第十三話 とある使い魔のドレスアップ計画
本日二本目の投稿です。頑張った。。。
ご褒美ください
熊退治と言う名の慰安旅行から帰ってきた翌日の昼過ぎ、ふらっと本吉捜査員がカフェリトルウィッチに顔を出した。
蔵王のおっさんに比べてそこまで魔力の多くない彼女は元々の戦闘スタイルだった魔力砲を使うのを辞め、俺の助言のもと付与系の魔法を習得しようと店に日参しては俺と話す間柄となっていた。正直純粋な魔力を放出するのって燃費悪いんだよね。捜査員に選ばれるくらいだから本吉さんも普通の人に比べたら魔力は多いんだろうけど、たいして威力の出ない魔力砲をポンポン撃ってても効率良くないし。
最初はツンケンしていた本吉さんも店に通う度に表情が柔らかくなってきたようで、俺に対する当たりも以前程キツくない。ぶっちゃけ最初は本吉さん苦手だったんだよね、何かギャルっぽいし。ぼっちで陰の者の俺としてはギャル怖いからね。
「本吉さんいらっしゃい」
「あ、マスター、今日もお邪魔しますね」
それにしても一番びっくりしたのは本吉さんが女子高生だったって事だよね。最初に会った時はスーツ着てメイクもバシっと決まってたから米山さんと同じくらいに見えたんだけど、制服着て店に来た時は焦ったね。
「いつものカフェラテでいい?」
「はい、ありがとうございます」
店には俺の他にはよし江(犬モード)とレオしかいない。お客がいないと思って、よし江はいつもの奥のボックス席で寝ているし、レオはカウンターの端に座ってコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。まあ良くある昼下がりの暇な店内の風景だ。
ちなみに香苗ちゃんと絵梨花ちゃんはミァを連れてS駅前のアーケード通りまで洋服を買いに出かけた。捜査員の給料の大半を家に入れている為、岩沼家の金銭状況は劇的に改善されている。デブ猫ライアンは昼飯食ってすぐに自室に引っ込んでお昼寝中だった。
「忘れてました、マスター、これ課長から預かってきたんですが」
そう言って本吉さんは分厚い封筒をカウンターの上に置いた。
「マーダーグリズリーの討伐報酬です。香苗ちゃんと絵梨花ちゃんにも渡してあげてください」
「わかった、預かるよ」
封筒の厚さから三束くらいだろうなと当たりを付けていたが、開けてみるとやはり帯封のされた札束が三つ入っていた。俺はそこから一束抜き取ってカウンターの端に座っていたレオに渡した。
「レオ、こないだの熊狩りの報酬だそうだ。ライアンと二人で分けるといい」
「ふむ、これでどれくらいの価値があるんだ?紙で出来た金なんて向こうの世界には無かったからな、価値がわからん」
「あー、そうだな。金貨十枚くらいか?こっちの世界と向こうじゃ物価も違うが、まあそんなもんだろう」
俺が何気無く言った一言を聞いて、驚きに目を見開くレオ、ヨーロッパ系イケメンが台無しだ。ほらほら、そんな口開けてると顎外れるぞ。
「マーダーグリズリー程度を狩るのについて行っただけで金貨十枚だと?しかも俺とライアンは何もしてないって言うのに…」
レオが驚くのも無理無いか。
向こうの世界でマーダーグリズリーを狩っても金貨二枚が良いところ。しかもそれをパーティで分けるもんだから身入りはさらに少なくなる。貨幣価値は銀貨一枚千円程度、それが百枚で金貨一枚と言ったところだ。
「ありがたく受け取っておこう」
レオに鷹揚に頷くと、カウンター裏の書類棚から封筒をもう一枚だして、百万円の束一つをそこに移した。香苗ちゃんと絵梨花ちゃんに一束ずつ渡す為だ。
「あれ?マスターの取り分は?」
「俺はいいよ、怪異対策室と正式に契約してる訳じゃないしな」
「お金持ちは言う事が違いますねぇ、そうだマスター、今度私とデートしません?欲しい鞄があって」
「ダメダメ、十年後くらいに出直しな」
まったく、今どきの女子高生が何を言ってるんだか。こんなおっさんとデートしても仕方ないでしょうに。
「うーん、釣れないかー」
「当たり前だ。女子高生とデートして捕まりたくないからな」
本吉さんに苦笑い混じりにそう返すと、今まで奥のボックス席で寝ていたよし江が起き上がってこちらに歩いて来た。
「店長、私の分は無いんですか?」
「あるわけないだろ、お前とミァには喫茶店の店員としての給料払ってるだろうが」
「ええー、愛する妻にお小遣いの一つや二つあげたってバチは当たりませんよ?」
「誰が妻だ。いつお前と結婚したんだよ」
全く勘弁してくれ。
別によし江が嫌って訳じゃ無いけど、金目当てなのを隠そうともしないからな、コイツは。俺だってまだ若いんだから損得で結婚なんてしたくないんですよ!
