第14話 魔法補助で便秘解消!
私達は魔法学園から王宮に戻ると、早速「魔法補助」の準備に入った。
昼夜を問わず「魔法補助」を行うため、私はまず早めの食事(野菜)を取る。そして、トイレを済ませると、シャワーを浴びてパジャマに着替えた。
一方、アリエッタは私の身の回りの世話を終えた後、侍女の自室に急いで戻り、私と同じように食事とトイレ、シャワーを済ませて、パジャマを持って戻ってきた。
「おっ、お待たせしました!」
私がベッドの端にちょこんと座ってアリエッタの到着を待っていると、アリエッタが息を切らしながら部屋に入ってきた。そして、扉をガチャっと施錠する。
「……あの、アリエッタさん。何をしているんですか?」
私がアリエッタを見ていると、アリエッタは両扉のノブを連結するように、紐でグルグル巻きにしていた。この状態だと、通常の鍵を解錠しても扉は開かない。
「あぁ、これですか? 外から開けられないように、厳重に紐で結んでいるんです」
「……いや、それは分かりますけど、どうして?」
「……ソフィア様が奇声を上げても、誰も入ってこれないように、です」
「え?」
「私がソフィア様に添い寝しているところを他の侍女に見られるわけにはいきません。私の人生の『汚点』を晒すわけにはいかないのです」
「汚点ってひどい!」
……前回も私はギャアギャア叫んでいたと思うけど、誰も助けに来てくれなかったよ? そんなに厳重にしなくても大丈夫だよ?
アリエッタはドアノブの紐を締め終わると、どこからともなく私の両手両足を縛るための紐を持ってきた。
アリエッタはその紐を私に見せるようにすると、左右にピンピンと引っ張る。そのたびに、パシッパシッと音が鳴った。
──その仕草、紐を鞭にして身体を打たれそうな気分になるので、正直やめてほしい……。
「さぁ、ソフィア様。仰向けに寝てください」
私は怯えつつも覚悟を決めると、ベッドの上に仰向けに寝た。アリエッタは前回同様、私に馬乗りになって両足から紐で縛り始める。そして、両足を三本の紐で縛り終えると、今度は私の顔の方を向いて、私の両手を縛り始めた。
「ん~っ……」
私は、馬乗りになって私の両手を縛っているアリエッタに、口先を尖らせるようにする。
「……あの、何をしているんですか? ソフィア様」
その言葉に、私はほんのりを頬を赤くする。
「え~っと、その……、するんじゃないんですか? こっちの方が効率がいいんですよね?」
「……え?」
「私、アリエッタさんとならキスをしてもいいですよ」
すると、アリエッタは顔を真っ赤にして、私の口に猿ぐつわ用の紐を押し付けた。
「キッ……キスなんて、するわけないでしょっ!! どういう神経してるんですかっ!!」
「うぅぅっ~っ!!」
私は猿ぐつわを強引に押し付けられて、口が裂けそうになった……。
魔法学園では、オリバーに「私達はそういう関係じゃない!」とは言ってはいたものの、私としては効率良く「魔法補助」を行いたかった。残された時間が少ないため、私は口と口による「魔法補助」でも受け入れるつもりだったが、やはりアリエッタにとっては許容しがたいようだ。
──まあ、アリエッタさんはまだ若いし、当然といえば当然だよね……。この世界の貞操観念は知らないけど、アリエッタさんを見ていると、前世の少し昔の考え方に似ている気もするし。
私は猿ぐつわをされて両手両足を縛られたまま、アリエッタにお姫様だっこされて定位置に寝かされる。そして、アリエッタは私に添い寝をすると、私の身体を軽く抱くように持った。
──嫌だなぁ。強力な「魔法補助」は本当に拷問なんだよね……。また気絶しちゃうかな……。
私はアリエッタからの強力な魔法流入に耐えるため、目を瞑って全身に力を入れる。
う~んっ!
…………。
…………。
…………。
…………あれ?
私が片目を開けると、アリエッタは私を片手で抱きながら、何かを考えるようにもう一方の手の指を顎に当てていた。
「……ソフィア様。今回の『魔法補助』、もしかすると、私達のやり方は間違っているかもしれません」
「むぇ?」(え?)
