エピローグ とある悪魔遣いの決断
はじめまして。岩沼香苗と言います。
泉中央第二小学校の三年生、あと一週間ぐらいで春休みが明けたら四年生になります。
私とお兄さんが出逢ったのは十日前の夕方の事でした。その日も朝から学校の図書室に行き、夜まで時間を潰す予定でした。
お母さんは一月の半ばに玄関先で倒れて入院中だったのでアパートには誰もいませんし、昼間アパートに居ると怖いおじさんがお金を返せって訪ねて来ます。
クラスのみんなは春休みは家族で旅行に行くと言ってましたが、うちはちょっと貧乏なので夏休みも冬休みも旅行には行きませんでした。でもお母さんが居てくれたら寂しくないし、それだけで楽しかったのに…
早く春休みなんて終わってしまえばいいのに、そんな事を思いながら午前中は宿題をして、家から持ってきたおにぎりを食べて、今日は何の本を読もうかな、と書架の間を歩いていた時、その本が目に止まりました。
図書室の一番奥、陽の光の当たらない場所にその本はありました。薄らと紫色に光ったような気がして私はその本を手に取って…
何でお母さんが病気なのか、
何でうちにばかり怖いおじさんが来るのか、
何で私は一人なのか、
マイナスの感情の赴くまま、本に書かれていた通りに名札の安全ピンで指先に傷を付け魔法陣の上に手を置くと本が輝きだし、気が付いたら半裸のお兄さんがテーブルの上に立ってた。
辺りをキョロキョロして何だか喜んでる。
最初は面食らってしまいましたが、お兄さんの喜び方がとっても無邪気で、とても悪魔なんかに見えなかったから、私は…
「お兄さんは悪魔なんですか?」
***
それからの数日は私にとって最高の日々でした。お兄さんは持っていたポーションでお母さんの病気を治してくれて、部屋に押しかけて来た怖い顔のおじさんたちを追い払ってくれました。
どんな追い払い方をしたのかは私は見てないのでわからないのですが、結局その後おじさんたちを見ることはなくなりました。
図書室に良くおいてある児童文学の勇者みたいな、私のヒーロー。頭を少し乱暴に撫でてくれる時の優しい目、ごつごつした大きな手。
魔法の練習で魔力を感知する訓練をしていた時も、最初の数回で魔力の区別は付いたし、魔力の動かし方もすぐに理解できた。でもお兄さんの手をずっと握っていたいから出来ないふりをして三日粘りましたが、流石に余り出来なさすぎると見放されそうだったので三日目にできた事にしましたよ。お兄さんは大袈裟に喜んで、三日で正確に感知できたのが凄いって言ってた。異世界でもこんなに早く感知出来た人はいなかったって。失敗しましたね、あと数日粘っておけば良かったかしら?
でもそんな楽しい日々は突然終わったのです。
私がライト魔法に成功したその日の夜、不覚にも私はテーブルで寝落ちしてしまいました。
起きるとお兄さんは部屋にいませんでした。
慌ててアパートの周りを探してみましたが見当たりません。ちょうどお母さんが退院する日だったので、捜索を諦めて病院へ向かいます。
うん、晩御飯の時間になれば帰って来るでしょう。今日はお母さんの退院する日だから晩御飯はご馳走にするつもりです。
なんて思っていた時期が私にもありました。
結局夜になっても、翌朝になってもお兄さんは帰ってきませんでした。大好きなお母さんが退院してアパートに戻って来てくれたのは嬉しいのに、自然に笑えなくてお母さんも心配顔です。
私はこれまでずっと良い子でいました。
でももう良い子は辞めます。
クラスのお友達の絵梨花ちゃんも言っていました。恋する乙女は最強なのよって。
泣いていてもお兄さんは戻ってきません、ならば行動あるのみです。ふんす。
***
翌朝、着替えとお小遣いをリュックに詰めた私は松島ファイナンスビルのドアの前に立っていました。
私がお兄さんに叶えて貰った願い事は二つ、お母さんの病気を治してくれた事と、魔法を教えてもらう事。大抵のお話の中に出てくる悪魔は三つの願い事を叶えてくれるのが相場ってものです。
だからお兄さん、あと一つの願い事を叶えてくれるまで逃しませんよ?
「ごめんくださーい」
両手で頬をパチンと挟むように叩いて一つ気合いを入れて松島ファイナンスの重厚なドアを開けます。
お兄さん、待ってて下さいね。
こんにちは。シモヘイです。
本日も閲覧ありがとうございました。
これで第一章完結となります。明日から第二章を始めたいと思っております。
一区切りついた所で、感想、レビュー、評価、いいね、ブクマ、何でも良いので反応いただけると大変喜びますので、是非宜しくお願い致します。
それから、いい加減この小説のあらすじが主人公の願望丸出しの嘘あらすじって言うのもどうかと思いまして…
あらすじ、募集してみたいと思います。
もし書いてみてもいいよって方がいらっしゃいましたら、メッセージでよろしくお願い申し上げます。
それでは次回更新でお会いしましょう。
シモヘイでした。