第9話 大人しくて優しい王女様
区切りの良いところがなく、文字数が多くて申し訳ありません。
「その話、もう少し詳しく聞かせてもらえませんかっ!?」
私は興奮して上半身を起こすと、身体を大きく捻ってアリエッタの上に馬乗りになる!
……なんてことはできずに、無様にアリエッタの上に崩れ落ちた。そもそも片手と両足を縛られているため、馬乗りは無理だった。……というか、なぜ馬乗りになろうとしたの、私!
「ひゃぁぁ~っ!!」
アリエッタが素っ頓狂な声で悲鳴を上げる。……それもそのはず。私は勢いよく顔面からアリエッタの胸に突っ込むような体勢になっていた。
──すっかり両足と右腕を縛られていたことを忘れてた。でも……。
「……プニプニして、やわらか~い。むふふ、やっぱり若い身体っていいなぁ。アリエッタさんって、あんまり胸が無さそうに見えて、結構あるんですね~」
「バカ、バカ、バカーっ!! 突然何するんですかっ!? このエロ王女っ!! それにソフィア様の方が若いでしょ!!」
アリエッタは遠慮なく、右手で王女である私の頭をボカスカ叩く。
「いたっ!! ぎゃ!! ちょっと待って!! これは事故です!! 不幸で幸運な事故!! あまり動くと、私の肘の関節があらぬ方向に曲がりますっ!!」
「肘の関節なんか反対向きに曲がっちゃえ!!」
「ひどいっ!! っていうか、アリエッタさん、私に荒れ狂う魔力を注入するのを止めてくれませんか!? 気持ち悪くて、このままだと、私、ここで吐いちゃいますよ!?」
「だって! ソフィア様が身体で私の左腕を押さえるようにしてるから、私は手を放せないんですよ!! どうして、こんなことをしたんですか!! バカ王女!!」
「いたっ!! もうちょっと私に敬意を持ってください!! これでも王女なので!! ぎゃ、いたいっ!!」
アリエッタは私の頭頂部への殴打を続ける。そして、その言葉も敬語ではなくなってきた。
「早くどいて!! あと、吐いたら絶対に許さないからっ!! お気に入りのパジャマなんだから!!」
「おっ、落ち着いてっ!! グーで殴るのをやめてくださいっ!! せめてパーでお願いします!! 今から位置を移動させますから!!」
私はそう言うと、芋虫のように身体をうねらせて移動しようと力を入れるが、アリエッタの胸の上で、心地よいモニモニ感を堪能するだけだった。そして、そのたびに鉄拳が落ちてくる。
頭で想像するだけだと簡単に元の体勢に戻れるような気がするが、左手しか使えない状況では、これが意外と動くことができない。しかも、アリエッタの身体に対して、私の身体が少し斜めに覆い被さっているため、紐で結ばれた右腕が変な方向に曲がっている。両足が何本もの紐で縛られていることも、うまく動けない原因だった。
……うーん。左手でなんとかしたいけど、その左手だけでは何もできない……。
私はアリエッタの胸の上で顔を左に向けると、身体を起き上がらせるために、左手でベッドを押してみる。
……うぅっ、ベッドが柔らかすぎる。天国のようなフワフワ感で、まったく支えにならない!
アリエッタの胸の感触は気持ちいいが、送り込まれてくる荒れ狂う魔力が徐々に辛くなってきた。また、アリエッタから休みなく繰り出される頭部への激しい殴打も辛い。
私は頭をポコポコと殴られながら、一休さんのようにじっと考える……。
──要は、私の身体を仰向けに戻せる位置まで移動できればいいんだけど……。あ、そうだ!!