私は猿ぐつわを噛んだまま、隣のアリエッタを見る。すると、アリエッタは私を抱くのをやめて上半身を起こすと、私の両手の紐を解いた。そして、私の口の猿ぐつわも外す。
「アリエッタさん? どうしたんですか?」
私がきょとんとしてアリエッタを見ていると、アリエッタは急に私の上に馬乗りになった。
「えっ!? なんですか!?」
アリエッタは私の両手を持つと、じっと私の顔を見つめる。その頬は赤く染まり、何かを恥じらうような表情をしていた。
「……あ、もしかして、私とキスを……」
「しませんよっ!!」
アリエッタはキスを全力で否定しつつも、私の両手の指に自分の指を絡ませるようにして、恋人つなぎをした。両想いの恋人同士がするような、手と手が合体して見つめ合っている体勢だ。
「……アリエッタさん。ついに私と一つに……。でもやっぱり、キスからにしませんか? いきなり身体から始めるのはちょっと……」
「何もしないって言ってるでしょっ!!」
アリエッタは唾を飛ばしながら、真っ赤な顔でそう叫ぶ。私は両手をアリエッタに握られているため、その唾を避けることもできずに顔面に浴びた。いくら美少女の唾でも、ちょっとこれは汚い……。
私が顔を拭えずに渋い顔をしていると、アリエッタはこの体勢を取った理由を話し始めた。
「……ソフィア様はオリバー先生の説明を覚えていますか? 身体の魔力の排出口の位置です」
「はい、覚えていますよ。魔力の排出量が多いのは『指先』と『手の平』そして『口』でしたよね?」
「そうです。今回の目的は、魔力の排出口を広げることです。魔力の流れを作ることではありません。ですから、私がソフィア様の身体に手を当てて、魔力を出し入れしても仕方ないんです」
私はアリエッタの説明で、彼女の言いたいことを理解した。
「あっ、なるほど!! だから、魔力の排出口である『手の平』を合わせるこの体勢なんですね」
「はい、そうです。今回はこうして、私達の両手の手の平を合わせて、魔力を出し入れしたいと思います」
私は馬乗りになっているアリエッタを見つめて頬を赤くすると、ニッコリと微笑む。
「ふふっ。馬乗りされて両手で恋人つなぎしてると、私、ドキドキしちゃいます」
「恥ずかしいから、あえて言わないでいたのにっ!! ソフィア様のバカっ!!」
アリエッタから唾を浴びせかけられるのと同時に、私に大量の魔力が流れ込んできた。
「ちょ! ちょっと待ってっ!!」
私はすぐさま全身に力を入れて、「地獄の魔法補助」に備えた。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………あれ? 全然気持ち悪くならない。
「……あの、アリエッタさん」
アリエッタは苦しそうな表情をしながら、私の呼びかけに答える。
「……はい」
「私、全然気持ち悪くならないです。本当に強力な魔力を注入していますか?」
「えっ!?」
アリエッタは目をまるくして驚くと、一旦魔力の注入を停止した。そして、肩でハァハァと息をしながら、握っていた私の手を放す。
「どういうことでしょう……。私、全力で魔力をソフィア様に注入しているのに……」
私はアリエッタが苦しそうにしているのを見て、口を開いた。
「あの……、私から提案があります」
その言葉にアリエッタは怪訝な表情を浮かべる。「どうせロクでもないエロい提案では?」と思っているに違いないが、今回の私の提案は真面目なものだ。
「私もこの数日の練習で、それなりに魔力の流れを操るコツを掴んだつもりです。私からアリエッタさんに魔力を流してみてもいいですか? その時にアリエッタさんは私の魔力を吸収してください。そうすれば、魔力の排出口を開く『魔法補助』としての効果は同じですし、アリエッタさんの負担は減りますよね?」
私の提案に、アリエッタはハッとした表情を浮かべた。
「……なるほど、そうですね。私が魔力を出し入れすることばかり考えていましたが、ソフィア様の方から流し込んでもらっても良いのかもしれません」
アリエッタはそう言うと、再び私と両手を合わせて恋人つなぎする。そして、両手が合体する部分を補強するように、私の手を力強くギュッと握った。
