと疑われちゃうんだね。確かに、私が審査する方だったら、そう思うかも……。


 実は、私は魔法の練習を始めてすぐに、初級魔法「ライト」を使えるようになっていた。


 しかし、その後、私がオリバーに魔法の習得を報告すべく魔法学園を訪れた際、オリバーは私に「ソフィア様は死ぬ気で上級魔法を覚え、皆の前で披露しなくてはならない」と強く主張した。私は「初級魔法のライトでいいじゃないですかぁ~!」と泣きべそをかいたが、オリバーは一切譲らなかった。


 彼はきっと、この展開を予想していたのだろう。


「ちなみに、私は一切魔法を唱えておりませぬ。私を疑うのであれば、いくらでも検査していただいて構わない」


 国王はオリバーの言葉に「ふぅ」と溜息を吐く。


「……そうか。では、本当にソフィアの魔法なのだな?」


 オリバーは国王の問い掛けに、再びコクリと頷く。


「グロスター伯爵家の名において、また、魔法学園の校長の名において、一切の不正がないことを、ライゼンハルト王国の神々に誓いましょう」


 国王は「分かった」と言うと、玉座から再び立ち上がった。そして、大声で話し始める。


「我が親愛なる臣下達よ。今日、目の前でそなた達が見て、実際にその効果を享受したソフィアの魔法は本物だ。魔法学園の校長であるグロスター伯爵もそれを認めた。つまり、そなた達は、ソフィアが余の前で魔法を披露した事実を証明する証人となった」


 国王は私を見ると、近くに来るように手招きした。


 私が階段を上って国王に近付くと、国王は私の肩に手を当てて、貴族達の方を振り向くように私に言う。私はその言葉に従い、クルッと後方を振り向いた。すると、国王は大声で言葉を続けた。


「ソフィアは引き続き、ライゼンハルト王国の王位継承権第一位の王女である! 皆には、ソフィアを全力で支えてもらうことを望む!」


 その言葉を受けて、貴族全員が国王の方を向いて、その場に跪いた。おそらく、この態勢を取ることが、国王への忠誠を示す行為なのだろう。


 私がその光景に呆然としていると、国王が後方から私の耳元に口を寄せて、小声で話しかけた。


「ソフィア。……よく頑張ったな。母親のエリザベートにも、お前の立派な姿を見せてやりなさい」


 私はその言葉に驚いて後方を振り返る。すると、国王が私を見て優しく微笑んでいた。その笑みは、父親が娘を思いやる慈愛に満ちたものだ。きっと、一週間前の「廃嫡」の話は側近達に促されたもので、その決断は断腸の思いだったに違いない。


 転生者である私は、まだ国王との親子の絆を感じることはできないが、今までのアリエッタの話から、父親である国王に苦労を掛けてきたことだけは想像できる。それを思うと申し訳なくて、自然と目から涙が溢れ出した。


「陛下……いえ、お父様、今まで申し訳ありませんでした」


 私は涙を拭うと、必死に泣くのを(こら)える。ここで泣いてしまっては、全てが台無しだ。父親である国王が、臣下の前で私の王位継承権維持を宣言してくれたというのに、当の本人がめそめそしているわけにはいかない。


 私はニッコリと懸命に笑顔を作ると、跪く貴族達に向かって口を開いた。


「臣下の皆様。これからも陛下と(わたくし)を支えてくださいますよう、どうぞよろしくお願いいたします!」


    ◇ ◇ ◇


 私が壇を下りて再び国王に向かって跪くと、国王は玉座を立って退出する。それに合わせて、やや気落ちした側近達がその後に続いた。おそらく、私が廃嫡にならなかったことを残念に思っているのだろう。


 国王の退出が終わると、謁見の間の扉が左右に開いた。それを見た貴族達が、謁見の間の出口に向かう。この世界では、王族である王女が部屋にいても、退出時の順番は問わないらしい。


 私はオリバーにお礼を伝えると、アリエッタに、オリバーを謁見の間の出口まで見送るようにお願いした。アリエッタはそれに従い、オリバーを連れて、謁見の間の出口に向かって歩いていく。


「ソフィア様……」(小声)


 ──え?


 その声に私が後方を振り返ると、国王が退出した後の壇上に、一人の少女が残っていることに気付いた。


 ──あれ? フレイアさん?


 フレイアは悔しそうな顔をして、私のことをジッと見つめていた。よく見ると、先ほどまでの可愛らしい表情を崩して、眉間(みけん)(しわ)を寄せ、頬を赤くしたまま唇をギュッと噛んでいる。


 ──ごめんなさいね、フレイアさん……。フレイアさんが私を憎む気持ちは分かるけど、私だって、転生早々に廃嫡になりたくないから……。


 私が困ったようにフレイアに笑顔を向けると、フレイアが私を(にら)んだまま、壇を下りて私に近付いてきた。


 ──えっ!?


 私がフレイアの接近に戸惑っていると、フレイアは私の目の前に立って、私の顔を至近距離で睨む。


「ソフィア様……。どうして急に魔法が使えるようになったんですか?」


 私はフレイアから目を()らしながら、慌てて懸命に言葉を絞り出した。


「いや、えっと、そのぉ……。激しい腹痛とともに、凄い下痢をしてスッキリしたら、なぜか急に魔法が使えるようになっちゃいまして……」


 フレイアは眉をひそめながら、「は? 何言ってるの?」という表情で私を見る。私はさらに慌てて言葉を続けた。


「もっ……もちろん! アリエッタさんの……ごにょごにょと、オリバー先生のセクハラも重要な要素でして……」


 すると、フレイアはグッと私に顔を近づけた。


「何をおっしゃっているのか、私には全く理解できませんが……」


 そして、目をスーッと細める。


「……どうしてソフィア様は廃嫡にならなかったんですか? どうして辺境に追放されてくれなかったんですか? 王位継承権など、早く手放していただきたかったのに」


 フレイアの私を責めるような言い方に、私は言葉を失った。


 ──なっ、なんなの、この子! 私にイジメられてたんじゃないの!? 大人しい子だと思ってたけど、もの凄く真っ直ぐに、私の没落を願ってる!!


 私がアワアワしながら返す言葉に困っていると、アリエッタが私の側に戻ってきた。


「……あの、フレイア様。どうかされましたか?」


 アリエッタの問い掛けに、フレイアはアリエッタをキッと睨みつける。


「あなたは黙っていなさい!」


 アリエッタはフレイアの叱責するような言い方にビクッと身体を震わせると、そのまま絶句した。しばらくの間、私達の間に沈黙が流れる。


 すると、フレイアは急に涙目になって私を見ながら、ボソッと呟くように言った。


「……私、辺境でソフィア様と二人だけで、仲睦まじく暮らすのを楽しみにしていたんですよ? 今日、ソフィア様が廃嫡になったら、すぐに準備を整えて、そのまま一緒に辺境に向かう予定だったのに……。私のこと、嫌いになっちゃったんですか?」


「「…………は?」」


 フレイアのその言葉に、私とアリエッタは完全に固まった──。


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