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第十二話 とある使い魔と荒ぶるのじゃロリ

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「あ、あの…おじさんは不思議な力を持っていますよね…?」


真っ黒い髪を腰まで伸ばした少女はそう言ってこちらを見上げている。宿の女将さんの娘なんだろう、お揃いの和服を着ていた。


「あ、ああ、持ってるけど…」

「おばあちゃんを、おばあちゃんを助けて下さいっ」


おばあちゃん?怪我か?病気か?余程の重症じゃなければ治すだけなら問題無いが、そもそもこの子は何で俺が魔法を使えるってわかったんだ?


脚にしがみついたまま泣きじゃくる少女を宥めながら手を繋いでロビーに向かうと…


「お兄さん、また新しい女ですか?」


笑顔なのにまったく目が笑っていない香苗ちゃんが待っていた。


***


泣きながら香苗ちゃんと絵梨花ちゃんに事情を説明している和服の少女は和久谷有希、この旅館を経営する和久谷家の一人娘。元々和久谷家は鬼瘤山に祀られた山の神を奉じる神職の家系らしく、人ならざるモノを視る力が有ると言う。


「私は祖先の血が濃かったのか、家族の中でも特に良く見える方で…」


有希ちゃんはそう言って俺たちを見回す。


「ライオンさんが二人、猫耳の女の子、鬼の気配のする女の人…他の人は普通の人間だけど、とてもとても強い力を持っている…」


驚いた…

今はワイルドブラッド三兄妹は人間の姿をしているし、傍目から見て普通の人間にしか見えないよし江、その正体まで彼女は言い当てた。


「その中でも貴方は、何か特別な力を…」


そこまで視えるのかよ。

続きを口にされたくなかった俺は遮るように有希ちゃんの言葉に自分の言葉を重ねて立ち上がった。


「君の事は良くわかったよ。おばあちゃんの所に案内してくれるかい?」


浴衣から着替えて有希ちゃんの後に続くのは、俺、香苗ちゃん、絵梨花ちゃん、ミァの四人、大人たちは酔いが醒めていない様で部屋に居残りだ。


旅館の奥に向かうと思っていたら、有希ちゃんは裏口から外に出て、鬼瘤山に向かう細い獣道を登って行った。おばあちゃんって言うくらいだから旅館内にある家族の居住スペースに寝てるもんだとばかり思っていたが…何で山歩きしてんの?


三十分程道なき道を掻き分けて山を登って行くと急に目の前が開け、小さな沼とそのほとりにある小さな社が現れた。登ってきた時間から鬼瘤山の中腹辺りだろう。


「おばあちゃん、居るー?」


言うや社の扉をドンドンと叩く有希ちゃん。すると社の中から不機嫌そうな声が返ってきた。


「妾を婆と呼ぶなと何回言ったらわかるのじゃ、有希よ…妾はまだぴちぴちじゃよ?」


細く開いた扉の隙間から真っ白い蛇が顔を出した。どうやら有希ちゃんが言うおばあちゃんとはこの白蛇さんのようだ。本人は嫌がっているが…


「おばあちゃん、怪我してるんでしょ。治せそうな人連れて来たから恥ずかしがって無いで出てきてよ」

「ぎゃわー!やめるのじゃよー。人が多いと恥ずかしいのじゃよ?」


有希ちゃんが逃げようとする白蛇さんの尻尾を掴んで社から引き摺り出すと、白蛇さんは観念したように俺たちの前でとぐろを巻いた。


「無茶しおってからに。尻尾が取れたらどうする気じゃ」


弱々しく呟く白蛇さんの身体には無数の傷跡が見える。所々血も滲んでおり、動くのも辛そうだ。


「すまんのじゃお客人よ。有希が無理やり連れて来たのじゃろ?妾はこの鬼瘤山一帯の土地神をしておる(みずち)と言う。見ればわかるようにこのザマでの、何の構いもできんのじゃがゆっくりしていくといいのじゃよ?」

