第十話 とある使い魔のお買い物日和
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「お兄さん…また新しい女ですか…」
S駅前のペデストリアンデッキの上で、瞳のハイライトを無くした香苗ちゃんに声をかけられた。もうヤダこの展開。俺がモテてモテて仕方がなくて、しっかり言い寄ってくる女の子全員に手出して、それでも尚周りに女の子が増えていくようななろうテンプレみたいな世界線ならまだいいよ。俺の周りってどう見ても幼女ばっかりですよ?大人の女性ってよし江と香澄ママと柴田さんくらいしかいないし。クーだって実年齢は別にしてもいいとこ中学生にしか見えないし、なんなんだよもう。俺は普通に恋愛して結婚して夫婦二人で喫茶店やっていきたいの!何で俺にはそんなチャンスが回ってこないの?!
「クーはシンイチお兄ちゃんの妹だよ」
「お兄さんの妹ですか…」
「真一に中学生くらいの妹がいたなんて知らなかったわ」
そりゃそうだよ、俺だって今知ったんだから。
でも、クー、ナイスアシストだぞ。
「私は黒川久美、シンイチお兄ちゃんの妹で恋人で良いように弄ばれるお兄ちゃん専用人形なの。クーちゃんって呼んでね」
全然ナイスじゃないしアシストもしてなかった。むしろ状況はより悪化していると言っていいだろう。
「すまんな二人とも、こう言うタチの悪いジョークを言う奴なんだ」
「ジョーク、ですか。まあお兄さんは歳上好きみたいですから…」
「ジョークで良かったわ。事実なら真一を社会的に抹殺しなきゃいけないところよ」
ギリギリセーフか?
とりあえずもう余計な事を言うんじゃないぞ、と意思を込めてクーに目配せする。と、すぐに心話が飛んできた。
(牛めし特盛汁だくテイクアウト三つと、から○りサーカスの十四巻から最終巻までのセットで手を打つね★)
(ふざけんな、お前帰ったら速攻で再封印してやるからな覚えとけ)
(交渉決裂だねっ)
にこやかな笑みを浮かべたクーがS駅構内にある交番へ向かって駆け出す。あ、ヤバい。
「おまわりさーん、私お兄ちゃんに監禁されてます!助けてくださーい!!!」
「わかった、特盛三つとから○りサーカス買うから!」
俺の譲歩を引き出すと、ぴたりと止まって満面の笑みで振り返るクー。
「牛めし特盛三つに豚汁もつけて欲しいな」
「わかったよ…」
スキップするクーを先頭に俺と香苗ちゃん絵梨花ちゃん、よし江がぞろぞろと駅ビルのデパートに入って行く。まずはクーの洋服と下着類だ。今は最初から着ていた白いワンピースとミァから借りたサンダルを履いていたが、今後こちらで生活するならそれ相応の数は必要になるだろう。
「よし江、これでクーの服とか下着、あと靴も買ってやってくれ。」
「店長、私の分は無いんですか?」
仕方ねえな。
俺はよし江の手に諭吉さんを追加で五枚のせた。
「店長あざーす。さっ、クーちゃん行くわよ」
「俺は駅構内の本屋行ってくるから、ちゃんとよし江の言う事聞くんだぞ?香苗ちゃんと絵梨花ちゃんも、妹の事よろしくな」
俺はそれだけ告げて、駅の一階にある本屋に向かった。俺が高校生の頃からあるこの本屋はこじんまりしている割に品揃えが良くて重宝していた。今は先の震災で路線が無くなったが、以前は県北にある俺の実家からS市までは電車一本で来る事が出来たが、二時間以上かかった。帰りの電車で暇つぶしに読む本をここで買うのがS市に遊びに来た時の習慣だったっけな。
店内に入ってすぐの独立した棚で新刊チェック、俺は漫画も小説もエッセイから随筆まで本と名のつく物は大抵読む。目ぼしい新刊を何冊かカゴに入れてから、クーのリクエストの長編漫画を探す。
やっぱり無いか。
そりゃ、十五年近く前の漫画を全巻在庫している一般書店も中々無いだろう。
仕方なく俺は、駅を離れてアーケード街の古本屋に向かうとよし江の携帯にメッセージを残して書店を出た。
多少古くても人気作品だけあって、古本屋なら在庫は豊富にあった。とりあえず十四巻から最終巻までまとめ買いする。
