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第四話 とある使い魔の反省


「お客人が何に怒っておるのかは知らんが、何もここまでする事はなかったんじゃないかね?」


穏やかな口調で松島兵衛が言った。

その言葉を聞いて我に返って辺りを見渡せば、重症者が四名、無傷のその他大勢は殺気に当てられてか一様に蹲って身体を震わせていた。


またやり過ぎちゃったか…

昔からそうだ。頭に血が昇ると後先考えないで突っ走る癖があった。刑法の緩い異世界ならまだしも、ここは現代の法治国家日本、悪党は殴って解決とはいかない。


張り詰めていた殺気を散らし、俺に向き合うように立っている松島兵衛に頭を下げる。


「正直すまんかった」


***


松島ファイナンスビルの会長室のソファに座る俺の向かい側には会長である松島会長と、傷の癒えた白石くんが座っている。


重症を負っていた白石くん、小男、ゴリラ、ジャージの四人を回復魔法で治療した後、会長室に通された。


「話はわかった。ウチの馬鹿共が迷惑をかけたね。ウチはヤクザかも知れないが、本業である貸金業は法律に則って真面目にやっておるんだが、目先の儲けに囚われたこの馬鹿が突っ走ってしまったようだ。」


松島会長が横目でひと睨みすると、白石くんは小さくなって頭を下げた。


「いや、こっちこそ下調べもせずに乗り込んだ挙句にこのザマだ。違法な取立てと金利だけ見直してくれたら此方としても言う事は無いよ」


香苗ちゃんが怯えなくて済むようになれば、俺としては目的は達したと思っていいだろう。というかそれだけなら最初から金融庁なり所轄の警察署なり裁判所なりに話を通せば済む事だった訳で。白石くんその他三名は完全に殴られ損だな。南無。


「いや、それじゃ申し訳が立たねえ。違法貸金に返済義務は無いんだ。コイツが違法な取立てして、法外な金利を設定した段階で借金なんて無くなったも同然、今回は岩沼家の借金棒引きって事で収めちゃくれねえかい?」


金融業だけは真面目にやってるって松島会長の言葉に嘘は無かったようだな。とは言え借金は借金、棒引きにしたんじゃ白石くんは債権を買い取った金額さえ回収出来ずに丸損だ。しかも俺に半殺しにされてる訳で…


何だか白石くんが憐れに思えてきた。


「なあ白石くん、岩沼さん家の借金っていくらだったんだ?」

「四千万です、はい」


あー、俺の教育的指導のせいで語尾にはいって付けるのが癖になってるよ。


「その債権いくらで買い取った?」

「一千万です…はい」


一千万円か、問答無用で半殺しにした分も考慮したらこんなもんかな…


アイテムボックスから親指の爪より一回り大きいくらいのピンクダイヤモンドを取り出して白石くんに放った。宙空から突然現れたダイヤモンドに慌てたようで、何度かお手玉しつつも白石くんの手の中に収まった。


「迷惑料込みだ。俺には換金出来ないけど、あんたらヤクザなら金に替える方法くらいあるだろ」


幾らになるかわからんが、足りないって事もないだろ。このくらいのサイズならダンジョンの宝箱から出た奴が数えきれないくらいある。まあ、ダイヤもその他宝石類も各カルテルがしっかり流通監視と価格統制してるだろうし、金貨を鋳潰して金塊にしたところで出所不確かな刻印無しのインゴットなんざ即通報されかねない。いくらあっても宝の持ち腐れって奴だ。


「え、嘘…これ、ピンクダイヤ…」


白石くん、そんなに嬉しかったか。

それは良かった。もっと欲しけりゃまだあるよ?