「ゆっくりしていってね、じゃねーよ。怪我してんだろが。治してやっからちょっとこっち来い」


噛まれないように白蛇さんの首根っこをむんずと掴んで持ち上げてから、回復魔法で傷を治していく。神気もだいぶ減ってるみたいだから補充してやるか。


「お、お主…この力は」


向こうの世界でもそうだったが、神気、神の持つ力は人々の信仰によって高められ、信仰を失った神は人々の記憶と共に消えていった。神気は神が神たる力であり、一介の人間に過ぎない俺が使えるはずはないんだよ、本当ならな。まあ長くなるからこの話は今はやめておこう。いつか語る日も来るだろ。


「詳しくは言えないが、まあアンタが思ってる通りの力だよ。ほれ、治ったぞ」

「おばあちゃんよかったね。おじさんありがとう」

「だから妾を婆と呼ぶなと言うとるじゃろうが…やれやれ、この姿になるのも数十年ぶりかのう」


(みずち)はそう言って有希ちゃんそっくりの少女の姿になった。


「信仰を失うと言うのも辛いものじゃな。消えかかって蛇の姿すら保てなくなった妾を見つけてくれた有希のお陰で消えずに済んでおるが…あのような熊ごときに敗れて手傷を負わされるとは、情けないものじゃ」


神気の尽きた状態でマーダーグリズリーに立ち向かい、負った傷すら癒せなかったと、蛟は悔しそうに語る。


「おばあちゃん、私だけじゃないよ。ウチに行こう?お父さんもお母さんも、従業員のみんなも、お仕事始める前にお山に向かって手を合わせてるんだよ。きっとおばあちゃんが姿を見せたら、みんな喜ぶから」

「じゃから妾を婆と呼ぶな、と…」


苦笑いを浮かべた蛟の頬を涙が一筋伝った。


***


結果、蛟は和久谷家に受け入れられ、有希ちゃんと一緒に和久谷家の一員として暮らす事になったようだ。社に住み、鼠や野鳥を獲って腹を満たしていた蛟にとって、人間界の食事はとんでもないご馳走だったようで、山に帰りたがる素振りは全く見せない。


「美味いのじゃ、一度でもこんな生活を知ったらもう山になんて帰れないのじゃ。妾はここの家の子になるんじゃよ?」

「もう、みっちゃんそんなに慌てて食べなくてもご飯は逃げないからね?あ、ほっぺにお米粒付いてる」


幼女ボディに変身した蛟は和久田家の皆さんからみっちゃんと呼ばれて可愛がられている。有希ちゃんとそっくりな顔立ちで、まるで双子の姉妹のようだ。


「真一、世話になったのじゃ。今宵はこの宿に泊まるのじゃろ?礼と言ってはなんじゃが、夜伽はどうじゃ?力も本調子とはいかず、この様な幼女ボディで申し訳ないが」

「間に合ってます」


即答する香苗ちゃん。


「ぴちぴちじゃよ?妾はまだ卵も産んだ事ないんじゃよ?」

「蒲焼にされたくなかったら黙ってましょうね?蛟さん?」


香苗ちゃんが怖いよ。

全く目が笑ってないし、右手に魔力を集めているのがわかる。あれぶっ放したら鬼瘤山の形変わるからね?やめようね?


「香苗ちゃん、みっちゃんを虐めないでぇ」

「いじめないよ?ちょっと教育するだけだから…」

「嫉妬は醜いのう。悔しいならカナエもエリカも真一が寝てる間に夜這いでもなんでもすれば良いんじゃよ?」

「なっ、絵梨花はそんなんじゃないわよ!」

「やっぱりこの蛇さん焼いた方が良いですね」

「強いオスは何匹もメスを侍らせるものニャ、だからボクはシン兄ちゃんに女の人が何人寄ってきても怒らないニャ、でも一番はボクに決まってるニャ」


雲行きが怪しくなってきた広間を出て、俺はそっと自室に戻った。


「神気か、いつか話さなきゃいけないだろうな。あの馬鹿野郎もいつまでもこのままにしておけないし…」


部屋には昼間から酔い潰れて寝ている大人たちの無残な屍が転がっているだけ。


俺の呟きは誰に聞き咎められる事もなく、春の風に溶けて消えて行った。


本日も閲覧ありがとうございました。

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