最初の店で上手く見つけられ、時間も余った事だし、野暮用を片付ける為にM県警の本庁舎に向かう事にする。事前にアポを取ると蔵王のおっさんは暇そうにお茶を飲んでいた。
「おっす、珍しく暇そうだな」
「おう、最近怪異騒ぎも少ないし、本吉や栗原さんも強くなって俺が出張るような案件も減ってきたもんでな」
「そりゃ良かった。来週から例の双子もこっちに越してくるし、忙しくなりそうだな。最後のバカンスだと思って楽しむといい」
俺の言葉に苦笑いする蔵王のおっさん。
「そうだな。それより今日はどうしたんだ?」
「ちょっと一人分の戸籍を頼みたい。俺の妹って事にしといてくれないか?親父とお袋には俺から説明しとくから」
「ワイルドブラッド三兄妹みたいに新規での戸籍発行ならまだしも、既存の戸籍を弄るのは面倒なんだぞ。とりあえず事情は聞いてやるから言ってみろ」
「封印してた邪神を解放した。以上です」
「簡潔すぎるわ!」
それ以外どう言えってんだよ。
「とりあえず最初から話してみろ、端折るなよ」
面倒くせーなー。
仕方なくクーを封印した経緯から話してやったら二時間もかかったわ。
「おいおい、本当に神様なのか?比喩とかじゃなくて?」
「ああ、管理神って言ってな、自然発生した神と違って信仰心を集めなくても神力を持ってる。本来向こうの世界の神様なんて奴は人間のいる物質世界には一切影響を及ぼせないもんでな、基本的に自分達しか入れない神域って空間に引きこもってる。それだと信仰なんて集められないだろ?そこで、たまたま神力を持ってしまった人間をスカウトして使徒や管理神に任命するんだ。使徒は神の奇跡を代行するし、管理神は物質世界に存在できる神として大規模な災害の阻止や、異世界からの干渉を防止する役目を負っている。」
「はー、こっちの神様とはだいぶ違うんだな」
「そうだな、一応俺も別の管理神から任命された使徒って扱いになるのかな、大した力はもらえなかったけど。クソ、あのゴミ女神の野郎、いつかぶっ殺してやる」
思い出すだけでイライラしてきたぜ。
喚ぶだけ喚んでおいて、アイテムボックスだけ使えるようにしてポイだったからな。せめて他のなろう系主人公みたいに言語理解くらいよこせや。
「って訳で、クーは単体での戦闘能力自体は俺や魔法少女の二人より低いけど、干ばつ起こしたり火山噴火させたり土地の栄養根こそぎ奪って飢饉起こしたりできるから、国として敵に回したら俺より厄介だと思うぞ」
「次から次に厄介事ばっかり持って来やがって、これ以上禿げたらどうしてくれるんだ…」
蔵王のおっさんがボヤくが、禿げるのは別に俺のせいじゃないよ?
「まああの見た目だからなあ、夏休み明けたらミァと二人まとめて泉区の中学校に通わせるつもりなんだ。その辺の手続きも頼めたら助かるわ」
「仕方ない、総理には話通しとくよ」
「すまんな、おっさん。これはお礼だと思って受け取ってくれ」
アイテムボックスから取り出した装飾の無いプレーンな腕輪を二つ、蔵王のおっさんの前に置く。
「コイツは俺が術式を刻み込んだ魔導具で、それぞれアイテムボックスと自動発動型の魔法障壁の効果が付与してある。アイテムボックスは俺以外の人間が使えるようにする為にかなり容量を絞ってあるから、普通の仕事用の鞄程度しか入らない。魔法障壁は古龍種のブレスくらいなら弾き返せるくらいの性能かな」
俺から受け取った腕輪を嵌めて、蔵王のおっさんがアイテムボックスの魔法を試すように椅子を出したり入れたりしている。はたから見ると椅子が急に消えたり現れたりしている。これは俺も今後アイテムボックス使う時は気をつけないとな。
何度か効果を試した蔵王のおっさんはやたら深刻そうな表情で口を開いた。
「黒川君、すまないがこのアイテムボックスの魔法が使えるようになる腕輪はもう作らないでくれるか?これも俺が厳重に管理して墓場まで持って行く事にする。」
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