第十一話 とある使い魔と禿げと巨乳
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動けない…
辛うじて自由に動く首だけ動かして辺りを見回すと、寝袋に入った俺の左右から香苗ちゃんと絵梨花ちゃんが抱きつき、上にはミァが乗っていた。
しかも全員が身体強化魔法を無意識に使っているのか、全く引き剥がせる気がしない。
「ちょ、待って、おしっこしたい!」
テントの隙間からは光は入って来ない事から、まだ時間は明け方前だろう。やっべ、寝る前にビールなんて飲んだもんだから尿意がヤバい。
「うへへ、シン兄ちゃんのおっぱいが大変ニャ…」
なんだよその寝言は、俺のおっぱいがどうしたんだよ?気になるだろうが、そこで止めるんじゃないよ!牛乳か?俺の牛乳が出たのか?
一人ずつ引き剥がそうにも俺は寝袋の中にいる。割と高級品っぽい保温性抜群の奴だ。多分無理に動いたら寝袋が破れる。いや、動かなかったら俺のおしっこで寝袋がビシャビシャになるから、色んな意味で寝袋さんが死んでしまう未来は変えられない。寝袋さん何ですぐ死んでしまうん…?
膀胱がもう限界に近い。下っ腹が痛くなって来やがった。どんなに強力な魔法を使えようが、強靭な肉体を持っていようが自然の摂理には逆らえない。水分を取ったらおしっこは出るのだ。アイドルだって元勇者だって使い魔だってアメンボだっておしっこするんだよ!便意を我慢したまま古龍種と戦った時と同じくらいの危機感が俺を襲う。
「お願いします、どいてくれたら何でもしますから…」
俺の懇願に、寝入っていた筈の香苗ちゃんがカッと目を開いた。
「約束ですよ、お兄さん」
***
結果から言えば俺の尊厳は守られた。
幼気な少女三人に抱きつかれた状態でお漏らしをすると言う一部の人にとってはご褒美な事態だけは免れる事ができた。
寝直すのにも時間が半端だったのでテントから出て焚き火の番をしていると蔵王のおっさんが起きて来て横に座る。
「おはよう」
「おはよ、やっぱり年寄りだから朝早いのか?」
「言ってろ。ライオン二匹のいびきがうるさくてな、二度寝も出来やしねえ」
あー、あいつらのいびきマジで洒落にならねえからな。
「それとな、お前松島組の白石の事を白石くんって呼んでるみたいだが、アイツと俺は同級生だからな。俺の事ばっかりおっさん扱いしやがってよ、まったく」
マジか、蔵王のおっさん四十二歳かよ。
不自然にならないように注意しながら視線を蔵王のおっさんの頭部に向ける。うん、とても白石くんと同じ年齢には見えない。
「今俺の頭見ただろ?」
「わかる?」
「胸の大きい女性は男に胸をチラ見されてるのに敏感に気付くだろ?アレと同じくらいには察知できるな。そもそも俺は禿げてねえからな!これは禿げたんじゃなくて額が広くなっただけだ!」
一緒じゃねえか。
禿げの事はどうでも良い。むしろ巨乳さんは胸チラ見したらバレるって事の方が重要だ。これからはミァを見る時は注意しなければ。
「シン兄ちゃん、たまにボクの胸チラチラ見てるのは知ってたニャ。そんなこっそり見なくてもシン兄ちゃんなら触らせてあげてもいいニャ〜」
「気のせいだよ気のせい…」
いつの間に起きて来たのか、ミァは定位置とばかりに俺の膝の上に座る。ショートパンツにタンクトップ一枚ではミァの凶悪な大量破壊兵器が全く隠されていない。俺にもたれる様にして座るもんだから上から谷間が丸見えですよ?
「また見てるニャ」
「気のせい…」
いかん、このままでは俺の威厳と言う奴が家出してしまう。ミァは初めて会った時は今の香苗ちゃん、絵梨花ちゃんと一緒で九歳だった。もう妹みたいなものだし、欲情するなんてとんでもない!
「ボクはシン兄ちゃんと番いになるつもりだから、いくらでも見ていいし触っていいニャ。もうすぐ十五歳だし成人ニャ。結婚もできるニャ」
「残念でした。こっちの成人は二十歳だし結婚できるのも十六歳からよ」
「そうですね、今ミァちゃんに手を出したらお兄さん捕まっちゃいますね」
言われなくてもわかってるわ!
そもそも手ぇ出さんわ!
「そんなのおかしいニャ!社会が悪いニャ!きっと若い頃にモテなかったBBAが作った法律に決まってるニャ!!!若いうちから結婚したいと思ってる女の子はいっぱいいる筈ニャ」
おいやめろや、ややこしい敵作ってんじゃないよ。
「ほらお前ら、お喋りしてないで、いい加減朝飯食って温泉行くぞ。テントも片付けなきゃいけないし」
「「「はーい」」」
ホント勘弁してくれ。
今の時代、その手の発言はマズいんだよ。
頭を抱えながら立ち上がった俺に香苗ちゃんがニタリと微笑んだ。
「お兄さん、今朝の約束忘れないで下さいね」
***
キャンプ場を撤収した俺たちは鬼瘤温泉郷へとやってきた。鬼瘤温泉郷はM県O市鳴都温泉郷の一部で、鬼瘤山の麓一帯にある数件の温泉旅館の総称だ。
昼飯は旅館が立ち並ぶ国道沿いにあった鄙びた蕎麦屋で済ませた。東北人好みの真っ黒い醤油出汁に荒く切った麺が良くからんで美味かった。店構えも趣きある風情でなかなか良い。
蔵王のおっさんの運転するバスに揺られる事二十分、鬼瘤温泉郷の最奥に今夜の宿、和久谷亭は山に抱かれるようにして建っていた。
「いらっしゃいませ、ご予約のお客様でしょうか」
「県警の蔵王で予約していると思うんだが」
「蔵王様ですね、承っております。ようこそいらっしゃいました」
入り口を潜った俺たちに声を掛けたのは女将さんと思しき三十前後の女性、和服にアップにした髪が映える。うん、和風美女のうなじって良いよね。おいやめろ、蹴るなって。
「なんだか真一がムカつく笑顔だったわ」
「シン兄ちゃんはあのくらいの年頃の女性が昔から好きだったニャ」
「お兄さんがお母さん見て鼻の下伸ばしてたの、私忘れてませんから…」
不機嫌な子供たち三人にスネを蹴られながら、通された部屋に入る。今回は二部屋予約したようで男女で別れる事にしたが、男部屋の方が少し広かったので、夕食の膳は男部屋でみんなで食べる事になった。この辺は川魚が有名だし楽しみだな。
部屋に荷物を置いた後、子供たちとライオン兄弟が旅館入り口の土産物売り場兼売店に向かったので、俺、蔵王のおっさん、米山さん、よし江の四人は浴衣に着替えて明るいうちからビールの缶を開けた。
「ちょっとタバコ行ってくるわ」
酒も入ってヤニが恋しくなる。
ライオン兄弟が鼻が効くもんだから、あまり同じ部屋でタバコを吸うわけにもいかないし、ロビーの喫煙コーナーにでも行くか…
浴衣にスリッパでペタペタ音を立てて廊下を歩いていくと、目指すロビーの方から香苗ちゃんや絵梨花ちゃんと同じ歳くらいの少女がこちら目掛けて走って来る。
俺の正面で止まった少女は訝しげな目で俺を見てから、何かを決意したような目になって言った。
それはちょっと信じ難い問いかけだった。
「あ、あの…おじさんは不思議な力を持っていますよね…?」
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