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第九話 とある使い魔と行楽日和

読者様へのお願い

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更新するモチベがだいぶ変わります。


その日は割と早目に訪れた。

県北のI県との県境の山で身の丈五メートルにもなる熊が目撃されたとの情報がもたらされたのは四月も終わりに近づいたGW直前の事だった。


「熊ねえ…」


日本最大の獣害事件である三毛別羆事件の羆ですら三メートル強と言い伝えられている。そもそも本州に生息するツキノワグマは大きくても二メートル無いサイズだ。それが五メートルとなると…


「魔獣だろうな。恐らくはマーダーグリズリー」


レオがコーヒーを一口飲んでから言った。

俺が五年旅した異世界で、中央大陸の東に広がる大森林奥地に生息していた熊型の魔獣。


「でもこっちの世界には魔法使える奴もほとんどいないって話だったし、魔獣だっていなかったはずだろ?どうしてまたマーダーグリズリーなんかが」


…現れたんだろうな?

レオはそう言うと契約者である絵梨花ちゃんに目をやる。絵梨花ちゃんは初めての魔法少女としての任務にテンション爆上がりだ。


「ふんす」


こっちの世界に魔獣が現れている理由はさておいて、マーダーグリズリーなら香苗ちゃんと絵梨花ちゃん二人でも何の問題も無く倒せるだろう。ただのサイズのデカい熊だし。


冒険者ギルドの指定する討伐難易度はA +だから上級悪魔より危険度は高い。デカくて厚い筋肉を持ち、ほとんどの物理攻撃を無効化する為、殲滅力の高い魔法が使えないパーティーは出会った瞬間に詰む。そこを加味してのA +評価と言ったところ。


「キャンプ楽しみですね、お兄さん」


香苗ちゃんが良い笑顔でリュックにおやつを詰めている。GWにお出かけなんて父親を亡くしてからは無かった為、今回の任務よりマーダーグリズリーが目撃された山の麓にあるキャンプ場でキャンプするのが楽しみで仕方ないようだ。


日程はGW初日から二泊三日の予定、着いたら速攻で熊公をぶっ殺して麓のキャンプ場でテント泊、翌日は温泉街で軽く観光して旅館で一泊して帰ってくる。完璧な旅行計画じゃないか。行き先が県内なのがちょっと寂しいが。


あれ、熊ちゃん完全にオマケじゃないか。

キャンプと温泉がメインの、カフェリトルウィッチの社員旅行だよね?これ。


「僕温泉って初めてだな〜。シンくんの世界に来て毎日お風呂に入れるから幸せだな〜。お風呂大好き〜」

「そう言えばライアン兄ぃは水浴び好きだったのニャ。ボクは水浴びあんまり好きじゃなかったけどお風呂は好きニャ」

「おいシン、初日は何で野宿なんだ?着いてすぐにマーダーグリズリーを狩るのなら、野営する理由がわからんぞ。温泉旅館は美味い飯が食えるんだろう?初日も温泉旅館に泊まれば良いじゃないか」

「レオはホントに馬鹿ね。普段は都会に暮らしてるからこそ大自然の中でテント張って寝るのが楽しいんじゃない。非日常を楽しむのよ、非日常を。絵梨花の使い魔の癖にそんな事もわからないのかしら」

「俺にとってはこの世界全てが非日常みたいなものだからな。わざわざ理由も無いのに野営するのが理解できんだけだ」


みんな楽しみにしてくれているようで良かったよ。レオだけはキャンプと言う物がよくわかっていないようだけど。


「レオ、野営しながら焚き火で焼いた肉を食うのは美味いだろ。あと、ダチと野営するのも楽しいだろ?キャンプの楽しさってのはそう言うもんだと思っとけ」

「なるほど、それなら理解できるぞ。今のシンは死んだ魚みたいな目をしているが、俺たちと一緒に野営した時は満天の星を見て目をキラキラさせていたな。あの純粋だったシンは何処へ行ってしまったのか」


