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第四話 とある使い魔と残念な女上司

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蔵王のおっさんと大河原姉妹との訓練を終え、本庁舎を出ると受付前のロビーで柴田さんが待っていてくれた。


「待たせちゃいましたか、すみません」

「いいのよ、それじゃ行きましょうか。近くにいつも行く店があるの」


俺を追い抜き、先に立って歩き出す柴田さん。フワッと一瞬だけ香る香水の匂いに頭の奥がツンと痺れる感じがする。大人って感じするよな、行きつけの店もお洒落なバーとかなんだろうか。それに比べて俺の格好と来たらTシャツにジーパンである。若作りしてカジュアル路線で攻めるおじさんもいるけど、俺の場合、単に楽だからTシャツにジーパン。


ヤバい、こんな美人のお姉さんとサシで飲むとか初めてだから緊張してきたぞ。手汗凄い出てる。


他愛も無い話をしながら十分ほど歩いて、一本路地裏に入ったところが目的地だったようだ。真っ赤な暖簾には『中華・眠々軒』と書かれていた。町中華…?


「大将、とりあえず瓶ビールと餃子二つずつね、ラーメンは後で頼むからスープ使い切らないでね」

「あいよっ!なんだい真奈美ちゃん彼氏かい?」

「そう見える?うふふ」


テーブルに着くとすぐに出てきた瓶ビールを手酌で注いで飲み干す柴田さん。


「ほら、黒川君も座って座って。もうすぐ餃子来るからね、ここの餃子美味しいのよね」

「は、はあ…」


ちょっと柴田さんのイメージと違って面食らったけど、餃子は美味いしおすすめされるだけはある。職場にいる時より自然体な柴田さんと飲む瓶ビールは美味かった。


だけど飲み始めて三十分が経つ頃には、俺はこの店に来た事を後悔し始めていた。


「ねぇ真一君、聞いてる?」

「は、はい…」

「何で私には彼氏の一人も出来ないのかしら?貴方ならわかるんじゃないの?お姉さん教えて欲しいわ。だって真一君モテるでしょう?」


飲み始めて三十分で同じ質問が六回目です。死ぬほど面倒臭いです。助けて下さい。


「そんな事ないですよ…ははは」

「何謙遜してんのよ、今年幾つだっけ?三十?まだまだじゃない。目付きは悪いけどそれなりにシュッとしてるし、異性の友達の一人二人いるんでしょ?私?私はいないわよ。私の学生時代の渾名知ってる?よしりんよ?政治系の漫画描いてる眼鏡の漫画家さんに似てるって理由で」

「ぶふっ!」

「笑ったわね?罰よもう一杯飲みなさい」


よしりんはズルいわ、そんなん笑ってしまうわ。


「そりゃ私だって三十過ぎたら焦るわよ。学生時代はガリ勉で、就職してからは仕事仕事の毎日だもの。実家からは早く結婚しろとか孫の顔見せろとかプレッシャーかけられるし、毎月毎月大して親しくも無い友達の結婚式の招待状が来て幸せ一杯のところを見せつけられるし。で、三十路デビューでエステ行って本気でダイエットしてメイクの勉強もして、今の自分を作り上げたの。同僚連中は変わった私を見て手の平くるっくる返したけど、アイツら前まで私の事デブ眼鏡とかよしりんって呼んで馬鹿にしてたのよ?そんな奴らになびく訳ないじゃないの」

「大変だったんですね…」

「はい、心が篭ってない!やりなおし!」


そう言って俺のグラスにビールを注ぐ柴田さん。もう瓶が十本以上空いている。良くある創作だと高レベルの冒険者や勇者は毒物に耐性があるから酔わないって設定を見るけど、ありゃ嘘だ。接種したアルコールが脳に作用して酩酊状態を引き起こすのは自然の摂理であって毒物とは違うし、酔っ払うのは腎臓と肝臓のアルコール分解量が限界を越えて血中アルコール濃度が上がるからであって、どんなにレベルあげても酔う時は酔うんだよ。


はい、酔っ払ってます。

そろそろヤバいです。


「何で私には出会いが無いのよ。出会いさえあれば私だって…」

「そうですね………うぷっ」

「そう思うわよね?でも私男の人と付き合った事も無いし、男友達もオンラインゲームの画面の向こう側にしかいないし、多分私の事も男だって思ってるだろうし、付き合っても何したら良いかわからないのよね。そもそも付き合うって何かしら?」


ここで、知らねーよボケ!って言えたらどんなに楽だろう。ばかばかばか、意気地なしの俺のバカ!そうこうしてる間にもビールが俺のグラスに注がれていく。


「もうこの歳になると、徐々に距離感詰めていってお互い仲良くなってお互いを意識して付き合って同棲して結婚みたいな流れが正直面倒臭いのよね。どこかに私より強くて頼り甲斐があって私より年収多くて優しくてすぐに結婚してくれる男とかいないかしら?」

「無茶苦茶……言っ……てんじゃ…ねーよ…」


ばたり


柴田さんの余りの言種(いいぐさ)に苦言を呈してやろうと気持ちを奮い立たせてはみたが、残念ながら俺の肝臓はアルコール分解の限界値を迎えていた。急速に薄れ行く意識の中で俺が見たのは、無垢な少女を前にしたオークのような満面の笑みを浮かべた柴田さんの顔だった。


***


おはようございます。

現在朝の五時、今いる場所はわかりません。

使い古された台詞で言えば、知らない天井だ、って奴です。気付いたらセミダブルサイズのベッドの上にパンツ一枚で寝かされていました。隣には下着姿の柴田さんが大きなイビキをかいて寝ています。レオとライアンのイビキより大きいです。昨夜の記憶は中華料理屋で柴田さんの愚痴を聞きながら意識を失った所までで、その後は一切覚えておりません。


あれ、もしかして俺やらかしたか?

焦って腕や肩の匂いを嗅いでみる。

うん、風呂に入った形跡は無い。


これまでの人生で一度も活躍の機会を与えられなかったオールドルーキーも確認してみる。

うん、使われた形跡は無い、いや知らんけど。

少なくとも違和感は無い。相変わらず朝から元気一杯です。


「あら、おはよう真一君」

「お、おはようございます柴田さん…」


目を覚ました柴田さんが上半身だけベッドから起こして微笑んでいた。いつの間にか俺の呼び方が黒川君から真一君に変わっている、昨夜飲んでる途中からだったか?


「ふふ、そんな他人行儀な呼び方じゃなくって真奈美って呼んで。」


妖艶な笑みを浮かべる柴田さん。


嫌な予感がする。

可能ならば今すぐに逃げ出したい、この後に柴田さんの口から発せられる言葉を聞きたくない。だが無慈悲にもその言葉は発せられてしまった。残念ながら俺にはそれを阻む術など無かったのだ。


「昨夜は凄かったわ。真一君…」


本日も閲覧ありがとうございました。

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