第二話 とある使い魔と双子のやべーやつ(後編)
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「アイツらの親父は怪異に殺された」
絞り出す様にそう言って、蔵王のおっさんは黙り込んでしまった。ひたすら無言で出てきたビールを煽り、モツ煮と焼き鳥を口に詰め込むだけ。だいたい二時間ぐらい居酒屋に居たが、とても美味そうに食っていたとは言い難かった。いや、モツ煮も焼き鳥も凄く美味しかったですよ?店の名誉の為に言っておくと、蔵王のおっさんが不味そうに食ってただけで、料理の味は良かったです。ホントに。
蔵王のおっさんとはホテルのロビーで分かれて俺は予約してあった部屋に入った。良くあるビジネスホテルだったが、特捜局が奮発してくれたのか風呂とトイレは別だった。
風呂にお湯を溜めながらスーツを脱いでベッドに寝転がる。考えるのは大河原姉妹の父親の事だ。スマホで検索すると当時の事件の事はニュース記事が今でも残っていた。現役警察官が殺害された猟奇殺人事件と言う事で当時は大きく取り上げられていたらしい。
事件があったのは約五年前、俺がちょうど異世界に召喚された頃の事だった。当時大河原姉妹は小学五年か六年生、母親を幼い頃に亡くしていた姉妹は蔵王のおっさんに引き取られた、って訳か。
俺は知らなかったし、敢えてマスコミも流さずに秘匿していたんだろうが、怪異絡みの事件自体は昔からあったようだ。ただ、それが急増して怪異対策室が設立されるきっかけになったのが、この大河原警部の死亡事件だった。
「五年前か…偶然にしては引っかかる…」
考え込んでいるうちに溢れそうになったお湯を慌てて止めてから、服を脱いで浴室に向かった。明日は特捜局の幹部クラスとの増員計画の打ち合わせが朝からある。大河原姉妹は学校が終わってから訓練に合流するとの事だ。
風呂で暖まった身体を冷ますように暫く椅子に座ってクーラーの風を浴びてからベッドに入った。隣の蔵王のおっさんの部屋からドタバタ暴れるような物音と若い女の笑い声が聞こえたが、気のせいだろう。
俺は何も知らない。何も聞いていない。
***
翌朝、ロビーで待っていると、蔵王のおっさんは左右の腕に大河原姉妹をぶら下げて現れた。
「昨夜はお楽しみでしたね?」
とりあえず宿屋の主人が良く言うであろう慣用句を口にしておく。
「勘弁してくれ、昨夜寝る間際になってからルームサービスを装って部屋に乱入してきやがったんだぞ。まったくこのホテルの警備体制はどうなってやがる」
ホテルの警備体制をどうこう言う前にいい歳したおっさんが女子高生を二人連れて部屋から出てきたら事案だろうが。ほら見ろ、フロントのホテルスタッフが警察に電話しようか迷ってるわ。スタッフさーん、電話して警察よんでもダメですよ、コイツが警察官なんですよ。むしろ警察官淫行不祥事って事で新聞社かテレビ局に電話した方がいいですよ?
