第九話 とある使い魔と邪神クーちゃん
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(シンイチ、シンイチ、そろそろ封印といてもらえないかな〜)
魔法少女の襲撃によって捜査員の訓練計画が変更になり、早々にS市に戻って来た翌日の事、頭の中にクーの声が鳴り響いた。うるせえ。
「そろそろってお前、まだ三ヶ月しか経ってねーよ。封印された邪神って自覚あんのか!」
(牛野屋の牛めし食べたい!)
コイツはクー、正確にはクピディなんとかって名前のクソ女神だ。俺が喚び出された異世界の北部地域管理神で、魔族の王を操って人魔大戦を起こそうとした張本人。
…世間的にはそう言う事になっている。
実際のところ詳しくはわからないが、クーにはクーの考えがあったらしい。当時既に管理神クラスなら消滅させられるだけの力を持っていた俺だが、クーを倒す事はせず、自身の精神世界に作り出した亜空間『白牢』に封印するだけに留めた。
まあ、見た目が女子中学生にしか見えないクーに刃を向けるのが嫌だったってだけだ。結局クーは魔族の王を操っていたけど、直接的な被害は出していないし、心底悪人って訳じゃなかったからな。甘いって?そうだな、大甘だ。
「んで、お前を解放したらどうなるんだ?」
(ふふん、知れたことよ。まずおのれを食らって、昔のようにこの辺の人間どもを地獄に引き摺り込んでくれるわ)
蔵の地下に槍で縫い止められた黄色い妖怪かよ。
「また俺のアイテムボックスから勝手に漫画抜いて読んでただろ。すぐに漫画に影響されやがって」
(えへへ〜、シンイチの世界は娯楽がいっぱいでいいね〜。から○りサーカスの続きも読みたいから買っといてね)
「あーすまん、から○りサーカスは途中から電子書籍で買ったから本は買う予定無いんだわ」
五年間異世界に行っていた間に俺が借りていたマンションは解約され、その当時使っていた家具や家電製品、漫画や小説、その他生活雑貨に至るまでが本籍地である実家に送り返され、倉庫の中に手付かずで眠っていた。こちらの世界に戻ったばかりの頃実家に行った際に纏めて回収してアイテムボックスにぶち込んでおいたのだ。どうやらクーは白牢とアイテムボックスを無理矢理繋げて、俺の漫画を読んで暇つぶししているらしい。まあ白牢の中は何もない真っ白な空間だからな、娯楽なんてものは無い。
(そんな事言うと、シンイチの本棚の英語辞典のカバーの中に隠してあったロリ系のエッチな本の内容を心話で四六時中朗読してやるわよ。普段人には自分はお姉さん好きなんだって言ってる癖に、なに妹特集とか手出してんのよ。もしかして私の事もそう言う目で見てたり?だから私を討伐しないでこうして拉致監禁してるとか?うわー、ないわー)
「ちょ、お前俺のアイテムボックスからどんだけ物パクってんの?!ホント辞めてね?やったらマジで討伐するからね?」
仕方ねえな、一辺出してやるか…
「あー、わかったわかった。んじゃ一回封印解くけど、こっちの世界はお前が管理してた世界と違うんだから、あんまり勝手な事すんなよ。」
(えっ、ホント?シンイチ大好き)
多分クーの奴は白牢の中に色々持ち込んでるだろうし、普通に解除するとこの部屋に持ち込んでた漫画とか食い物が散乱するな。それなら白牢は維持したまま、入り口作ってやればいいか。
「んじゃ開けるぞー」
アイテムボックスを開ける要領で、白牢とのパスを繋いで空間にゲートを精製する。いちいち俺がゲート開くのも面倒だし、押入れの引戸とゲートを繋げちまうか。
カフェリトルウィッチ二階の居住スペースの俺の部屋、その押入れの引戸を開くと…
「クー、お前…」
だだっ広い真っ白な空間の中に、昔俺が使っていた家具が並べられていた。こたつを中心に、食器棚、本棚、洋服箪笥が並び、デスクにはPCまで置いてあった。
「ちょっとー、乙女の部屋を勝手に覗かないでくれる?」
同じく俺が昔使っていた布団にゴロゴロ転がりながらポテトチップスを齧るクーが不満そうに頬を膨らませて言う。
「布団の上でポテチ食ってんじゃねーよ、ボロボロ食べかすこぼしやがって。つーかこの空間にある物、全部俺の前の部屋のやつじゃねえか」
どうやって引き込んでいるのかは知らないが、電気や水道も使えるようだ。マジかよ、ネットまで繋がってやがる。
「電気も水道もネットも空間歪めてシンイチの部屋から引いてるから、ちゃんと料金かかってるよ。タダで使うのはやっぱりダメだと思うんだー、神様的に」
「黙ってろ疫病神、ほれ、ゲート繋いだから出てこい」
「ひゃっほー、三ヶ月ぶりの現実世界よ!こんな幼気な美少女を拉致監禁していたシンイチは青少年保護育成条例違反で捕まっちゃえ」
「封印じゃなくてきっちり消滅させてやろうか?」
「もー、シンイチは冗談通じないなあ、だからモテないんだよ?」
べー、と舌を出してからクーが白牢から俺の部屋に降り立つ。白牢とのゲートは押入れの上段部分と繋がっているから、女子中学生が押入れから出てきたようにしか見えない。
「へー、これがシンイチの部屋ね。あんまり物が無いのね、つまんない」
「引っ越してきてそんなに経ってないからな。んじゃ出かけるぞ。」
水色の髪はちょっと人目を引くかもしれないが、パッと見は小柄な女子中学生。まあ外に連れ出しても問題は無いだろう。
俺はクーを連れて階下のカフェに向かう。
現在時刻は午後二時、まだカフェはそこまで混んでいない。
「ミァ、店があまり忙しく無いようならよし江借りていいか?ちょっと買い物に行きたくてな」
「大丈夫ニャ、あれ、シン兄ちゃんその子は誰ニャ?」
「私はクーちゃんだよ!」
「まあ後で説明するよ。とりあえずコイツの服とか色々買いに行ってくるわ。」
人間の姿に戻ったよし江とクーを連れて、S駅前のデパートに向かった。
途中、よし江が「私は店長の奥さんです。貴方は店長の何ですか?」とか謎の嫁ムーブを見せたが無視しておいた。クーも張り合って「私はシンイチの妹だよ?」とか言い出したから同じく無視しておく。
あー、嫌な予感しかしないなあ。
こんな時ってだいたいトラブルに巻き込まれるんだよなあ。
そんな俺の予感は見事に的中する事になる。
S駅前のペデストリアンデッキで、同じく買い物に来ていた香苗ちゃんと絵梨花ちゃんに捕まってしまったからだ。
「お兄さん…また新しい女ですか…」
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