「アリエッタさん! 良い案があるので、少しだけ私に力を貸してくれませんか?」
私の言葉に、アリエッタは一旦殴打を止めた。
「……良い案じゃなかったら、分かってますね? もしエロい案だったら、思いっきり、いきますからね?」
アリエッタは右手をグーにして構えると、拳にハーッと息をかける。
「……えーっと、暴力反対」
「は? 誰のせいでこんなことになっていると?」
「まっ、まずはやってみましょう! ダメだったら、好きなだけ殴っていいので!」
私はアリエッタの胸に顔をうずめたまま、左手を前に伸ばした。
「私の左手をアリエッタさんの右手で持って、少し引っ張ってもらえませんか? 私の右腕に負荷を掛けないように、まずはアリエッタさんの身体と、私の身体がなるべく平行になる位置に移動したいです」
両足を縛られて芋虫動作しかできなくても、アリエッタに引っ張ってもらえば、少しずつ平行になる位置に移動できるはずだ。平行になった後、私がパタンと仰向けに回転するようにすれば、元の位置に戻れる。
アリエッタは、右手で私の左手を持つ。そして、少しだけ引っ張った。
私が同時に身体を「う~んっ」とうねらせると、私の身体がアリエッタの顔方向に少しだけ移動する。
「やりました! 少しだけ動きましたよ!」
「……あの、ソフィア様」
「はい」
「……これ、最終的に、私の顔の位置にソフィア様の顔が来ませんか?」
「あ、確かにそうかもしれませんね。興奮して、私にキスしちゃダメですよ。ふふっ」
私が軽い冗談を言うと、アリエッタは顔を真っ赤にしたまま、私の左手を放してしまった。
「あれ? アリエッタさん? どうしました? 手を引いてくれないんですか?」
「……ソフィア様。私に良い案があります」
アリエッタはそう言うと、私の左肩に手を当てた。
「ん?」
「……ソフィア様の右腕の関節が、曲がらない方向に曲がっちゃったら、ごめんなさい!!」
「えっ!? うそっ!? やめてください!! ホントに今、方向によっては腕が限界なんですよっ!!」
転生初夜に肘を脱臼するとか、シャレにならない。しかし、私がどれだけ叫んでも、アリエッタは私の肩を放さなかった。
「後で治癒魔法をかけますし、明日はずっと、ソフィア様のお下の世話をしてあげますから大丈夫です! 侍女はそのためにいるんですから!」
「私の中では、侍女はそういう存在じゃないです!! というか、お下の世話をされるのはイヤですよっ!!」
アリエッタは私の叫びを無視すると、力の限り、一気に私の左肩を押した。
「ぎゃぁあ~!!」
私はアリエッタに押された勢いで、ひん曲がった右腕を軸にして大きく回転する。
私の右腕の関節がポキッと変な音を出したが、幸運にも、肘の関節が可動域を超えて曲がることはなかった。高級ベッドのクッションが沈み込んで、肘の関節が可動域を超えないように守ってくれたようだ。さすが王女のベッド。
「……元に戻れた」
私は仰向けの姿勢に戻ると、呆けたように天蓋を見上げた。
「はぁ……。やっとエロ王女から解放された……」
「……アリエッタさん。このたびは、すみませんでした……」
私は身体を少しアリエッタの方に向けると、枕の上でお辞儀をするように頭を動かして謝罪した。すると、私に流れ込む魔力が徐々に落ち着いてくる。そして、「魔法補助」が始まった頃のように、私の身体が心地良さで満たされてきた。
しかし、私が謝罪をしても、アリエッタは不機嫌そうな表情で目を閉じていた。私も仕方なく仰向けに戻り、ベッドの天蓋に視線を向けて目を閉じる。
……私がバカなことをしたせいで、聞きたかったことを聞けなくなっちゃった……。
私がしばらく何も言わずに落ち込んでいると、アリエッタが私に問い掛けてきた。
「……それで、ソフィア様は何をしたかったんですか?」
私が驚いてアリエッタを見ると、アリエッタはいつの間にか目を開いて天蓋を見つめていた。
「アリエッタさん……」
「……早く言わないと、私、このまま寝ちゃいますよ。さっきのバカ騒ぎで疲れてしまったので」