うるせーなー、余計な事思い出させやがって。生まれてこの方一編も日本から出た事無かったんだから、あんな星空見たら感動するに決まってるだろうが。


「レオ、その話もっと詳しく聞きたいわ」

「可愛いお兄さんとか最高ですね。私も是非聴きたいです」


あー、二人が食いついちゃったよ。

やめてくれよホントに、レオの野郎後で身体中の毛刈ってトイプードルみたいにしてやるからな、覚えとけよ。


それにしても…この手のイベントが好きそうなよし江が妙に静かだ。一人で壁に向かってブツブツ言ってる。怖っ!


「うふふ、小学生二人と中学生くらいの猫耳娘、オマケのライオン二匹。大人の女は私だけ。負ける要素が何処にも無いわ。やっぱり店長の妻の座は私のものですね。私の魅力にメロメロな店長はキャンプでも温泉宿でも私と一緒に寝るに決まってるわ。敗北を知りたい」


見なかった事にしよう…


***


GW初日、朝から風もなく晴れ渡った絶好の行楽日和。俺たちは蔵王のおっさんと怪異対策室情報分析官の米山さんの二人と一緒に県北の温泉街に向かっていた。俺を含めて九名の大所帯だが、蔵王のおっさんの運転する十四人乗りマイクロバスなら楽々だ。良く地方のコミュニティバスに使われてる奴ね。


席順は厳正なジャンケンの結果、運転席に蔵王のおっさん、助手席に俺。二列目はよし江と米山さん。三列目に魔法少女コンビ、最後部座席にワイルドブラッド三兄妹が並んで座っていた。


「シン!この馬のいない馬車は凄いな!かなりスピードも出るし、何より揺れないのが凄いぞ」


脳筋馬鹿が窓の外を眺めて大はしゃぎ。

香苗ちゃんと絵梨花ちゃん、ミァ、ライアンは四人でトランプに興じている。


「蔵王のおっさんさ、良くこんな車借りれたね。つーか別に蔵王のおっさんと米山さんは来なくても良かったんじゃ…」

「そんな連れない事言わないでくれよ真一君。たまにはおじさんものんびりしたいからね、温泉なんて何年ぶりだろうねえ」

「課長、今回は目撃情報のあった巨大な熊の調査なんですよ?もう少し緊張感持って下さいっ!」

「米山ちゃんは真面目だねぇ。もう少し肩の力抜かないと禿げるよ」

「課長でもあるまいし、私は禿げませんよ」


やめてあげて米山さん、蔵王のおっさんの額はもう限界なんだから!年頃の中年の頭髪事情はデリケートなんだよ!可哀想だろ!ウチも親父が禿げてるから他人事じゃねえんだよ!


「まあまあ米山さん、今日この車内には恐らく日本どころか世界最高戦力が揃っているんですよ。ちょっと大きい熊さんなんか私がさくさくやっつけますから、大船に乗ったつもりでいて下さい」


よし江の奴、俺の血吸ってパワーアップしたと思ってまた調子こいてるな。だがよし江、今回はお前の出番は無いんだよ。そもそも香苗ちゃんと絵梨花ちゃんのデビュー戦だし、それに巨大な熊と犬の戦いとか絵面的にも著作権的にもやべーやつなんだよ、わかれよ。どうせアレだろ?奥州の戦士たちとか言って仲間の犬探しに旅に出たりするんだろ?


「熊ごとき私の抜刀牙で…」


だからやめなさいよ、抜刀牙とか言うの。


「あー、よし江、お前今回留守番な」

「なんでですかっ!?」


その後不服を申し立てたよし江(人間モード)に二の腕を齧られたり、それを見た香苗ちゃんに「吸血鬼避けのマーキングです」とか言って首筋を吸われたりしたが、バスは二時間足らずで目的地の山の麓に辿り着いた。


さーて、森の熊さんでも探しに行きますか。


本日も閲覧ありがとうございました。

また次回更新でお会いしましょう。

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