なんて呑気に構えていたら松島会長がとんでもない事を言い出した。


「兄さん、こりゃ有り得ねえよ。何年か前にオークションにかかったピンクダイヤモンドが十五カラットで二十八億円で落札されてた筈だ。今兄さんが白石にやったダイヤは小さく見積もって二十カラットはあるだろ、それも見た事無い程にピンク色が濃い…」


はあ、そんなするもんかね。

まあ高価だって言うならそれでいいじゃないの。他の怪我させた三人にも分け前渡せるだろうし。


「ふーん。高く売れそうなら良かったよ。俺が怪我させた他の三人にも分けてやったらいいんじゃない?足りないならもう三つ四つ出そうか?」

「いやいやいや、こんなもん市場に流したら南アフリカのダイヤカルテルから狙われかねねえよ。ある程度のサイズ以上のダイヤは掘り出されてすぐに厳重に管理されるんだ。ヤクザだろうと簡単に換金できねえよ」

「そっかー、そりゃ残念だなあ」


松島会長と白石くんが俺の事を言葉の通じない化け物でも見るような目で見てる。


「兄さんは引っ込める気は…無さそうだな。仕方ねえ、白石、そのダイヤは儂が二億で買い取る。少なく感じるかも知れねえが表に出せない宝石だ。勘弁してくれ」


お、会長が買い取ってくれるってさ、良かったじゃん、白石くん。


「松島会長、それ金に替えれないのに買い取ってどうすんの?」


素朴な疑問だよ。

六十のお爺ちゃんが換金できない宝石持ってても仕方ないじゃない。


「ウチのコレにプレゼントしようかと思ってな。知り合いの職人に指輪にでも加工してもらうさ」


小指を立てて松島会長が笑う。

なるほどね。


「それじゃコレは他の二人にあげてくれ。」


そう言ってあと二つ、青と赤のダイヤをテーブルの上に乗せる。おっと、松島会長と白石くんの顎が外れそうだ。


「年甲斐も無く愛人三人抱えてんだろ、一人だけにプレゼントじゃ不公平だ」


ネタ元は白石くん。

会長が若い愛人三人囲って、しょっちゅう四人でいいことしてるんだってさ。羨ましくなんかないんだからね!


「その代わりって言ったら何だけど…着る物貸してくれない?パンツ一枚でここから泉区まで帰る訳にもいかないし…」


俺の言葉に今度こそ二人の顎が、外れた。


***


組員全員から丁重に見送られて松島ファイナンスビルを出た俺はタクシーで泉区にある香苗ちゃんのアパートまで戻った。


タクシー代?もちろん松島ファイナンスで借りたよ?だって貸金業なんだもん、そりゃ喜んで貸してくれるよね。


それから何だかよくわからない犬がプリントされたブカブカのジャージも借りた。何でヤクザって可愛いプリントのジャージとかスエットとか着るんだろ、白石くんが「黒川さん似合ってますね」って言いやがったから後頭部を張ってやったらまた気絶してた。


部屋に入ったら香苗ちゃんはダイニングのテーブルで寝てた。テーブルにはラップをかけたおにぎりが三つ置いてあったよ。お腹空いてたからありがたくいただいた。幼女の手作りおにぎり。プライスレスだね。


「香苗ちゃん、ヤクザ共とは話を付けてきた。もう香苗ちゃんが怯える事なんてないんだよ」


おにぎりを食べ終えて、香苗ちゃんを起こさないようにそっと頭を撫でると、香苗ちゃんの肩にジャージの上着を被せてから俺もソファに横になった。


「帰ってきて早々、激動の一日だったよ」


ふぅと一息吐いて目を閉じた。

ダイニングから断続的に聞こえて来る香苗ちゃんの寝息を聞きながら、俺は意識を手放した。


こんばんは、シモヘイです。

今日もブクマありがとうございました。

何でもいいので反応あると、見てもらえているんだなと実感できてやる気が漲ります。


引き続きご愛顧のほど宜しくお願いします。

それではまた明日の更新でお会いしましょう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  この世界は超能力とかが当たり前の世界観なのかな?主人公が能力を使いまくってるし、ヤクザの人達もそれを見て疑問に思わなすぎてるし。
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