私は慌てて、アリエッタに聞きたかったことを尋ねた。
「私が普通の王女だった時のことを教えて欲しかったんです。私の過去の迷惑行為をチャラにすることはできませんが、迷惑系ソフィアになった経緯を知れば、一週間後に辺境に追放されても少しは納得できると思うんです」
「……今のままでは納得できないんですか?」
「はい……。何度も言いますが、私は王女でいたいです。クズ・ソフィアとして廃嫡になるのは嫌です。たとえ自業自得だと言われても嫌なんです。なぜなら、私には処罰に納得できるだけの『記憶』が無いので、それを素直に受け入れることができないんです……」
アリエッタは少し考えるようにして、私に警告するように話す。
「……お話するのはいいですけど、凄く昔の話ですよ? それに、私は直接、昔のソフィア様を見ていません。年配の侍女から聞いたソフィア様の昔話です。ですから、私がする話は間違っている部分もあるかもしれません。それでも、いいんですか?」
私は隣のアリエッタの方に少し身体を傾けると、コクリと頷いた。
「はい、問題ありません。……私が頼れる人は、アリエッタさんしかいないですから」
すると、アリエッタは、年配の侍女から聞いたという昔のソフィアの様子を、思い出すように話し始めた。
「……ソフィア様は、六歳頃までは、大人しくて気の弱い王女殿下だったと聞きました。少しの物音にも怯え、庭で虫を見たら逃げ出してしまうような気弱なお方だったそうです。また、とても泣き虫で、王妃様に少し怒られただけで一日中泣いていたとも聞きました」
過去のソフィアの意外な一面に、私は思わず目を見張った。
「その一方で、今のソフィア様からは全く考えられないのですが、とても優しいお方だったそうです。幼いのに侍女達のことを大切に考えてくれて、なるべく侍女達の手が掛からないように、自分のことを一人でできるように努力されていたそうです。また、専属侍女の誕生日には、庭園で摘んだお花をプレゼントしていたと聞きました」
私がその話に感嘆の声を漏らしていると、アリエッタは私から視線を外して、少し下を向いた。
「でも、六歳の半ばを過ぎたころ、ソフィア様は高熱を出したそうです。何日経っても熱は下がらず、7日目が過ぎたころ、ソフィア様は意識を無くされました。そのため、治療を担当していた王宮聖職者は、両陛下にソフィア様がそのままお亡くなりになる可能性をお伝えしたそうです。それを聞いて、王妃様はとても悲しまれました。専属侍女も号泣してしまい、皆で慰めるのが大変だったそうです……」
「……でも、私がここにいるということは、無事に回復したのですね?」
「そうです。9日目の朝、ソフィア様は目を覚ましました。そして、こうおっしゃったそうです。『え? ここ、どこ?』と」
──それって、私が転生した時と同じセリフかも……。
「私が聞いたところでは、その日を境に、ソフィア様は人が変わったそうです。最初の頃は『私は王女だ! 早く綺麗なドレスを持ってきて!』と叫んでいたそうですが、どんなに生地が丈夫なドレスを準備しても、ソフィア様のお気に召さないようでした」
私は、この世界の「丈夫な生地こそ正義」という話に軽く苦笑する。しかし、アリエッタは、そんな私に気付くことはなく、そのまま話を続けた。
「ソフィア様はドレスの試着に飽きると、しばらくは魔法の勉強を頑張っていたようです。しかし、今のソフィア様と同様に何度練習しても魔法を全く使えないため、こちらもすぐに飽きてしまったそうです。魔法学園初等部のマナーレッスンもサボることが多くなり、結果的に、日々の勉強を何もしなくなったということでした」
アリエッタはそこで一旦溜息を吐く。
「そして、その後はご存じの通り、破天荒で、下品で、礼儀のない、王国史上最低の王女になってしまったということです」
すると、アリエッタは思い出したように、説明を付け加えた。