「じゃあ、いきますよ!」
私は手の平に魔力を集中させる。すると、徐々に全身の魔力が手の平に集まってきた。……しかし、アリエッタの方に移っていく気配がない。
「アリエッタさん。私の魔力の排出口は、やはり何かで塞がれているような感じがします。すみませんが、私の魔力を吸い出してみてもらえませんか?」
「分かりました」
私は馬乗りになるアリエッタの下に仰向けに寝たまま、アリエッタの両手を握る手にさらに力を込めた。アリエッタも同時に、手に力を入れる。
「う~んっ!」
「う~んっ!」
「うぅ~んっ! はぁはぁ……」
「うぅ~んっ!」
「うぅぅ~んっ! はぁはぁ……」
「うぅぅ~んっ!」
「アリエッタさん! まだ出てませんかっ!? これが私の限界ですっ!!」
「まだチョロチョロと漏れ出ているレベルですよっ!! 手の平ならもっとドバっと出ないとダメですっ!! ドバっと!!」
……これではまるで、私がトイレで気張っているみたいだ。オリバー先生の「便秘」という表現は正しかったのかもしれない。
「アッ……アリエッタさん! これ以上はもう無理です!」
私はしばらく魔力を押し出すことをイメージしながら全身に力を入れていたが、集中力が途切れ、アリエッタを支えている両腕の力を抜いてしまった。
その瞬間、アリエッタが私の上に覆いかぶさるように倒れてくる。
「きゃぁあ~っ!!」
アリエッタの顔が私の顔に迫る。そして、ついに私とアリエッタは濃厚なキスを…………することはなかった。
「……このプニプニした感じ。数日ぶり。気持ちいい~」
アリエッタが私へのキスを懸命に回避した結果、私の顔は(幸運にも)アリエッタの胸で優しく押しつぶされていた。
「……こっ、このエロ王女ぉ~!! わざと力を抜いたんですね!! もう許さないっ!!」
アリエッタは私の顔を胸で押しつぶしたまま、私の脳天をゲンコツで何度も叩く。
「ぎゃ! やめてっ! それは誤解です!! 私は本当に疲れ果てていて!! そもそも、この体勢で『魔法補助』をやる必要があったんですか!? 座ってやっても良かったんじゃないですかっ!?」
アリエッタは私の言葉を無視すると、私の頭を持ってギュッと自分の胸に押し当てた。
「……え? なに?」
その瞬間、アリエッタの胸から怒り狂った魔力が私の顔に流れ込んでくる。
「ちょ! ちょっと待って、アリエッタさん!! 私の顔は魔力の出入り口じゃありませんよっ!!」
「そんなに胸が好きなら、ここから魔力を流し込んであげますよっ!! お仕置きです、エロ王女っ!!」
「ぎゃぁあ~っ!! 今度はホントに気持ち悪いっ!! お願い、許してくださいっ!! ちょっとぐらい、いいじゃないですかぁ!!」
そして、前回同様の「地獄の魔法補助」が始まった……。
◇ ◇ ◇
「……はっ!!」
数時間後、私は目を覚ました。どうやら、アリエッタの荒れ狂う魔力で気を失ってしまったようだ。
「あっ、ソフィア様。お目覚めですか? お茶を用意してありますよ」
なんだか妙にスッキリした表情をしたアリエッタが、笑顔で私に呼びかける。
「あっ、ありがとうございます……」
私が上半身を起こすと、両足の紐はアリエッタによって既に解かれていた。私はスリッパを履いて、テーブルに移動する。
歩くたび、まるで二日酔いのように頭がガンガンと痛い。それに加えて、全身の倦怠感と、腹部に違和感のある鈍痛があった。おそらく、アリエッタの怒り狂う魔力が、まだ私の身体の中で暴れまわっているのだろう。
私はアリエッタが椅子を引いてくれるのに合わせて着席すると、目の前の紅茶に手を伸ばす。そして、カップを手に取ると、紅茶を口に含んだ。
「……あぁぁ、美味しい。全身に染み渡る……」
私はすっかり、飲み会翌日のサラリーマンの状態だった。
──身体がだるい……。紅茶をもっと飲みたい……。
私が紅茶を何杯もおかわりしてゴクゴクと飲んでいると、腹部に激痛が走る。そして、私は今まで感じたことがないような大きな便意を催した。
──うっ!? 何っ!? 野菜しか食べてないのに!! 紅茶の飲みすぎで下痢になっちゃった!? いや、これはアリエッタさんの魔法補助で、身体中がかき混ぜられたせいかもしれない!!
