第十七話 とある使い魔と日米合同演習
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M県南部に三つの市町村に渡って広がる皇城寺原演習場、その外れにある実弾演習用の原野に俺たちは立っていた。
目の前には米陸軍特殊部隊怪異物対策班、通称MCTの面々が整然と列を成して並んでいる。凡そ百名からなる筋骨隆々な筋肉マンの群れだ。
それに比べて此方は俺と大河原姉妹、本吉さんの四名のみ。少し離れた位置に陸自S市駐屯地の幹部職員が何人か来ているが我関せずの態度を決め込んでいる。
「ハロー、日本の皆さん。私は米陸軍MCTの隊長、ハワード・マクレガー大尉だ。マックと呼んでくれ」
並んだ筋肉マンの中でも一際ゴツいブロンド三十代が一歩前に出てにこやかに言った。
「特捜局特別訓練担当教官の黒川です。こちらは東北支部に所属する捜査員の大河原美鈴と鈴音、本吉三雲。今日の合同演習は彼女たち三人が参加します」
途端に残念そうに表情を歪めるマクレガー大尉。
「OMG!!!映えあるMCTの私たちと演習するのがこんなに可愛らしいハイスクールガール三人だけだって?とんだジャパニーズジョークもあったものだよ。ミスター蔵王はどうしたんだい?二年前の合同演習で私と互角の実力を見せた彼は参加しないのかい?」
落胆した様子で矢継ぎ早に話すマクレガー大尉に本吉さんがキレた。腰から抜いたククリナイフをマクレガー大尉に突きつけながらウンザリしたように言う。
「あーもう、文句があるならかかって来なさいよ。MCTだか何だか知らないけど、身の程って奴を教えてあげるわ」
「三雲ちゃん、あんまりやり過ぎちゃダメよ〜」
「…私たちの分も残しておいてね…」
数日前に本吉さんの通う青葉第二高に転入した大河原姉妹は今ではすっかり本吉さんと仲良しだ。応援してるんだか煽ってるんだかわからないが、ニヤニヤしながらMCTの連中を睥睨していた。
「はいはいストップストップ。今日は合同演習だからな、人間同士で戦っても仕方ないだろ?」
「はい、マスター。ごめんなさい」
「三雲ちゃんは黒川さんの言う事は素直に聞くよね。愛の成せる技かしら?」
「…素直なのも良いけど可愛い我儘も大事…」
「ちょっと待ってくれミスター黒川、以前も演習は模擬戦形式だったし、協力すると言っても何と戦えば良いんだね?」
不思議そうな面持ちのマクレガー大尉の前に白牢その二から地龍を一匹引っ張り出して解き放つ。
「こいつは昨日俺が捕まえてきたアースドラゴンのあっくんだ。話を聞いてみるとたまたまこっちの世界に迷い込んでしまったみたいだったから、演習が終わったら俺が責任持って向こうの世界に送り届けるって約束で、今日の演習相手になってくれるそうだ」
「グルルゥ♪」
嬉しそうに笑うあっくんと対照的に冷や汗をダラダラ流すMCTの面々。全長二十メートル近い巨大なコモドドラゴンのような見た目のあっくんを前にマクレガー大尉も腰が引けている。
「あっくんはこっちの三人とMCTの皆さんで協力して、やっと良い勝負になるくらいの戦力です。即死さえしなければ治せると思いますので、ブレスにだけは気をつけて下さい。」
そう言ってあっくんに目配せすると、嬉しそうに開幕ブレスを放つあっくん。期待を裏切らない。
「マスター、殺す気ですか!?」
瞬時に魔導障壁を展開させて斜めにブレスを弾く本吉さん。一瞬の判断で直撃を喰らうのはマズイと考えたのだろう、良い判断である。
ブレスを吐いた後の一瞬の硬直を見逃さず、大河原姉妹も其々魔法を放つが、あっくんの魔法障壁に跳ね返されてダメージを与える事ができない。それどころか反射した魔法がMCTの皆さんを襲い、甚大な被害を発生させていた。
「随分硬いトカゲさんね。パパのアレより硬いんじゃないかしら」
「…パパのアレはもっと硬い…はず…たぶん」
美鈴と鈴音はろくでもない事をぶつくさ呟きながらもあっくんの攻撃を躱すが、数分もするとMCTで立っているのはマクレガー大尉だけになった。幸いして死者は出ていないようだが、大半が重症を負っている。今更かも知れないが俺の魔法についてはアメリカさんには見せられない。治療も特捜局が開発した魔道具で行うと言う建前になっていた。
戦線を離脱した米兵たちに回復魔法をかけて回り、戦闘区域から順次運び出す。その間にも特捜局の女子高生三人とマクレガー大尉があっくんとの激闘を繰り広げていた。
「やっぱり勝負はつかないか…」
あっくんは年若いとは言え古龍種に属する。少々俺が手ほどきしたくらいの女子高生が勝てるような存在では無かった。
そろそろかな。
ズボンのポケットから取り出したスマホから当初の打ち合わせ通りに連絡を入れる。一コールもしないで出た相手に出動要請。
「うーん、やっぱりあの三人には荷が重かったみたい。後はよろしく」
通話を切ってあっくんの方に目をやると、マクレガー大尉は既に戦線を離脱し、傷だらけになった女子高生三人にあっくんがブレスを放つ瞬間だった。
あっくんの口から放たれたドラゴンブレスは辺り一面を劫火で包み込み、全ての生命を摘み取ったかに思われた。
「こんなトカゲ相手にピンチになるなんて、日本もアメリカも大した事ないのね」
「絵梨花ちゃん、そんな事言ったら可哀想ですよ?皆さんお仕事だから真面目に頑張ってるんですから…」
「今日が私のデビュー戦なんですね、有希頑張ります!」
濛々と立ち上る煙が晴れると、そこには二匹の獅子と白蛇を従えた三人の魔法少女の姿があった。辺り一面を薙ぎ払ったかに見えたあっくんの渾身のドラゴンブレスは香苗ちゃんの放った魔力によって相殺されたようだ。
ニコニコ笑いながらあっくんの前へ歩み出る三匹の従魔と三人の魔法少女、その背中を眺めながら俺は「あっくん死なないで」と祈るしかなかった。
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