「あっ、そういえば、話し忘れていたことがありました。ソフィア様は病から回復した後、ちょうど今のソフィア様のように、病になる前のことを全てお忘れだったそうです。陛下と王妃様のことも、専属侍女のことも……。ただ、言葉をはっきりと話せたことから、熱病による幼児期特有の健忘症の可能性もあり、明確に記憶喪失という判断には至りませんでした」
私はその話を聞いて、私が転生する前のソフィアの正体が徐々に分かってきた。
「あと、意味不明な単語を話すことが多かったそうです。具体的にどんな単語だったかは分かりません……」
私は自分の仮説を裏付けるために、アリエッタに問い掛けた。
「すみません。ちょっと聞きたいのですが」
「はい」
「私が先日、記憶喪失になる直前も、私は何か変なことを言っていませんでしたか?」
すると、アリエッタは少し困ったような顔をして苦笑いする。
「……えっと、ソフィア様は常に変なことをおっしゃっていますので……」
「いや、そうではなくて、何か意味不明なことを呟いたり、叫んでいたりしたことはありませんか? できれば、その時に発していた単語を知りたいです。断片的なものでもいいです」
「うーん、そうですね……」
アリエッタはベッドの天蓋に視線を向けながら、右手を顎に当てる。
「……結構前の話ですが、王宮から逃げようとしたソフィア様を皆で取り押さえた時、『こんな世界、私の望んだ世界じゃない!! 元の世界に帰りたい!!』って叫んでたことはありましたね」
私は、アリエッタのその言葉で確信した。
──私が転生する前のソフィアは、私と同じ異世界転生者だったんだ。きっと最初は王女に転生できて喜んでいたんだろうけど、この世界の現実を知って、次第に失望して……。
「……なるほど。私、ソフィアの気持ちが少し分かりました」
「えっ?」
私がそう言うと、アリエッタが目を丸くして驚きながら私を見た。その表情には怯えも見える。きっと、私が以前のソフィアに戻ってしまうことを恐れているのだろう。
「あっ! ソフィアの……いえ、私がした過去の迷惑行為を肯定する気はありませんよ。それは許されないものです。でも、彼女にとって、夢に描いていた王女様の生活は、実際は全然違っていたんだろうなって」
「……ソフィア様は、過去の自分のことを、まるで別人のように話すんですね」
私は驚くアリエッタを見て、少し困ったように微笑んだ。
「アリエッタさんにとっては不思議ですよね。でも、私にとっては、過去の私は完全に別人なんですよ。私には、昨日までのソフィアの気持ちは全く分からないんです。ですから、こう表現するしかないんです……」
私は破天荒なソフィアには全く共感はできないが、彼女はきっと「王女様」に理想と夢を見ていたのだろう。しかし、転生して間もなく、この世界の文化に失望した。しかも、魔法を使えないことで、その失望は決定的なものになった。
自分の気持ちをソフィアに重ね合わせた時、ソフィアが迷惑行為に走るようになった理由を少しだけ理解できた気がした。異世界転生者という孤独の中で、共感してくれる人が誰もいないのはとても辛いものだ。もしかすると、私の心も、これから何年もかけて同じように荒んでいくのかもしれない……。
私は一度目を閉じると、左手を胸に当てる。
──私はそうはなりたくない。……だけど、正直、自信は無い……。
私はしばらくソフィアに思いを馳せた後、再び目を開けると、アリエッタを見た。
「アリエッタさん。お話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。私、納得できました。一週間後に廃嫡になって、辺境に追放されても大丈夫そうです」
私はアリエッタにニコッと笑みを見せる。
「もちろん、あと一週間、魔法の勉強を全力で頑張りますよ。でも、ダメだった時は、辺境の公爵になって、自ら畑を耕して生きようと思ってます。アリエッタさんは次の王族の侍女になってくださいね。私、追放前の王女の威信に懸けて、アリエッタさんを次期王族の専属侍女に推薦します」
私の言葉にアリエッタからの反応は無い。しばらくの間、沈黙が流れた。もともと私の侍女を辞めるつもりだったアリエッタは喜んでくれると思っていたが、なぜかその表情は硬い。
