第十五話 とある使い魔と三人目の魔法少女
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作者の別作品、マッチングアプリで出会ったパパ活JK拾ったら懐かれて俺の人生がヤバい。もよろしくお願いします。
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突然店に訪ねて来た有希ちゃんと蛟は出されたケーキを食べ終えると、ぺこりと頭を下げた。
「急にすまんの」
有希ちゃんと蛟とはこの春にマーダーグリズリーの討伐で向かった鬼瘤温泉郷の旅館で出会った。有希ちゃんが旅館和久谷亭の一人娘で、蛟は温泉郷一帯の土地神をしている歳経た白蛇の変化だ。双子と見紛う程に良く似た容姿をしている。
「いや、構わないよ。有希ちゃんはともかく土地神の蛟があの地を離れるなんて余程の事があったんだろう?」
「そうじゃな、ちと困った事になっておっての、お主の力を借りたいんじゃよ?」
難しい顔をしてクリームソーダをストローで飲む蛟は暫し黙り込む。
と、三人の会話に聞き耳を立てていたよし江がやって来て俺にだけ聞こえる様に小声で言った。
「店長、この子って鬼瘤温泉の土地神ですよね?のじゃロリって言うか、これファーザー様ですよね?」
「オンナスキー、このナオンはなんじゃ?」
「ほら、店長の事オンナスキーって」
よし江は黙ってろ。
ホントお前のネタはギリギリなんだよ。昔の少年サ○デー好きすぎか。そのうちマジで訴えられるぞ。
「コイツの事はほっといて構わない。それより話の続きを聞かせてくれないか?」
「うむ、最近有希の魔力がどんどん増えておっての、最初は成長期と思って気にもせなんだが、お山の周辺に良くないモノまで溜まるようになってのう、今の妾の力では全て祓う事もままならんのじゃよ?」
「最近、県北西部に魔獣が良く出るのはそう言う理由か。とりあえず出現した分は香苗ちゃんと絵梨花ちゃんが狩ってるはずだけど」
魔力の多い人間を怪異が狙うのは良くある事で、土地の昔話や怪異譚でも数多く語られている。
「怪異に勘付かれるって事は魔力がダダ漏れになってるって事だよな、蛟が制御する方法を教えてやれば済む話じゃねえのか?」
「妾は土地神じゃぞ?魔力については専門外なんじゃよ?」
「まあ、俺が有希ちゃんに魔力の制御方法を教えるのは構わないけど、鬼瘤村から通うのも結構しんどい距離だろ。俺も店があるからちょくちょくそっちに行ける訳でもないし…」
俺と蛟が困った顔を見合わせていると、それまで黙っていた有希ちゃんがおずおずと口を開いた。
「あの…私この街に引っ越します。このままだとお友達にも迷惑かけちゃいますし、みっちゃんが一緒ならいいってお父さんお母さんも言ってたから…」
「いつの間にそんな話をしておったのかの、それにしてもあの両親が有希を手元から離すとは、思い切ったものじゃ」
「みっちゃんには言って無かったけど、旅館のお客様が襲われて怪我したって…私のせいで…だからお父さんとお母さんには私から無理言って引っ越しを認めて貰ったの…」
責任を感じているのか、そう言って俯いた有希ちゃんの頭を軽く撫でてやる。
「有希ちゃんは何も悪くないよ。引っ越しするなら住む場所は何とかなるし、魔力の制御は俺だけじゃなくて香苗ちゃんと絵梨花ちゃんからも習えばいいさ」
「…ありがとうございます、真一さん…」
「妾には撫で撫ではないのかの?」
「お兄さん、私にも撫で撫で…」
「わふん」
左右から蛟と香苗ちゃんの頭が突き出された。
いつの間にか犬モードのよし江までテーブルに頭を乗せて待機している。
「仕方ねえな」
それぞれの頭を撫でて席を立つ。
「飲み物おかわり要るだろ?ちょっと待ってろよ」
こうして俺の買ったマンションに岩沼母娘に次ぐ入居者が決まった。住む場所は良いとして、次は特捜局に話通しに行かなきゃな。
***
「で、魔法少女が増えそうなんだけど、香苗ちゃんと絵梨花ちゃんみたいに特捜局で雇う?」
「で、じゃねーよ!どう言う訳だよ?ホント勘弁してくれないかなあ、タダでさえ東北支部に戦力集中し過ぎて他の支部から突き上げ食らってるってのに」
「そこは諦めてくれよ。来週からの訓練で大河原姉妹と柴田さんはしっかり強化するから、特捜局と魔法少女の戦力差はそこまで広がらないとは思うし、何より表向きはどうあれ、魔法少女はみんな特捜局の管理下だろ?不安がる事は無いさ」
「確かにそうだが、表向きの見え方ってのが一番重要でなあ」
現状、魔法少女である香苗ちゃんと絵梨花ちゃんは特捜局に捜査員として所属し、東北六県の怪異討伐に勤しんでいるが、表向きは特捜局とは無関係の善意の協力者としてメディア向けに発表されていた。これは俺が大郷総理と交わした約定、俺たちの素性は一切外部に漏らさないってのが理由になっている。
だが、国家戦力を超える民間人の素性が不明というのに不安を覚える識者も大多数存在する為、今首相官邸及び特捜局には関係する各省庁や各種メディアから魔法少女の正体を明かすよう矢のような督促が相次いでいるらしい。
また、魔法少女の正体を秘匿する代わりに、特捜局所属の捜査員を魔法少女と対峙出来るまでに強化すると言う交換条件を付き付けられていた。まさか身の回りの平穏を願って出した条件が特別訓練教官としての自分の首を絞める結果になるとは思いもしなかったよ。
「とりあえず和久谷有希ちゃんだっけ?確か鬼瘤温泉行った時に会った旅館の子だよな?黒川君の力を見破ったとか聞いたが」
「そうだな、精神感応力が高いって言うか、特に訓練もしてないのに色々と『視え』てしまうらしいよ。あの時だってよし江とワイルドブラッド三兄妹の正体をチラ見しただけで見破ってたからな」
感知系特化の魔法使いは珍しい。
情報分析官の米山さんもだが、感知系に極振りされてる魔法使いは俺の感知魔法以上の精度や感知範囲を誇る場合が多い。また香苗ちゃんが言うには有希ちゃんには治癒・支援系の魔法の素養もあるようだ。上手く育てれば魔法少女の司令塔兼最強のアンデッドキラーとして活躍する事だろう。
何よりすでに蛟とペアになっている為、新しい使い魔を用意する必要が無いのも最高だ。
「まあ、状況が状況だし、戦力が増えるのはありがたい事ではある。喜んで迎え入れさせてもらうよ」
「ありがてえ。あ、そう言えばマンション一棟買ったんだけどさ、蔵王のおっさんも入居する?どうせ大河原姉妹がS市に来たら同棲するんだろ?」
「俺はまだ諦めてないぞ。最後まで抵抗するつもりだ。今の家にも愛着はあるし暫く考えさせてくれ」
「わかった。無駄な抵抗だと思うけど頑張れや」
渋い顔をした蔵王のおっさんに向けて、ひらひらと手を振ってから特捜局の局長執務室を出た。
「明日から有希ちゃんの訓練、週明けには大河原姉妹と柴田さんもS市に来るし、忙しくなりそうだな」
本日も閲覧ありがとうございました。