「別にお金だけが目的って訳でも…店長のバカ…」
なんかよし江が小声でボソボソ呟いていたが、その言葉が俺の耳に入る事は無かった。
***
その後、本吉さんに魔力付与についてレクチャーをしつつ午後のお客さんを捌いていると、香苗ちゃん、絵梨花ちゃん、ミァの三人が買い物から帰ってきた。S駅前にあるファッションビルの紙袋を提げている。
「あー疲れたわ。真一、アイスコーヒーちょうだい」
「ただいま戻りました。私には冷たいストレートティーをお願いします」
「ただいまニャ。コーラフロート飲みたいニャ〜」
三人は入口から一番近い四人掛けのテーブルに座ると思い思いに注文を告げた。
「はいはい、今用意してやるから大人しく待っててくれ」
トレイに三人分の飲み物とサービス代わりに売れ残ったケーキを乗せてテーブルに向かう。
「はいよ、お待ち遠さま」
「ありがたくいただくわ」
「ありがとうございます、お兄さん」
「やった、ケーキニャ!」
一斉に飲み物とケーキに手をつける三人の少女。ミァは十四歳だが、胸以外は小柄で背も低い為こうして三人で座ると仲のいい同年代の友達同士にも見えるな。うん、胸以外は、だけど。
「あー、そうだ、熊退治の報酬預かってるから渡すぞ。デビュー戦のファイトマネーなんだから大事に使えよ」
そう言って封筒を一つずつ香苗ちゃんと絵梨花ちゃんに渡す。
「ありがとうございます。お母さんに渡しますね」
「ふーん、あの程度の熊で一束なら悪く無いわね。貯金しておくわ」
しっかりした小学四年生でお兄さん嬉しいよ。
でも熊退治の話を始めたらさっきまでご機嫌でケーキを食べていた絵梨花ちゃんがプリプリと怒り出した。
「せっかくのデビュー戦なのに学校の体操服ってのがいただけなかったわね。せっかく魔法少女になったんだから、ちゃんとそれっぽい衣装を用意してくれなきゃ」
魔法少女っぽい衣装か…確かに魔法少女になりたい絵梨花ちゃんにとっては重要なポイントかもしれないけどさ…
「ねえ真一、貴方私たちのマネージャーでしょ?魔法少女の衣装くらい用意できないの?」
誰がマネージャーだ。
俺はあくまで喫茶店の店主です。まあ香苗ちゃんの使い魔だけどさ。衣装ねぇ、素材は用意できない事もないけどデザインがなあ
俺が絵梨花ちゃんの無茶振りに頭を抱えているとそれまでカウンターで大人しくコーヒーを飲んでいた本吉さんが声をあげた。
「香苗ちゃん、絵梨花ちゃん、魔法少女のコスチューム私がデザインしてあげようか?」
やけに嬉しそうにそう言った彼女の目は、驚くほどにキラッキラしていた。
本日も閲覧ありがとうございました。
 