私はすぐに椅子から立ち上がると、一目散に隠し扉を目指して駆け出す。
「アッ、アリエッタさん、ごめんなさいっ!! 私、トイレに行ってきます!! しばらく帰ってこないと思います!! ……ぅぅっ、お腹全体が痛いっ!! 本当にヤバイ!! 漏れるっ!!」
私は呆気に取られているアリエッタにそう言い残すと、隠し扉を急いで開けて、しばらくの間、トイレにこもった。
そして、約15分後……。
「ふぅっ……。スッキリしました。毎日野菜食でも、結構出るもんですね。ドバっと出ましたよ。ドバっと」
「ソフィア様っ!! 表現がはしたないですっ!! そもそもドバっと出すのはそっちじゃなくて、魔力を出して下さいよっ!!」
私は手を口元に当てて、「オホホ」と上品に笑いながらベッドに移動する。そして、先程の「魔法補助」の続きをするため、再びベッドの上に寝転がった。
アリエッタも準備を整えると、私の上に馬乗りになって、私と両手を恋人つなぎをした。
──ん? そういえば、この体勢で魔法補助をする必要はなかったんだっけ?
私がアリエッタにそれを指摘しようとすると、アリエッタが先に話を進める。
「ソフィア様。それでは、もう一度、魔力をこちらに流し込むつもりで力を入れてください」
私は「まぁ、いいか」と思いつつ、目を閉じて意識を手の平に集中させる。
──あれ? なんだかさっきよりも魔力が操作しやすいような……。トイレに行ったせいで、色々と感覚がスッキリしてるのかな?
「う~んっ!」
私が魔力を手の平から押し出すように力を入れると、アリエッタが目を大きく見開いて驚く表情を浮かべた。そして、すぐにアリエッタの顔が紅潮し始める。
「ソッ、ソフィア様……。今、魔力を手の平から出しましたか?」
「え? はい。そのつもりです。……もしかして、うまく出ましたか?」
「……出たなんてレベルじゃないですよ……。もっ、もう一回、お願いします」
「はい、分かりました」
私が再び力を込めて魔力を手の平から押し出すイメージをすると、アリエッタが顔を赤くして幸せそうな笑顔を浮かべた。その表情は「心ここにあらず」といった雰囲気だ。
「……あぁ、気持ちいいぃ……」
「あの……、アリエッタさん?」
「…………」
「アリエッタさん、大丈夫ですか?」
「…………はっ!!」
アリエッタは慌てて両手を放すと、正気を取り戻すように首を左右に振った。私はそんなアリエッタに声を掛ける。
「アリエッタさん。私の魔力、どうでしたか? ちゃんと出てましたか?」
「……きっ、気持ち良すぎます……」
「え?」
「ソフィア様の魔力、気持ち良すぎます。……ソフィア様。私以外の人に魔力を注入してはいけませんよ。これはダメです。反則です。……ソフィア様はなんて魔力を体内に秘めていたんですか……」
アリエッタは真っ赤な顔をして、私の隣に倒れるように横になった。
「……理由は分かりませんが、これ以上『魔法補助』をしなくても、ソフィア様の魔力の排出は問題なさそうです。……あとは魔法の練習ですね」
「本当ですか!? やったぁ~!!」
私が喜びのあまり、隣に寝ているアリエッタに抱き付こうとすると、アリエッタは余裕のない表情で私を押し返した。そして、真っ赤になった顔を両手で押さえる。
「……ソフィア様の魔力は媚薬のようです。……ソフィア様にその気がないのでしたら、絶対に他の人に魔力をあげちゃダメですよ。……私じゃなかったら、きっと我慢できないです……」
アリエッタは意味深なことを呟くと、甘い吐息を吐いて、そのまま無言になった。
次話で、一連のお話に一区切りつく予定です。