「アリエッタさん? 何か怒ってます?」
「……ソフィア様。ズルいですよ」
「えっ?」
「私が辞めようとするときに、急に優しくなるなんてひどいじゃないですか……。推薦されても嬉しくありません。それに、今は辞めるつもりは……」
アリエッタの寂し気な言い方に、私は言葉に詰まった。私は意識してアリエッタに優しくしているわけではない。どちらかと言えば、前世で生きていた時の性格そのままだ。
しかし、アリエッタの観点では、私は破天荒な王女から、急に性格が優しい王女になったのだろう。たった一日しか経っていないが、私に少しずつ心を許してくれつつあるのかもしれない。
「辺境で、私の後任の侍女に優しくするなんて許しません。……絶対に許したくないです。私は今まで、いっぱい我慢してきたのに……」
「申し訳ありません……。でも、それが私にできる精一杯のことで……。だからと言って、アリエッタさんを辺境に道連れにはできません。アリエッタさんの夢に支障が出てしまいます」
今までのソフィアの所業を考えると、アリエッタを辺境に連れていくわけにはいかない。アリエッタが上級侍女を目指すという夢を壊すことになってしまう。
アリエッタは目を閉じてしばらく考えるようにした後、再び目を開けて私を見た。
「……ソフィア様」
「はい……」
「絶対に魔法を使えるようになってください」
「もちろん、そのつもりですが、頑張ってもダメなことはあります……。一週間では、私は魔法は使えないかもしれません」
「そんなのは許しません」
「そう言われても……」
「もしソフィア様が追放になったら、その日はソフィア様の時間を私にください」
「はい、構いませんけど……」
すると、アリエッタは真顔のまま右手をグーにして、私に見せるようにする。
「魔法を使えないソフィア様を、私は絶対に許しません。ソフィア様によって心を傷付けられた侍女達を代表して、ソフィア様を力の限り、ボコボコにします。私の攻撃魔法の的になってもらいます。場合によっては、本当に腕も折ります」
「えっ!?」
「王女じゃなくなったソフィア様なんて、本当のクズですよ。ゴミクズです! 誰もソフィア様を可哀想だなんて思いませんから!」
「……ちょっとそれは、いくらなんでも言い過ぎでは……」
私が困った顔で苦笑しても、アリエッタは厳しい物言いをやめなかった。
「辺境で畑を耕して暮らすですって? 何を自分だけ幸せになろうとしてるんですか! あなたに辺境で幸せに暮らす資格なんてないんですよ! ここまで必死に耐えてきた私達の恨みを、あなたに思い知らせてやります! 記憶喪失だからって、罪はなくならないんですよ!!」
私がアリエッタの本質を突く言葉にショックを受けて言葉に詰まっていると、アリエッタが急に右手で私を抱き締めてきた。私は驚いて、身体をビクっと動かす。
「……だから、絶対に魔法を使えるようになりましょうよ。ソフィア様は、私にボコボコにされてはいけません。追放なんて、今のソフィア様には似合いません。私も協力しますから……」
──そうか、アリエッタさんは弱気な私を鼓舞するために、わざときつい言い方をしたんだ。私が、自分が追放された後の話ばっかりするから……。アリエッタさんは、私が追放になってもきっとそんなことはしない。不器用だけど優しい人……。
「……アリエッタさん、ありがとうございます。私、すごく嬉しいです。……本当に不甲斐ない王女でごめんなさい」
私が左手で涙を拭いながら涙目でアリエッタを見ると、アリエッタは私の瞳を見て微笑んだ。そして、すぐに、少しニヤッとした笑みを見せる。
「それに、ソフィア様が将来女王になった方が、私は上級侍女になりやすいんですよ。上級侍女になったら、女王ソフィア様を顎でコキ使うっていう夢もあるんです」
アリエッタがそう言って軽くウィンクすると、私は涙を流しながら、吹き出すように笑ってしまった。
「あははっ、確かにそうですね。その夢、絶対に叶えなきゃいけませんね」
私の言葉に、アリエッタは輝くような笑みを私に向けた──。