「黒川君、ろくでもない事考えてない?」
「いや?どうやって淫行不祥事警察官に社会的な制裁を加えるか考えていただけだよ?」
「そもそも淫行してないし、俺はもう警察官じゃないからね?」
「パパ、お仕事クビになってもアタシたちが養ってあげるから大丈夫だよ〜」
「…そう。私たち二人で子供は八人は産む予定だからパパは子育てで忙しくなるし、仕事なんてしなくてもいい…」
いまだ疑いの眼差しを向けるホテルスタッフに渾身の愛想笑いを返してチェックアウトすると、大河原姉妹を学校に追いやってから、俺たちは警視庁本庁舎に向かった。
ギリギリまで「どうせパパと結婚して退学するんだから高校なんて行かなくても大丈夫」「妊娠したまま高校に通うのも大変ですし、今日退学届を出してきます」などと喚き散らす大河原姉妹を何とか宥めるのに時間を費やしてしまったせいで、元怪異対策室東京支部第二課長の柴田さんとの面談に遅れそうになってしまった。
「よぉ柴田、久しぶり」
「久しぶりね、この淫行警察官。歩く青少年保護育成条例違反かしら?」
警視庁本庁舎の会議室で待っていたのは柴田真奈美さん三十四歳独身。オーダーメイドの高そうなスーツにセミロングのゆるふわモテ髪、第二ボタンまで開けたシャツの胸元から覗くのは押しも押されぬ立派な巨乳。もうね、大好きですこういうお姉さん。理想の女上司って感じがする。
「余計なお世話だ。お前んとこはどうなってんだよ、ちゃんとアイツらに教育してんのか?」
「東京支部は捜査員の自主性を重んじているのよ。だから彼女たちが誰と恋愛しても文句は無いわ。貴方も起訴されたく無かったらちゃんと結婚を視野に入れた真剣交際ですって取り調べで言うのよ?」
「俺が手を出す前提の話は辞めてもらおうか。アイツらは娘みたいなもんだ。そんなふうには見れねえよ」
「この玉無しのチキン野郎、無いのは髪の毛だけにしときなさいよ」
うわ、蔵王のおっさんに会心の一撃。
これ立ち上がれないんじゃないかな。
怪異対策室は解体され、現在は特殊事案捜査局に所属し、東京支部の支部長を務めている柴田さん。以前は警察の一組織だった為、支部長は国家公安委員会の暇な爺さん連中が歴任していた名誉職だったが、今では内閣直轄の独立した司法機関として、実質的に支部のトップだった課長クラスが支部長の職に就いていた。
「アイツらの話は今は置いておくとして、捜査員の増員についてだったか。そんな簡単な話じゃねえぞ。今いる捜査員は俺たち管理職を含めても五十人足らず、本来なら各市町村とまでは言わないが各県に十人ずつぐらいは配備したいところだ」
「単純に今の十倍ね、ま、私でも無理だと思うわ」
柴田さんが言うには、現在上がっている捜査員増員計画の素案は三つあった。どれも実現性に乏しい案ではあったが…
一つ目は過去にひっそりと怪異と戦って来たとある仏教宗派から修行僧を派遣してもらうと言うもの。だが、以前にも述べた通り彼らは普段は自分の管区の寺で住職をしており、特捜局への常駐は難しいと断られた経緯があった。
次の案は内閣府から出たらしいが、魔獣被害で両親を亡くした孤児を捜査員として採用しようとするもの。確かに魔獣に対する復讐心は捜査員としての高いモチベーションに繋がるが、子供を道具のように使おうとする案に蔵王のおっさんがブチ切れて、立案した内閣府の担当大臣に企画書を投げつけて怒鳴り散らしたって話だ。勿論こんな案は即却下された。
で、三つ目の案。多分これが大本命だろう。内容は至って簡単、一般の警察官を強化して特捜局の捜査員が現着するまで時間を稼ぐ、または可能なら警察官に怪異討伐を任せると言うもの。
警察官を含む警察職員は全国に三十万人近く存在する。確かに一般の警察官が戦力になれば特捜局の負担は大幅に減るだろう、だが殆ど全ての警察官は魔力も特殊な能力も持っていない。その為、この案の実現は一番難しいと考えられていた。
あれ?でも俺なら何とかできるんじゃね?
「あー、蔵王のおっさん、柴田さん。多分第三案だけど何とかできるわ、うん」
それまで侃侃諤諤の言い合いを続けていた二人は、突然差し込まれた俺の呑気な一言にポカンと口を開けてこちらを見ている。
「黒川君、今、何とかなるって言ったか?」
「まさか、空耳よね?」
未だ半信半疑の二人に向かって俺は言った。
「ああ、出来る。ただ、しっかり対価は払ってもらうけどな?」
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